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21話:セス到着
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暫く私は茫然と廊下に佇んでいた。
「俺が護身術を教えたから、本物のシャンティ王女は死んだんだ」
そう言ったシャムの言葉は、核弾頭並みの破壊力がありすぎた。ショッキングすぎて他のことが考えられない。
「姫様? このようなところにどうされましたか」
侍女のマドゥが心配そうに顔を覗き込んできた。
「お顔色が真っ青じゃないですか! 早くお部屋へ、歩けますか?」
「あ…、うん…」
「お支えします、さあ参りましょう」
マドゥに支えられながら、私は重い脚を引きずるようにして部屋に戻った。
「お座りください。お水を…」
ただならぬ私の様子に、マドゥは慌てたように水差しから黄金のコップに水を注ぐ。
マドゥに手渡されたコップを、私は口に運ぶことができなかった。ただコップを握り、ぼんやりと定まらない視線を部屋に漂わせていた。
普段ぶっきらぼうで、王女になった私にもぞんざいで偉そうなシャム。でも、時折気を利かせてくれたり、心配をしてくれる優しさも見せてくれる。
異世界から呼び出され、問答無用で改造され、とんでもない計画に巻き込まれた私は、シャムに実はとても救われていた。
恋愛感情とかそういうんじゃなくて、ためっぽい感じが元の世界にいるようで嬉しかったりする。
今では王女様だから、気軽に行動できないしカイラやルドラと対等に話も出来ない。なんだかとても寂しい感じがしてて。だからシャムと喋っていると気楽さを感じられる。
そんなシャムが言った核弾頭発言は、物凄いショックだったりする。
私はコップをテーブルの上に置いて、ベッドにもぐりこんだ。
ただ眠りたかった。
***
「よし、一晩経って気持ち復活!」
ぐっすり眠れたから、激しく打ちのめされた気分は消えていた。もちろんショックが消えたわけじゃないけど。
元気が戻った私の様子に、部屋に入ってきたマドゥは安堵したように微笑んだ。
「おはようございます姫様、今朝はカルリトス様からお話があるようです」
「おはよう、なんだろうね話って」
マドゥに手伝ってもらって着替え、すぐに食堂へ向かった。
食堂にはバークティ妃と老師とアールシュが待っていた。
テーブルの上にちょこんと座り、カルリトス老師はクッキーを齧っていた。
草とかクッキーとか、老師は割と微笑ましいものを食べている。どちらかというと、血の滴る骨付き生肉とかバリボリ音を立てて食べているイメージしかナイんですが。
「今日からそなたはアールシュを連れて、弓術士と銃器士の≪分身≫を出すソティラスを探してくるのじゃ」
「はい。でもアールシュは寿命が見える?」
「うむり。そこは問題ないし、タイプも見分けがつくのじゃ」
「なにそれ、ソティラスにする前に判るとか老師より超便利!」
老師の齧っていたクッキーがデコにストライク。
「いでっ」
「やかましいわい!」
数千年を生きる老師に本音を言ってはダメだってことを忘れてました。見た目がチンチラだからつい。
「アルジェン王子の動きが気になるからの、もうソティラス選びに時間をかけている場合じゃなくなったのじゃ」
そう、王子自らカリオフィラス領に乗り込んでくる行動力。こちらも早く戦力を整えないとマズイ状況になっていた。
3か月後、今の世継ぎであるラタ王女が死ぬ予定だ。それを待たずにライバルの私を自ら始末しにくるとは、さすがのバークティ妃もカルリトス老師も予想していなかったらしい。
「あ、着いた」
これまで黙っていたアールシュが、ぴくッと肩を震わせた。
「王女、セスが到着しました。契約を」
いつの間にかアールシュの傍らに、黒いものがゆらゆらと立っていた。
「顔ナシ!?」
って思わず言っちゃうほどよく似ている、黒くて影が薄くて白い仮面付けている謎いモノが。
「セス、人間の姿を取れ」
アールシュに言われてセスはグニョグニョと身体を変化させ、やがて…
「ジャイアン…」
そう、ジャイアンをリアル化したような美しくないガタイの少年に姿を変えていた。
今までの3人が美しかったから、全員そういうもんだと思い込んでいたけど。これは予想外。
指が伸び悩む私を見て、アールシュはクスクスと笑った。
「セスにも王女の好みは伝えたんですが、どうも気に入らなかったようです」
「そか…」
見た目に駄々をこねてもしょうがない。むっすりするセスの額に指を押し付け「我に従え」と呟いた。
セスは「ふんっ」と荒い鼻息をすると、影を伸ばして≪分身≫を呼び出した。
