片翼の召喚士-sequel-

ユズキ

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後日談編

ハーツイーズ大結婚式物語・4

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「迷っておられるなら、私がお選び致しましょうか?」

「そうしてもらったほうが、いいかも~」

 キュッリッキが呆れたようにこぼすと、ファニーも疲れた顔で頷いた。

「そうしていただけますか? どれも素敵すぎて困っちゃった」

「はい」

 パウリ大佐が選んだのは、靴が見えるくらいに裾を短くしたエンパイアラインのドレスだ。

 裾に広がる幾重にも重ねられたオーガンジーが、軽やかな雰囲気を醸し出し、白い花の刺繍飾りが肩から胸に散りばめられて可愛らしい。

 試着したファニーを見て、キュッリッキは掌を打ち鳴らして大はしゃぎした。

「ファニー素敵、素敵っ」

「ありり。あたしも凄く気にっちゃった。ありがとうございます、大佐」

「どういたしまして。あなたの快活な雰囲気を甘く包み込んで、とてもよくお似合いです」

「えへへ」

「よく似合ってるわぁ~ファニーちゃん。そしてぇキューリちゃん、あなたのドレスも選んじゃわないとネん」

「アタシのドレス?」

「そぅ。ブライズメイドのドレスね」

「ブライズメイド? 何それ??」

「花嫁さんの付き添いよン。結婚式でぇ、ファニーちゃんのお手伝いをするのぉ」

「へえ~、そんなのあるんだあ。どんなドレス着ればいいの??」

「こちらに、お嬢様」

 パウリ大佐が案内する。

「お嬢様は青色がお好きと伺っております。こちらのドレスは如何ですか?」

「わあ、カワイイ」

「こちらもお似合いですよ」

 パウリ大佐が差し出してくるドレスはどれも色がついていて、キュッリッキはちょっと首をかしげた。

「花嫁を引き立たせるために白は遠慮したほうがいいでしょう。それに、花も添える大事な役目もありますから、色つきのドレスがオススメです」

「そうなんだね。じゃあ、この青いのがいいな」

「それでは試着してみてください」

 ドレッシングルームに入って暫くすると、しょんぼりした様子でドレスを着たキュッリッキが出てきた。

「如何なさいました?」

 心配そうに顔を覗き込んでくるパウリ大佐に、

「……おっぱいのところ、いっぱいスカスカするかも」

 不機嫌そうに言った。パウリ大佐は素早く視線を走らせて、吹き出しそうになって気合で堪える。

「お直ししていただきましょうね」

「むぅ」



 ドレス選びも無事終了し、ヴェールやブーケやアクセサリーも選んで、翌日にはヴィーンゴールヴ邸へ運んでもらうように手配する。

「あ、支払いどうしよう、アタシお金持ってきてない」

「通行証はお持ちですか?」

「うん」

「では通行証を店員に。それで自動的に精算されますから、大丈夫ですよ」

「ふええ…、これお金の代わりになるんだ」

「ハーメンリンナ内限定ですけど」

 キュッリッキが所持している通行証は、貴族以上の立場の者たちが持つ特別仕様である。受け取った店員はひどく恐縮して手続きをしていた。

「リッキーありがとね。素敵なウェディングドレス一式、とっても嬉しいわ」

「どういたしまして」

「白っぽい服でも着て簡潔に済ます予定だったの。でもやっぱ、ちゃんとしたウェディングドレス着たかったから、ホント嬉しい」

「大事な記念だもんね」

「うんうん」

「そいえばハドリーのほうはどうなってるの?」

 ふと思い出したようにキュッリッキが首をかしげる。

「そっちはダイジョーブよん。メルヴィンとルーが担当してるからぁ」

「そうなんだ、よかったの」

「それではランチでも食べに行きましょうか。とっておきのお店を知っているんです」

 そう言って、パウリ大佐は優しく微笑んだ。



 ランチが済んだあと、みんなへのお土産にケーキを沢山買って、キュッリッキたちはヴィーンゴールヴ邸へ戻った。

 そしてファニーと2人連れたって、徒歩でハーツイーズ街へ向かおうとすると、これには運転手と警備に当たる軍人たちが大慌てし、自動車か馬車で向かうようにキュッリッキを説得にかかった。

「ファニー傭兵なんだよ、アタシも召喚使えるから、別に歩いて行っても大丈夫だよ」

 自信満々にキュッリッキは言う。しかし誰も納得しない。

 皇王直々に目をかけられていて、更には召喚士様である。しかも元気そうに見えても身体が弱く、目を離してはいられない――あくまでリュリュの見解――という。

 万が一のことがあっては国の一大事。

 よって、侍女のアリサを伴うことでどうにか折り合いがついた。アリサは戦闘武器系槍術の使い手で、Sランクの実力者でもあるのだ。

「侍女を同伴するのは当然のことなんですよ、お嬢様」

「アタシ貴族じゃないもん」

「良家の子女はそうなのでございますよ」

「ぬぅ…」

 キュッリッキは口を尖らせ地面に視線を落とす。

 このところ、出かけようとすると馬車か自動車に押し込まれる。散歩に出かけたいと言うと、ゾロゾロ軍人が付いてくる。

 歩く自由もなければ、プライバシーもあったもんじゃない。

 つい半年前までは、貧困ギリギリの生活をどうにか送っていた。なのに今では、王侯貴族のような立場に大変身してしまったのだ。

 キュッリッキがどれだけ神聖で貴重な存在――アルケラの巫女という事実――かは、リュリュを通じて皇王の耳に入っている。だからこその厳重警備なのだ。

 しかしキュッリッキ自身は少しも変わっていない。変わったのは全て周辺の環境だけだ。

「あんまりワガママ言って、周りを困らせちゃダメよ。あんたもうオトナなんだから、自覚して新しい環境を受け入れなさい」

「ふぁーい…」
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