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17話:チャベスとは…
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「いきなり勝負を挑んで、軽率だった」
そうルドラに謝られた。
「まさか足がつるとは思わなかったんだ」
「ま、まあ、私も思わなかったよ…」
準備体操侮りがたし。泳ぐ前に準備体操は必ずやりましょう。
「んじゃ、早速キミの≪分身≫を見せてもらいましょうか!」
「はい」
ルドラは素直に返事をすると、意識を凝らした。
後ろに黒い影がスウッと伸びていき、人間の形を作って浮かび上がる。そして影は大人の男を吐き出した。
「ナイスよナイスよおおおお!」
キラキラ目が輝き、思わず私はルドラの≪分身≫に飛びついた。
長身で濃紺のアオザイのような服がビシッと体格を際立たせていて、いわゆる細マッチョってやつかしら。憂いを帯びたような切れ長の目に凛々しい顔立ち。
「予想をはるかに上回るイイ男ねえ~」
「は、はあ…」
困ったようなルドラの≪分身≫は、どうしていいか判らない表情を浮かべていた。
「おぬしは剣士じゃな。うむうむ、剣が6本、優秀じゃな」
ルドラの≪分身≫の周りに、細身の片手剣が6本取り囲むように浮いていた。カルリトス老師は嬉しそうな口調だ。
私はルドラの≪分身≫から離れて剣をよく見る。どんな仕組みだろう、何故浮いているの?
「剣士はああして剣を出して出現する。身体の周囲に剣が浮いておるのは、鞘に収まった状態のようなものじゃ。あの浮いた剣を使い、あらゆる芸をこなす」
「芸…? 剣士だったらチャンバラするんじゃないの?」
「モチロン手に握って剣を振るうが、浮いた剣を操作して遠隔攻撃や防御に使うことができる」
「ほうほう」
「剣士の出す剣は実力に反映されたもの。剣の数が多い程能力が高い証なのじゃ」
「へえ…」
6本もあるってことは優秀ってこと。しかも顔も美形だし、萌えるわあ。
「剣は最大何本出せるものなの?」
「10本じゃの」
「訓練次第で増えたりするのかな」
「本数はあらかじめ決まっておるから、増やすことはできないのう」
「そっか」
どんな使い方をするのか、訓練が楽しみだね。
「まずは、シャムを徹底的に切り刻む訓練から始めましょうねルドラ」
「バッ! てめーなに言ってやがる! 助けてやっただろうが」
「私を助けてくれたのはルドラよ」
「車まで運んだのは俺だこのガキャ」
「おだまりシャムのくせに」
私とシャムの口論を、ルドラもカイラも呆気に取られて見ていた。
翌日、さあ今日もスニタ先生のスパルタ教育から始まるぞー、と意気消沈しながら部屋を出ようとすると、いきなりバークティ妃が駆け込んできた。
「シャンティ、今日のスニタ先生の授業は中止です!」
「え?」
なにその嬉しい報告。
「今日は大事なお客様がいらっしゃるの。そしてあなたはお客様が帰るまでこのお部屋に閉じこもっていてちょうだい」
「は、はあ」
「客と言うのは王の直属の部下なの。3月ごとにカリオフィラス領の様子を視察しにやってくるのね。シャンティとは毎回顔を合わせているのだけど、さすがに今のあなたじゃボロが出るから」
「なるほど…確かに」
「体調が優れなくて部屋で休んでいるってことにしておくから、おとなしくしていてちょうだい」
「わかりました」
「お願いね」
バークティ妃は来たときのように慌てて部屋を出て行った。
「スニタ先生の授業がないなんてラッキー! 思う存分ゴロゴロするぞおお」
「怠け者め」
「いでっ」
いきなりカルリトス老師の小さな後ろ脚でデコを蹴られた。
「あれ、老師なんでここに…」
「退屈するじゃろうと思って、遊びにきてやったぞ」
頼んでません。
カルリトス老師はソファに駆けていき乗っかると、後ろ脚で立って髭をそよがせた。
「チャベスについて話をしておこうかの」
「チャベス?」
「これから来る客のことじゃ」
「ほむ」
私はソファの傍へ行って正座した。一緒にソファに座ろうとすると老師は怒るからだ。
さて、どんな危険(?)人物なんだろう。老師が改めて話をしてくれるくらいだもの。
「チャベスは財務官の一人で、もともとはミラージェス王国の出身者なのじゃ。その縁あってカリオフィラス領の担当財務官になっての、財務のあらゆることを調べに来る」
「じゃあ、バークティ妃の味方?」
「味方ではないのう…。祖国を出て出世したからの、イリスアスール王国に忠誠を誓っておる」
「だから、今の私には会わせられないんだね」
「うんむ」
それきり老師は口を閉ざした。
「で、チャベスは…」
「以上じゃ」
老師…。
そうルドラに謝られた。
「まさか足がつるとは思わなかったんだ」
「ま、まあ、私も思わなかったよ…」
準備体操侮りがたし。泳ぐ前に準備体操は必ずやりましょう。
「んじゃ、早速キミの≪分身≫を見せてもらいましょうか!」
「はい」
ルドラは素直に返事をすると、意識を凝らした。
後ろに黒い影がスウッと伸びていき、人間の形を作って浮かび上がる。そして影は大人の男を吐き出した。
「ナイスよナイスよおおおお!」
キラキラ目が輝き、思わず私はルドラの≪分身≫に飛びついた。
長身で濃紺のアオザイのような服がビシッと体格を際立たせていて、いわゆる細マッチョってやつかしら。憂いを帯びたような切れ長の目に凛々しい顔立ち。
「予想をはるかに上回るイイ男ねえ~」
「は、はあ…」
困ったようなルドラの≪分身≫は、どうしていいか判らない表情を浮かべていた。
「おぬしは剣士じゃな。うむうむ、剣が6本、優秀じゃな」
ルドラの≪分身≫の周りに、細身の片手剣が6本取り囲むように浮いていた。カルリトス老師は嬉しそうな口調だ。
私はルドラの≪分身≫から離れて剣をよく見る。どんな仕組みだろう、何故浮いているの?