「うおお…」
2メートルは楽勝に超えているほど大きなガタイをした、剣を10本纏わせたゴリラみたいな剣士の≪分身≫だった。
「俺が護身術を教えたから、本物のシャンティ王女は死んだんだ」
そう言ったシャムの言葉は、核弾頭並みの破壊力がありすぎた。ショッキングすぎて他のことが考えられない。
「姫様? このようなところにどうされましたか」
侍女のマドゥが心配そうに顔を覗き込んできた。
「お顔色が真っ青じゃないですか! 早くお部屋へ、歩けますか?」
「あ…、うん…」
「お支えします、さあ参りましょう」
マドゥに支えられながら、私は重い脚を引きずるようにして部屋に戻った。
「お座りください。お水を…」
ただならぬ私の様子に、マドゥは慌てたように水差しから黄金のコップに水を注ぐ。
マドゥに手渡されたコップを、私は口に運ぶことができなかった。ただコップを握り、ぼんやりと定まらない視線を部屋に漂わせていた。
普段ぶっきらぼうで、王女になった私にもぞんざいで偉そうなシャム。でも、時折気を利かせてくれたり、心配をしてくれる優しさも見せてくれる。
異世界から呼び出され、問答無用で改造され、とんでもない計画に巻き込まれた私は、シャムに実はとても救われていた。
恋愛感情とかそういうんじゃなくて、ためっぽい感じが元の世界にいるようで嬉しかったりする。
今では王女様だから、気軽に行動できないしカイラやルドラと対等に話も出来ない。なんだかとても寂しい感じがしてて。だからシャムと喋っていると気楽さを感じられる。
そんなシャムが言った核弾頭発言は、物凄いショックだったりする。
私はコップをテーブルの上に置いて、ベッドにもぐりこんだ。
ただ眠りたかった。
***
「よし、一晩経って気持ち復活!」
ぐっすり眠れたから、激しく打ちのめされた気分は消えていた。もちろんショックが消えたわけじゃないけど。
元気が戻った私の様子に、部屋に入ってきたマドゥは安堵したように微笑んだ。
「おはようございます姫様、今朝はカルリトス様からお話があるようです」
「おはよう、なんだろうね話って」
マドゥに手伝ってもらって着替え、すぐに食堂へ向かった。
食堂にはバークティ妃と老師とアールシュが待っていた。
テーブルの上にちょこんと座り、カルリトス老師はクッキーを齧っていた。
草とかクッキーとか、老師は割と微笑ましいものを食べている。どちらかというと、血の滴る骨付き生肉とかバリボリ音を立てて食べているイメージしかナイんですが。
「今日からそなたはアールシュを連れて、弓術士と銃器士の≪分身≫を出すソティラスを探してくるのじゃ」
「はい。でもアールシュは寿命が見える?」
「うむり。そこは問題ないし、タイプも見分けがつくのじゃ」
「なにそれ、ソティラスにする前に判るとか老師より超便利!」
老師の齧っていたクッキーがデコにストライク。
「いでっ」
「やかましいわい!」
数千年を生きる老師に本音を言ってはダメだってことを忘れてました。見た目がチンチラだからつい。
「アルジェン王子の動きが気になるからの、もうソティラス選びに時間をかけている場合じゃなくなったのじゃ」
そう、王子自らカリオフィラス領に乗り込んでくる行動力。こちらも早く戦力を整えないとマズイ状況になっていた。
3か月後、今の世継ぎであるラタ王女が死ぬ予定だ。それを待たずにライバルの私を自ら始末しにくるとは、さすがのバークティ妃もカルリトス老師も予想していなかったらしい。
「あ、着いた」
これまで黙っていたアールシュが、ぴくッと肩を震わせた。
「王女、セスが到着しました。契約を」
いつの間にかアールシュの傍らに、黒いものがゆらゆらと立っていた。
「顔ナシ!?」
って思わず言っちゃうほどよく似ている、黒くて影が薄くて白い仮面付けている謎いモノが。
「セス、人間の姿を取れ」
アールシュに言われてセスはグニョグニョと身体を変化させ、やがて…
「ジャイアン…」
そう、ジャイアンをリアル化したような美しくないガタイの少年に姿を変えていた。
今までの3人が美しかったから、全員そういうもんだと思い込んでいたけど。これは予想外。
指が伸び悩む私を見て、アールシュはクスクスと笑った。
「セスにも王女の好みは伝えたんですが、どうも気に入らなかったようです」
「そか…」
見た目に駄々をこねてもしょうがない。むっすりするセスの額に指を押し付け「我に従え」と呟いた。
セスは「ふんっ」と荒い鼻息をすると、影を伸ばして≪分身≫を呼び出した。
「うおお…」
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