片翼の召喚士-sequel-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
7 / 52
後日談編

ハーツイーズ大結婚式物語・1

しおりを挟む
 360度ズラリと取り囲まれて、ハドリーとファニーはお互い身を寄せながら首を縮こませていた。

「キュッリッキ様のご友人という証拠を提示していただかなくては、こちらとしても中へお通しすることはできません」

「提示するもなにも、本人に聞いてきてもらませんかね?」

「それは出来ません」

「……困ったな」

 ハドリーは髭で覆われた顎を指先でちょいちょいっと掻きながら、兵士たちの背後に控える広大な屋敷を見上げた。

 皇都イララクス海の玄関街ハーツイーズから、さほど遠くない海辺の高級別荘地キティラ。ここへ元副宰相ベルトルドの屋敷が移築され、親友のキュッリッキやライオン傭兵団が住んでいると連絡を受けたのは、つい昨日のことだ。

 イララクスの大火災事件から今までずっと、キュッリッキたちとは連絡が取れず、傭兵ギルド・エルダー街支部も焼け落ち、安否が気になって気になってしょうがなかった。

 それに、とても大事な話もあり、連絡を取りたくていたところ、ハーツイーズのアパートにキュッリッキから手紙が届いて駆けつけた。

「どうする? ハドリー」

 珍しく口をつぐんでいたファニーが、脇腹を肘で小突いてきて声を潜めた。

「ここまできて出直すのもなあ…」

 屋敷の周りは皇国軍正規部隊が駐屯し、24時間警備している。

 本来ならハーメンリンナの外へ出ることはないはずの召喚士様が、自由に市井を闊歩しているので、皇王自らが軍を差し向け守っているのだ。

 軍人たちは任務を全うしているだけだから、恨むのは筋違いだと判っていても、つい恨みがましく思ってしまう。

「ねえ、ねえ、何してるの?」

 そこへ、不思議そうな愛らしい声が割って入り、その場にいた全員はギョッと声の主を振り向いた。

「キュッリッキお嬢様!」

「リッキーじゃないか!」

「リッキー!」

「あれっ、ハドリーにファニーだあ。久しぶりだね~、手紙届いたの?」

 キュッリッキは鉄門を重そうに押し広げ、小走りに二人に駆け寄った。

「どうして軍人さんたちに取り囲まれてるの?」

 状況を全然把握してない暢気な声に、ハドリーは小さくため息をつくと、固まっている正面の軍人に、疲れた表情を向けた。

「通してもらってもいいです?」

「え、ええ…、どうぞ」



 応接間ではなくスモーキングルームへ通されたハドリーとファニーは、ライオン傭兵団の出迎えを受けて恐縮した。

「よお、髭のにーちゃんに、ボインのねーちゃん、無事だったかあ」

 2人が声を出す前に、気付いたギャリーが嬉しそうな声を出した。

「ハーツイーズはなにも被害がなかったから、大丈夫です」

「そりゃあ何よりだ。なんせ、オレたちのアジトを中心に、かなりの範囲がこっぴどく吹っ飛ばされて死傷者だしちまってたからよ。巻き込んで申し訳なかったっつーか」

「…みなさんの方こそ、よく無事だったのね」

 さすが化物集団、とは心の中で呟くファニーだった。

「みんな元気そうで安心しました。リッキーも元気そうだ」

「うん。もうメソメソやめたもん」

「メソメソ? ああ、副宰相閣下が亡くなられたんだってな」

「オバケになったベルトルドさんとアルカネットさんをちゃんと見送ったし、ヘルヘイムで氷漬けになってるよ、今頃。エッチなことも考えなくなるんだから」

 顔をムスッとしかめて、キュッリッキは「フンッ」と鼻息を吹き出す。

 ベルトルドの心を綴ったメモ帳の内容を知って以来、キュッリッキは立ち直っていた。翌日から勉強を再開して、家庭教師のグンヒルドを喜ばせたくらい元気だ。

 リュリュの強烈な作戦が、功を奏したようだった。

「氷の中でもきっと股間は元気いっぱいだろう…」

 ギャリーがボソリとツッコむと、同意する頷きが室内に満ちた。

 立ちっぱなしのハドリーとファニーをソファに導きながら、メルヴィンは2人の前に紅茶のカップを置く。

「お2人揃って会いに来てくれてありがとうございます。今日はどうしましたか?」

「え、ええ。報告したいことがいくつかありまして」

 ハドリーはちょっと照れくさそうに頭の後ろを掻く。

 横に座るファニーの顔をチラッと見て、ハドリーは姿勢を正した。

「オレ達、け、結婚することにしまして」

 おお! と室内がどよめく。

