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第8話 Love Call
17.
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航のキスは、ともすれば乱暴なくらい荒々しい。さながら、愛情に飢えた野生動物が求愛しているみたいだ。その実、ふたりを比較すると、愛情に飢えているのは実那都のほうだ。航は奪うつもりで“求愛”しているのかもしれないけれど、実那都は逆に愛で満たされていく。
やがて、航はくちびるを浮かして、惜しむように吸着しながら離れていった。
いったんくっついてしまえば、離れるのは心もとない。キスに限らず、航と付き合うこともそうだし、同棲もそうだ。
「ほんと云うとさ」
と、航はそのさみしさを共有しているかのような口調でつぶやいた。
「うん?」
実那都が首をかしげると頬から航の手が滑り落ちる。航はまた頭を掻くようなしぐさをしてから続きを語りだした。
「なんつーか……東京に出てきて、急激にいろんなことが変わって――まあ、環境は確かに変わったけど、おれは変わってねぇつもりで、だから、実那都が変わるのを見てると、おれも仲間に入れてくれって思うんだ」
「わたし、変わった?」
「化粧してるだろ」
航がコスメボックスを指差して、実那都は釣られて手もとのメイク道具を見下ろした。
つい見入ってしまったけれどそこから得られるものはない。それほど航の云い分は荒唐無稽だ。呆気に取られて顔を上げると、「バカにすんじゃねぇ、おれは真剣だ」と、実那都が口を開くよりさきに航は釘を刺した。
実那都はきょとんとして、一方でどういうことか考えつつ、ゆっくりと口を開いた。
「大学生だし、せっかく航のお母さんから入学祝いだってそろえてプレゼントしてもらってたし……。もしかして、仲間に入れてって……航もメイクする――?」
云っている途中で、あるわけないだろうといった面持ちに合い、「ってことはないよね。わかってる」と実那都は慌てて修正し、なだめようと手をひらひらと振ってみせた。そうしながら、ふと思いつく。
「でも航、ビジュアル系のバンドになれば男の人でもしっかりメイクするよね? FATEはみんな美形だし、見てみたいかも……」
航は、ぶっ、と堪えきれずに吹きだしたような様で笑った。
「たぶん、ビジュアル勝負するなら、素でやるほうがウケるだろ」
裏を返せば、それだけ容姿に自負心があるということだ。本人が自ら云っても嫌味にならないほど、客観的にだれもが認めるところだ。そこで終わるかと思いきや。
「まあ、やってみたらおもしれぇかもな」
「うん。ちゃんとメンバーがそろったらやってみて!」
「云っとく。けど、あれは特殊メイクに近いし、実那都がやってるのとは違う」
航は真剣だと主張したけれど、いまの云いぶりからしても何かしら実那都のメイクにこだわっているのは確かなようだ。
「メイクするのは、変わったっていうより……んっと、成長だよ。ホント云うと、やりたくて始めたわけじゃないから」
「周りに合わせてるってことか?」
「航のお母さんがプレゼントしたのはそのためだとは思うけど、やろうって思ったのは――」
「九月だ」
と、割って入った航はちゃんと気づいて憶えている。
一緒に住んでいるし、たった三カ月前のことだから特別感心するほどでもないだろうけれど、この会話の流れからすると、それが十年前でも憶えていそうだ。
航の目が宙をさまよう。九月の出来事に思いを巡らして、きっかけを探っているのだろう。
答えは単純だ。進んで云いたくなるようなことではないけれど、隠すことでもない。実那都は、大げさなことじゃないよ、と前置きをして――
「青南祭の審査の日、ドーナツカフェに加純が来たでしょ。航が来るまえ、加純は男の子と一緒だったの。加純はカレじゃなくてボーイフレンドだって云うけど、デートの帰りだって云ってた。モデルやってるからかもしれないけど、高校生でもちゃんとメイクしてたし……。航とは中学から一緒にいるから、すっぴんでも恥ずかしいことはないけど、それに甘えて怠けてちゃいけないって思って」
「おれからすると、甘えるとか怠けるとか、そんなのはぴんと来ねぇけど……。要するに、加純ちゃんと張り合ってるわけだ」
