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27話:シャムと再会
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午前も午後もスニタ先生のスパルタ授業はみっしり続く。
護衛はアールシュの≪分身≫がついているけど、時々ジャイア…もとい…セスの≪分身≫が来ることがある。
「魔法士対策の訓練はアールシュが適任だ」
そうセスが説明してくれた。
この館には結界が張ってあり、外部からも地中からもあらゆる干渉を受けないようになっている。
館に出入りする使用人からバークティ妃まで、外出したら敷地に入る前にきっちり調べられる。
今は訓練と護衛を兼ねて、奴隷の子たちの≪分身≫が夜は館の外に配置されて守っていた。
ここまで徹底しているのだから館の中は平気だと思うのに、密着護衛は続いている。
警戒が厳重な理由は一つ。アルジェン王子のせい。
「空間を歪めて移動する力をアルジェンサイドは持っているようじゃな」
以前森で襲われたとき、アルジェン王子は空間に溶けるように消えた。あれは空間を歪めて移動する魔法だとカルリトス老師は言っている。
そしてそんな芸当は、闇の異形でなければ出来ないとも。アルジェンサイドにも闇の異形のソティラスが加わっているかもしれなかった。
空間魔法を使われると、結界が役に立たない。
そのため護衛がつきっきりなのだ。
≪分身≫が護衛につくようになってから、シャムと顔を合わせる機会がなくなった。
私はほぼ館から出ることがないから、車で移動することもなくなったし、シャムはシャムで仕事がある。私も授業だなんだでシャムに会いに行けてない。当然護身術も習えていなかった。
でもそんなことは言い訳に過ぎない。
シャムに訊く勇気が出ないせいだ。
そしてアールシュもマドゥも、徹底して話そうとしてくれなかった。
***
「決戦まであと2か月かあ」
この世界に召喚されて、もう4か月が過ぎていた。
郷愁もだいぶ薄れてきちゃって、ホームシックなんて全然なりません。
黄金が乱舞する煌びやかな豪奢さにも、喋るチンチラにも、ソティラスに≪分身≫に、故郷の世界じゃ創作世界の出来事に括られるファンタジーにもすっかり慣れてきていた。そして改造されて変わってしまった自分の容姿にも。
珍しく早起きしたので、ラジオ体操でもするかと寝間着のまま中庭へ行った。
「うん、清々しい朝だ。ラジオ体操よーい」
「なんでえ、王女サマが寝間着でウロウロするなみっともない」
両腕を上にあげたところで、いきなり話しかけられギョッとする。
「シャ、シャム…」
「久しぶりじゃねえか。なんだあ、バケモンでも見たような顔をしやがって」
王女様相手にも不躾な口調とふてぶてしい態度が懐かしい。あんなに会いたかったシャムがこうして目の前にいる。
早起きは三文の徳っていうけど、まさかこれがそうなのかな。
「お、おいっ! なんで泣き出すんだっ」
「あれ」
なんだろう、涙がいきなりあふれてきて止まらない。
「おかしいな…」
へへっと笑いながら、でも一向に止まってくれない涙を慌てて手で拭う。ぽたぽたすごい激流状態よ。
「止まれ涙、もうなんでなのよ」
「落ち着け」
ぽんぽんっと大きな掌で頭を優しく叩かれて、止まらなかった涙がぴたりと流れを止めた。
恥ずかしさ半分上目遣いにシャムを見上げると、シャムは苦笑していた。
「止まったろ」
「うん」
ビックリした。
「おまえ、両手を上げてなにしようとしてたんだよ」
「ラジオ体操しようかと思って」
「なんじゃそりゃ」
「こっちの世界はラジオあってもラジオ体操ないの? 健康にイイんだよ。あっちの世界じゃ子供から大人までみんな知ってる健康体操なんだから」
「へー、じゃあやってみせろよ」
「いいよ、しっかりみてなさいっ」
「なによシャムってば、あんなに出鱈目な動きが出来るくせに、身体硬いじゃん」
「妙なところにキツく響く体操だなこりゃ…」
シャムは腰をトントン叩いて、地面に大の字になって寝転がった。私はその横に体育座りした。
「今日もイイ天気だ」
シャムはズボンのポケットをゴソゴソすると、吸いかけのタバコを取り出して口にくわえた。
それを横目で見ながら、私はずっと訊きたかったことを切り出した。
「あのさ…、前にシャンティ王女に護身術教えたから死んだって言ったじゃん。あれってどういうわけなのか、教えてよ」
安物のライターをカチカチさせながら、シャムは無言だった。喋ってくれると信じて、私は催促するようなことは言わない。息を押し殺すようにしてじっと我慢した。
