片翼の召喚士-sequel-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
3 / 52
後日談編

ライオン傭兵団拡張計画-前編-

しおりを挟む
 食堂に集まったライオン傭兵団の面々は、長いテーブルの上に広げられた地図を覗き込んでいた。

「アジトのあったこの場所から、この辺り一帯を買収してきました」

 地図を指し示し、フッと笑みを浮かべるカーティスに、今度は視線が集中する。

「可哀想なことに、ベルトルド卿の攻撃は、ご近所からかなりの広範囲に住む人々を、一緒に吹っ飛ばしてしまったので、空き地になっているんです」

 ちっとも可哀想に思ってない顔で、肩をすくめた。

「50人くらいを収容して、更に生活スペースも広げ、もうちょっと個室も広くし、アレコレ付け足したりなんだりで…、まあ、こっからこのへんまでは、アジトに必要になるでしょう」

 地図の上で指を動かし、思惑を簡潔にあらわした。

「で、周囲には傭兵相手のアパートをいくつか建てて、安定した収入にもします」

 カーティスの説明が終わるまで、皆はとりあえず黙って聞いていた。

「ベルトルド卿から譲られた、ライオン傭兵団用の資金をありがたく使いました。まだまだ残っているので、皆さんの生活用品やら家具やらの購入にあてましょう。簡単に説明すると、こんな感じです」

 ニコッ、とカーティスは締めくくった。

「まあ…カーティスがそう言うんなら、オレたちゃ別にかまわねえがよ。なーんか前と区分けみたいなもんが、変わってねえか?」

「ああ」

 ギャリーの疑問に、カーティスは苦笑する。

「エルダー街、ブローリン街、ポルヴァ街、貧民街など、だいぶ前からインフラ整備をしたくて立ち退きなどを行っていたそうなんです。でも、なかなかうまくいかずに、長年問題に上がっていたそうなんですが、ベルトルド卿の攻撃は、まさにインフラ整備予定の街の部分を、的確に吹っ飛ばしていったそうなんですよ」

 ――アンタって人は…

「ベルトルド卿の過激すぎた置き土産のおかげで、行政はやっとインフラ整備が出来ると、大急ぎで取り掛かっているそうです」

「さっすがベルトルド様、オレたち吹っ飛ばすついでに仕事もしていくなんて、ホント凄い人だったよねえ~」

「雷霆(ケラウノス)の餌食になった街の人たちは、可哀想っちゃ可哀想だけど」

 ルーファスとタルコットは、疲れた笑いを顔に浮かべ、溜息を吐きだした。

「まあ、一部の犠牲で、皇都には待望の電気が各ご家庭で使えるようになるそうですよ」

 オオッ!と食堂がどよめく。

「使用料は高くなるそうですが、試験的に皇都全体から初めて、ゆくゆくは国の隅々まで電力を届けるように整備していくことになると、リュリュさんが言ってました」

「今んとこ、ハーメンリンナとごく一部の施設しか使えねえもんな」

「お財布と相談~ってぇ感じよねえ」

「使用料安くなってこねえと、使わない一般家庭は多そうだ」

「カーティスさん、街やアジトの再建など、どのくらいかかるんですか?」

「インフラ整備と更地にするまでに半年、そっから建設会社次第でドンドン建っていく予定、なんだそうです」

「じゃあ、当分仕事はここを拠点にすればいいですね」

「ええ、間借りしちゃいますが。すみませんね、メルヴィン、キューリさん」

「オレたちは構いませんよ」

「うん。お部屋いっぱいあるしね」

 頓着した様子もなく、キュッリッキは朗らかに微笑んだ。



 一ヶ月ほど前、ハワドウレ皇国元副宰相ベルトルドは、後ろ盾をしていたライオン傭兵団と決別した。そしてキュッリッキを攫い、ライオン傭兵団のアジトを中心に、半径5キロもの広範囲を焼け野原にしてしまったのだ。

 多くの死傷者を出しはしたが、行政側としては長年の問題が一瞬で解決してしまって、複雑な思いで受けて止めている。

 アジトを失ったライオン傭兵団は、キュッリッキとメルヴィンの屋敷に身を寄せている。

 かつてベルトルドが住んでいた屋敷だが、キュッリッキとメルヴィンのために、ハーメンリンナから外に出され、キティラという高級別荘地に移築されている。海の玄関街ハーツイーズに近い。