「剣士はああして剣を出して出現する。身体の周囲に剣が浮いておるのは、鞘に収まった状態のようなものじゃ。あの浮いた剣を使い、あらゆる芸をこなす」
「芸…? 剣士だったらチャンバラするんじゃないの?」
「モチロン手に握って剣を振るうが、浮いた剣を操作して遠隔攻撃や防御に使うことができる」
「ほうほう」
「剣士の出す剣は実力に反映されたもの。剣の数が多い程能力が高い証なのじゃ」
「へえ…」
6本もあるってことは優秀ってこと。しかも顔も美形だし、萌えるわあ。
「剣は最大何本出せるものなの?」
「10本じゃの」
「訓練次第で増えたりするのかな」
「本数はあらかじめ決まっておるから、増やすことはできないのう」
「そっか」
どんな使い方をするのか、訓練が楽しみだね。
「まずは、シャムを徹底的に切り刻む訓練から始めましょうねルドラ」
「バッ! てめーなに言ってやがる! 助けてやっただろうが」
「私を助けてくれたのはルドラよ」
「車まで運んだのは俺だこのガキャ」
「おだまりシャムのくせに」
私とシャムの口論を、ルドラもカイラも呆気に取られて見ていた。
翌日、さあ今日もスニタ先生のスパルタ教育から始まるぞー、と意気消沈しながら部屋を出ようとすると、いきなりバークティ妃が駆け込んできた。
「シャンティ、今日のスニタ先生の授業は中止です!」
「え?」
なにその嬉しい報告。
「今日は大事なお客様がいらっしゃるの。そしてあなたはお客様が帰るまでこのお部屋に閉じこもっていてちょうだい」
「は、はあ」
「客と言うのは王の直属の部下なの。3月ごとにカリオフィラス領の様子を視察しにやってくるのね。シャンティとは毎回顔を合わせているのだけど、さすがに今のあなたじゃボロが出るから」
「なるほど…確かに」
「体調が優れなくて部屋で休んでいるってことにしておくから、おとなしくしていてちょうだい」
「わかりました」
「お願いね」
バークティ妃は来たときのように慌てて部屋を出て行った。
「スニタ先生の授業がないなんてラッキー! 思う存分ゴロゴロするぞおお」
「怠け者め」
「いでっ」
いきなりカルリトス老師の小さな後ろ脚でデコを蹴られた。
「あれ、老師なんでここに…」
「退屈するじゃろうと思って、遊びにきてやったぞ」
頼んでません。
カルリトス老師はソファに駆けていき乗っかると、後ろ脚で立って髭をそよがせた。
「チャベスについて話をしておこうかの」
「チャベス?」
「これから来る客のことじゃ」
「ほむ」
私はソファの傍へ行って正座した。一緒にソファに座ろうとすると老師は怒るからだ。
さて、どんな危険(?)人物なんだろう。老師が改めて話をしてくれるくらいだもの。
「チャベスは財務官の一人で、もともとはミラージェス王国の出身者なのじゃ。その縁あってカリオフィラス領の担当財務官になっての、財務のあらゆることを調べに来る」
「じゃあ、バークティ妃の味方?」
「味方ではないのう…。祖国を出て出世したからの、イリスアスール王国に忠誠を誓っておる」
「だから、今の私には会わせられないんだね」
「うんむ」
それきり老師は口を閉ざした。
「で、チャベスは…」
「以上じゃ」
老師…。
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