「それは、おめでとうございます」

 メルヴィンがにっこり微笑みながら言うと、ファニーは恥ずかしそうに俯いた。

「なんだー、2人ともそういう関係だったのー? ファニーちゃんちっともなびかないから」

 ルーファスが残念そうに言うと、ファニーは苦笑した。

「もとからフラれてたのか、ザマー」

 フッと笑うタルコットに、ルーファスはしょんぼりした顔を向けた。

 ワイワイ祝福の言葉が飛び交う中、メルヴィンの隣に座っているキュッリッキだけは、無言で2人を凝視していた。

「どうしました? リッキー」

 気づいてメルヴィンが声をかけると、

「うわああああん」

 大きく口を開けて、突然泣き出した。



 5分くらい泣くに泣いたキュッリッキはやがて落ち着いてくると、メルヴィンが差し出したティッシュで鼻をかんで、大きくしゃくり上げる。

「ハドリー、ひっく、ファニー、ひっく、おめでとうなの」

 泣きべそ顔に笑みを浮かべ、キュッリッキは嬉しさを隠しきれない瞳を2人に向けた。

「ありがとうリッキー。リッキーに祝ってもらえるのが一番嬉しいよ、オレ達」

「いきなり泣くから、反対なんだと思ったわよ、もう」

「ごめん、びっくりしたら泣いちゃった」

 もう一度鼻をかんで、丸めたテッシュはポイッと無造作に放り投げる。

 キュッリッキにとって、ハドリーとファニーは大恩人だ。

 こんなふうに他人と接することが出来るようになったのも、2人が何かと気を回して面倒を見てくれたおかげだ。

 ベルトルドやライオン傭兵団と出会うまでのキュッリッキは、この2人に支えてもらっていたのだ。

 年上の2人は兄と姉であり、大事な大事な親友。その2人が結婚するという。

「アタシ、2人がそんな関係って全然気付かなかった」

「多分そうだと思ってたわよ」

 やや呆れ顔でファニーは苦笑する。

「まあ、とくにイチャついたりはしなかったしな」

「この子前にすると、なんかそんな気は起こらなかったっていうか…」

「いえてる…」

「えー…」

 ナントナク2人の気持ちが理解出来るライオン傭兵団だった。そんな空気を感じ、キュッリッキがジロリと彼らを睨む。

「ところで、お式はいつですか?」

 キュッリッキを優しく宥めながら、メルヴィンがサラリと話題を変える。

「金もかかるし、街の神殿で適当に誓いやらなにやらな簡素に」

「ええええ!!」

 室内にブーイングが響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

勘当予定の伯爵家三男は、悪評を広めたい!

東雲まくら
ファンタジー
 「学園生活で、子爵家以上の家柄の相手と婚約しなさい。もしくは、輝かしい結果を残し、魔剣士の名家クロスフォード家の名声を広めるか。そのいずれかが出来なければ、貴様の様な無能に、以後クロスフォード家の名を名乗らせる訳にはいかない。話は以上だ、アイン。」  王都の魔剣士学園への入学式前夜、父が俺に、重々しい口調でそう告げた。  「分かりました父上。クロスフォード家三男として認めて頂けるように励んで参ります。」  俺は、あたかも覚悟を決めたといった雰囲気を醸し出して、父の言葉への返答を返した。  ・・・が。  (ヤッホォォォオッ!!!これってつまり、魔剣士学園での3年間で、婚約者が出来ない上、魔剣士として活躍も出来なければ勘当するぞって事だよなっ!!ラッキーッ!!勘当ばんざーい!!!下手に貴族の三男で居るよりも、自由で気ままな冒険者になった方が100億倍マシだバーカッ!!!)  アイン・クロスフォード、14歳。  彼は、父、ジルクニアス・クロスフォードから、勘当予定を告げられ、歓喜に満ち溢れていた。  「学園では、そこそこな悪評を広めて、勘当を確実なものにし、クロスフォード家の三男なんて辞めてやるっ!!フハハハハハッ!!!」  自室のバルコニーから月に向けて、明日からの意気込みを語り、高笑うのであった。  しかしながら、そう上手くはいかないのが世の常である。  物語が進むにつれ、明らかとなるアインの凄惨な過去。  目まぐるしく変化する周囲の状況。  そして時に、アイン独特の思考回路によって、斜め上な展開を繰り広げていくことに・・・ッ!?  これは、そんなアインの成長と奮闘を描いた、ダーク&コメディな物語です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

処理中です...