「前の王女様は、とにかくおとなしい子だった」
青さを増していく空を見上げ、シャムは語りだした。
護衛はアールシュの≪分身≫がついているけど、時々ジャイア…もとい…セスの≪分身≫が来ることがある。
「魔法士対策の訓練はアールシュが適任だ」
そうセスが説明してくれた。
この館には結界が張ってあり、外部からも地中からもあらゆる干渉を受けないようになっている。
館に出入りする使用人からバークティ妃まで、外出したら敷地に入る前にきっちり調べられる。
今は訓練と護衛を兼ねて、奴隷の子たちの≪分身≫が夜は館の外に配置されて守っていた。
ここまで徹底しているのだから館の中は平気だと思うのに、密着護衛は続いている。
警戒が厳重な理由は一つ。アルジェン王子のせい。
「空間を歪めて移動する力をアルジェンサイドは持っているようじゃな」
以前森で襲われたとき、アルジェン王子は空間に溶けるように消えた。あれは空間を歪めて移動する魔法だとカルリトス老師は言っている。
そしてそんな芸当は、闇の異形でなければ出来ないとも。アルジェンサイドにも闇の異形のソティラスが加わっているかもしれなかった。
空間魔法を使われると、結界が役に立たない。
そのため護衛がつきっきりなのだ。
≪分身≫が護衛につくようになってから、シャムと顔を合わせる機会がなくなった。
私はほぼ館から出ることがないから、車で移動することもなくなったし、シャムはシャムで仕事がある。私も授業だなんだでシャムに会いに行けてない。当然護身術も習えていなかった。
でもそんなことは言い訳に過ぎない。
シャムに訊く勇気が出ないせいだ。
そしてアールシュもマドゥも、徹底して話そうとしてくれなかった。
***
「決戦まであと2か月かあ」
この世界に召喚されて、もう4か月が過ぎていた。
郷愁もだいぶ薄れてきちゃって、ホームシックなんて全然なりません。
黄金が乱舞する煌びやかな豪奢さにも、喋るチンチラにも、ソティラスに≪分身≫に、故郷の世界じゃ創作世界の出来事に括られるファンタジーにもすっかり慣れてきていた。そして改造されて変わってしまった自分の容姿にも。
珍しく早起きしたので、ラジオ体操でもするかと寝間着のまま中庭へ行った。
「うん、清々しい朝だ。ラジオ体操よーい」
「なんでえ、王女サマが寝間着でウロウロするなみっともない」
両腕を上にあげたところで、いきなり話しかけられギョッとする。
「シャ、シャム…」
「久しぶりじゃねえか。なんだあ、バケモンでも見たような顔をしやがって」
王女様相手にも不躾な口調とふてぶてしい態度が懐かしい。あんなに会いたかったシャムがこうして目の前にいる。
早起きは三文の徳っていうけど、まさかこれがそうなのかな。
「お、おいっ! なんで泣き出すんだっ」
「あれ」
なんだろう、涙がいきなりあふれてきて止まらない。
「おかしいな…」
へへっと笑いながら、でも一向に止まってくれない涙を慌てて手で拭う。ぽたぽたすごい激流状態よ。
「止まれ涙、もうなんでなのよ」
「落ち着け」
ぽんぽんっと大きな掌で頭を優しく叩かれて、止まらなかった涙がぴたりと流れを止めた。
恥ずかしさ半分上目遣いにシャムを見上げると、シャムは苦笑していた。
「止まったろ」
「うん」
ビックリした。
「おまえ、両手を上げてなにしようとしてたんだよ」
「ラジオ体操しようかと思って」
「なんじゃそりゃ」
「こっちの世界はラジオあってもラジオ体操ないの? 健康にイイんだよ。あっちの世界じゃ子供から大人までみんな知ってる健康体操なんだから」
「へー、じゃあやってみせろよ」
「いいよ、しっかりみてなさいっ」
「なによシャムってば、あんなに出鱈目な動きが出来るくせに、身体硬いじゃん」
「妙なところにキツく響く体操だなこりゃ…」
シャムは腰をトントン叩いて、地面に大の字になって寝転がった。私はその横に体育座りした。
「今日もイイ天気だ」
シャムはズボンのポケットをゴソゴソすると、吸いかけのタバコを取り出して口にくわえた。
それを横目で見ながら、私はずっと訊きたかったことを切り出した。
「あのさ…、前にシャンティ王女に護身術教えたから死んだって言ったじゃん。あれってどういうわけなのか、教えてよ」
安物のライターをカチカチさせながら、シャムは無言だった。喋ってくれると信じて、私は催促するようなことは言わない。息を押し殺すようにしてじっと我慢した。
「前の王女様は、とにかくおとなしい子だった」
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