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16話:泳ぎ勝負

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 ルドラの案内で、貧民街からちょっとだけ離れたところに流れる川に案内された。

「うわあ、奇麗な川ね」

 濁った水の、死骸とかぷかぷか浮いてそうな川を想像していたけど、澄んだ水で空の色を反映して青い。陽の光を弾いてキラキラと水面が輝いていた。

「ここから対岸までいって、折り返して先に着いたほうが勝ちだ」
「おうけーい」
「すみません姫様」
「いいのいいの」

 恐縮するカイラに笑ってみせて、私は鬱陶しいサリーを脱ぎ捨てる。どうもこの巻きつける着付けは動きにくくて慣れないわ。
 ルドラも襤褸の上着を脱ぎ捨てる。
 まだ13歳というけど、背が低い子供の割に体格良いわ。≪分身トイネン≫がますます楽しみになってきた。これは負けられない。

「おいカルリトス、いいのか? こんなことが奥様にバレたらヤバくね? これでも一応王女様だぜ…」
 シャムが渋面を作って声をひそめる。一応は余計。

「よいよい。ソティラスを整えるためじゃから、バークティも文句は言えまいて」

 老師せんせいはカイラの頭上で髭をそよがせた。案外老師せんせいはこの状況を楽しんでいる気がする。

「いくわよ、ルドラ」
「いいぞ」
「んじゃ、俺が合図したら飛び込めガキども」

 シャムが両手を腰にあてて、偉そうに言う。
 私とルドラは横に並んで構えた。

「行け!」
 シャムの合図で私とルドラは同時に飛び込んだ。

 泳ぐの一カ月ぶりくらいかな? これでも水泳クラブに通ってたんだよね。地区大会で優勝だってしたことあるんだから。
 数少ない私の特技!
 川の流れは緩やかであまり抵抗はない。対岸まではだいたい100メートルくらいで、これなら超余裕じゃん。
 チラッと隣を見ると、若干遅れてルドラはついてきている。私の泳ぎについてくるとか案外やるじゃない。
 私の先行で岸をタッチして折り返す。
 これなら楽勝! と勝利を確信したその時。

(げっ)

 足がつりました。

 つった瞬間の痛みで水をガブっと飲んでしまい、その拍子に沈んでしまった。

(やっば、助けてえええ)

 叫びたいけど水の中じゃ声が出ないよう。
 脚をバタつかせようとしたけど、痛みでうまく動かず、腕をもがくように動かすけど全然身体が浮かない。割と深いんだねこの川。どんどん沈んで流されていく。
 さすがにこれはマズイと超焦り始めたとき、ルドラが私の身体に手を回し浮上していった。

「ぶはあっ」
 水面に上がってすぐに息を吐き出す。
「大丈夫かおまえら!」
 シャムがクロールで泳いでくる。
「足つった…」
 ルドラに支えられながら、私はそれだけを言って意識を失った。


***


「ううん…」
「気が付かれましたか、姫様」
 泣きそうな顔でカイラがのぞき込んできた。

 ルドラに助けられてから気絶したんだっけ。辺りはもうすっかり夕焼け色に染まっていた。
 私は車の後部座席に寝かされていた。

「大丈夫かの?」
 顔の横に座っていたカルリトス老師せんせいが、髭をそよがせながら訊いてきた。

「だいじょうぶだよ。もうすっかり」
「起きれるか?」
「はい」

 カイラに助けられながら身体を起こす。足の痛みはもうおさまっていた。
 車を出ると、近くの地面にルドラが胡坐をかいて座っていた。

「あ、大丈夫なのか?」
 私に気づいてルドラが心配そうに訊いてくる。
「うん、もう平気」
 にこりと笑うと、ルドラは心底安堵したように肩の力を抜いた。
「足がつっておぼれるとか、無様だなおまえは」
「うっさい!」
 シャムの嫌味に噛みつく。
「まあ、今回は事なきを得たが、これで死んだら笑えないからな、次また似たような展開になったら止めるぞコラ」
「うん、まあ、ごめん…」

 泳ぎは得意だから、まさか足がつって溺れるとか想定外の出来事。
 準備体操してなかったし、シャンティ王女に改造されてから、ロクに身体を動かしてなかった。足がつるほど身体なまっていたのかと思うと泣けてくる。
 そして無事に済んで本当に良かった。ルドラが助けてくれなかったら溺死してた可能性もある。もしも溺死してたら、跡継ぎになるという計画が台無しだ。

 意識薄すぎた。反省。

「さて」

 気を取り直してルドラの前にしゃがみこんだ。
「勝負負けちゃったケド、私のソティラスになってくれないかな?」
 苦笑気味に言うと、夕焼け色に染まった顔を更に赤くして、
「お、おう、なるよ」
 とぶっきらぼうな口調でルドラは言ってくれた。
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