 主の名をとってベルトルド邸と呼ばれていたが、今は元の名でヴィーンゴールヴ邸と呼んでいる。

 キティラの中では一番大きく、敷地も広い。そして召喚士の住む屋敷なので、国から警備兵が配置され、安心安全な厳重セキュリティ状態でもある。

 もっとも、現在屋敷に住む主たちや居候組みは、警備兵たちよりも強かったが。

 カーティスの話しも終わり、そのまま昼食になった。

「そういや2人とも、結婚式はいつするんでぃ?」

 突然結婚の話題に触れられて、メルヴィンは顔を上げた。

「そういえば…」

 メルヴィンはギャリーの顔を見たあと、次いでキュッリッキの顔を見る。

「まだ、決めてませんでしたね、リッキー」

 キュッリッキはナイフを動かしていた手を止めると、チラッとメルヴィンの顔を見て、難しい顔をして俯いた。

「リッキー?」

「…結婚式、すぐしないと、ダメ?」

 どこか不機嫌そうに、俯いたままボソリと言う。

「いえ、急いでしなくてもいいと思いますが」

「出来れば、1年くらい後の方がいいかも…」

「なんで1年後なんだよ??」

 ザカリーが首をかしげてツッコミ混ざる。

「ベルトルドさんたちの喪が明けるまで……1年くらい後の方がいいかなって」

 沈んだような顔を上げると、キュッリッキはメルヴィンを見た。

「ダメ……かな?」

 メルヴィンはゆっくりと顔を横に振ると、優しく微笑んだ。

「オレはそれでいいですよ。リッキーが式を挙げたくなったら挙げましょう」

「ありがと、メルヴィン」

 ベルトルドとアルカネットは、キュッリッキにとって大切な人達だ。

 愛を与え、幸せを与え、そしてもっとも卑怯な方法で裏切った。しかしキュッリッキの心は、傷つけられた以上に2人の愛が大きく残っていて、2人を失った悲しみから、まだ立ち直れていない。

 幸せなウェディングベルを鳴らせる心境では、とてもじゃないがなかった。

 メルヴィンもそれがよく判っているので、無理強いする気はない。

「どうせウェディングベル鳴らすなら、笑顔で鳴らしたいよね」

 ルーファスがにっこり言うと、キュッリッキも破顔した。

「そーそー。もう一緒に暮らしてるんだしぃ、今からじぃーっくりと、ウェディングドレス選べばいいしね~」

「ウェディングドレスかあ~」

 マリオンの指摘に、キュッリッキは真っ白なドレスを思い浮かべる。

「……ベルトルドさんとアルカネットさんにも、見て欲しかった…」

 じわりと涙ぐむキュッリッキに、マリオンが慌てる。

「自分で言っといてなんだが、当分この話題は避けようぜ…」

 困ったように言うギャリーに、皆無言で頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩
ファンタジー
 この世界は数多の迷宮が存在し、探索者と呼ばれる者達が金銀財宝、希少な魔道具、地位や名声を欲するが為に未知なる恐怖へ挑んでいく。  とあ事件により十年近くの間ただただその日暮らしをしていた探索者のレームは、初心者にも馬鹿にされる迷宮を発端に数々の試練へと立ち向かう。  レームは己の夢と最愛のヒトの為に  少女は自身の謎と未知への好奇心に誘われ  仲間達はそれぞれの想いの為に    少しずつ成長するオッさん探索者と、存在自体が未知なる少女ルナが繰り広げる長編ファンタジーストーリー。  そしていつしか迷宮王と歴史に伝説を刻む男の物語。 ---------  1000いいね読者様には本当に感謝致します。  宜しければお気に入り登録どうぞ宜しくお願い致しますm(__)m アルファポリスの他に1話ずつカクヨミさんにも掲載始めました。 長期連載予定(細々と連載を続けて参りますので宜しくお願い致します。 また土曜日曜の更新はお休みさせて頂いております。 宜しくお願い致します。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...