上 下
6 / 39

5話:頑張っちゃうかあ!!

しおりを挟む
 マドゥに案内されて、先ほどの部屋に戻った。もともとシャンティ王女が使っていた部屋らしい。

「ご用がありましたら、そこのベルを鳴らしてください。すぐに参ります」
「ありがとう」

 マドゥが下がり、身体をぐるぐる巻いているサリーをバサッと脱ぎ捨てた。
「動きづらい!」
 ぴったぴたに身体にフィットするTシャツとダボダボのズボンだけになると、長椅子にごろーんと横になった。
 シルクのカバーできっと最高級品なのかもしれない長椅子だが、身体に馴染んだ故郷のソファが恋しい。どうせ生まれも育ちも庶民だし。

「さて…、とんでもないことになっちゃった」

 凄い巨大な王国の王女に改造されて、半年後に死ぬ世継ぎに代わって、自分がその座に就く。そしてゆくゆくはこの国の女王になるという、とてつもない計画。
 バークティ妃の話しぶりからして、単に玉座を欲してのことではなく、故郷を奴隷身分から解放したいという必死な願いからきているのは伝わってきた。その為にラタ王女を毒殺しようとしている。

「きっと、色々と準備してきたんだろうなあ…」

 故郷は侵略され、奴隷にされ、敵国の王の側室にされた。バークティ妃はさぞ悔しかっただろうと思う。
 私が生まれたときは、日本はすでに平和な国で、他国に侵略されるという恐怖はなかった。それに奴隷に堕とされることもなく、毎日平和に過ごしていた。

 正直想像の域を出ない話だ。

「きっともう帰れないし、この姿で帰っても大変なことになりそう。お母さんのノリからして、警察に通報されちゃうわ…。あまりにも現実離れしすぎてまだ腹は括れないけど、やるしかないのよね、タブン」

 バークティ妃の気持ちも少しは判るつもりだし、女王になるのもなんだか興味がある。日本だとそんな就職先はナイ。考えてること以上に大変なことだろうけど、もうどっぷり船に足を突っ込んでいるんだからやるしかない。

「よおーし! 頑張っちゃうかあ!!」


***


 陽が陰ったころマドゥが迎えに来て、夕食のために食堂へ案内された。
 当然サリーはまた着せられてしまった。
 大広間のような食堂は豪華絢爛、黄金の光が飛び交いすぎて眩しすぎる。内装以外にも食卓の上の黄金圧が凄まじい。

「わお…」

 かつて映画で見た、ちょー長いテーブルに金の食器が並べられたシーンを思い出した。きっと、あの黄金のスープポットには、サルの脳みそスープとか、目玉が入っているにチガイない。
 そんなゲテモノ、食べられるわけがアリマセン。
 テーブルにつくと、対面にはバークティ妃が座ってニコリと笑んでいた。
 色々なものがインドみたいなので、食事もきっと手づかみだろうと思っていると、左右に黄金のフォークやナイフがズラズラと並びだし、頭の中に”テーブルマナー”という言葉が浮かんで生唾を飲み込んだ。

 テーブルマナーなんて知らないんです。

 暫くすると、地味な恰好をした女性たちが、料理の盆を持ってテーブルに並べ始めた。
 私の前に、丸い黄金の盆がスッと置かれた。

「インド料理?」
 テレビで見たことのある、ナンと小皿に盛られたカレー各種。
「食べ方は判るかしら?」
「うんと、このナンを千切ってカレー付けて食べるんだよね?」
「あっているわ。もし食べづらかったら、フォークやスプーンを使ってね」
「はーい」

 ヨカッタ、手づかみ万歳。

 しかし、ナンとかカレーとか、名称はどっちの世界も共通なようで助かる。
 盆に乗ったカレーの小皿は10個もある。日本のカレーとは違うという知識だけはあるけど、実際に食べるのは初めてだ。
 色んなスパイスの香りが凄かったけど、味は意外と食べやすくて美味しい。
 野菜や魚のカレーで、欲を言えば肉のカレーもほしかった。まさか、宗教上で食べてはいけない食材に肉とかあるんだろうか。そこは異世界ということでナシにしてほしいと思う。

 そんな私の表情で察したのか、
「ふふ、シャンティは肉が嫌いだったの。あなたは食べられそうだから、次からは肉料理も出すように言うわね」
「ありがとう…」
 顔ががっついていたのかと思い、なんだかちょっと気恥ずかしかった。

 最初は少なく感じていた盆の中身は、全て食べ終えると満腹になっていた。盛りに盛られたフルーツやアイスクリームなど、全く手が伸びないくらいに。

「一緒にお風呂に入りましょうか」
 バークティ妃に誘われて、一緒にお風呂に入ることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...