航はずばりと云い当てて、くちびるを目いっぱい歪めてにやりとした。
「真剣だからバカにしないで」
実那都は少しむくれながら航の言葉をそっくり返す。すると、さっき反省していたはずが、航はやっぱり実那都の頭に手をのせた。
「怒るなって。どんなに加純ちゃんが完璧に化けたって、実那都に勝つことはない、おれにとっては。加純ちゃんだけじゃなくて、だれも実那都には勝てない」
不満げに尖っていた実那都のくちびるは三日月みたいな孤を描く。
「だと思った」
実那都が厚かましく受け合うと、航はいかにも満足そうに顎をしゃくって尊大になる。
「まあ……さっき寝顔がお気に入りっつったけど――それは本音に違いねぇけど、もっと本音を云えば、実那都が変わったって感じたら、おれもそれに関わっときたいんだよ」
なるほど、『仲間に入れて』というのは関わりたいということで、それは『一緒に楽しもう』と云ったことに繋がるのだ。
「じゃあ、わたしの睫毛のお手入れしたがるのは一石二鳥ってこと?」
「ってことだ。おれのラブコールでもあるわけよ」
「ラブコールって……」
「心の中でも常におれは愛を叫んでる」
一瞬、目を見開いた実那都は小さく吹いて、「だと思ってる」とついさっきと同じように云った。
「はっ。あんまり云ってっと重みがなくなるっつうか、また云ってるって本気に取られなくなるのも嫌だし……あとさ、うっとうしいとか、一歩間違えばストーカーっぽいだろ。てか、実那都がおれを嫌いになったら、間違いなくストーカーだ」
実那都は目を瞠った。そして、笑いだしそうになった刹那、航は実那都の鼻頭ぎりぎりに人差し指を突きつけた。
「笑うなよ。おれは真剣だ」
「可笑しいんじゃなくて、うれしくて笑うのもダメ?」
航の人差し指をつかんで目の前からずらしつつ、実那都は首をかしげた。
ん? と航は考えこむような面持ちになり、一拍置いて納得がいったふうに吐息をこぼす。
「いんや、それならいい」
けど、と続けながら、航は自分の人差し指をつかんだ実那都の手をつかみ返した。
「加純ちゃんに嫉妬するくらいだから、当面、おれのラブコールは安泰だってことだな」
「嫉妬って……。わかってるの?」
実那都は、加純の気持ちを知っているのか曖昧に訊ねてみた。
はっきり口にすると無視できなくなって、何より航の中で加純を見る目が変わることから始まって、果てには意識を変えてしまいそうな気もしてできなかった。その実那都の懸念は筒抜けなのか、航は詰め寄るようにぐっと顔を近づけてきた。
「鈍感な人間だって思われてんなら心外だな」
航は遠回しに加純の気持ちを知っていると認めた。
ほっとしたり不安だったり、笑いたくなったり憂うつだったり、相対する感情が入り混じる。
「自信満々だってことは知ってる」
「つまり、おれが自惚れてるって? どっちにしろ、勘違いされねぇようにはしてる。だれに対しても。おれが無駄に愛を吐いてると思ったら大間違いだからな」
実那都はきょとんとして目の前の航を見つめ、思考を急回転させた。
「それって……」
「ムシ除けだ。手っ取り早いだろ。これも一石二鳥だな。実那都ひと筋って宣言しとけば、云い寄られても断る面倒が省けるし、実那都は喜ぶ――だよな?」
「もちろんだよ」
実那都の返事を聞いたのか否か、そんじゃ、と航はテレビを消すと、あぐらをほどいて腰を浮かせる。繋いだ手をそのまま自分の首の後ろにやって、つかまるよう実那都を促す。そうして膝の裏をすくい、実那都はあっという間に抱きあげられた。
「航っ、自分で歩いていける!」
「ドラムは特に体力勝負だ。トレーニングに付き合えっていつも云ってる」
「すぐそこまでだし、役に立たないと思うけど」
「これは序盤、抱き潰れるまでが本番だ」
実那都は落ちないよう反射的にしがみついていた躰を引き離す。間近にある顔はにやついているけれど、その眼差しは挑むようで冗談っぽさは皆無だ。実那都を抱き潰すのではなく、航が抱き潰れるという状況ではまったく事情が異なる。
リビングの出口で、電気消して、という航の言葉に無意識に従ったのち、実那都はおそるおそるといった気分で航の顔を窺う。
「疲れてないの?」
「まえに云っただろ。疲れてるから振りきりたいって。ラブコールも、今日は言葉じゃなくて躰で勝負だ」
「……ほどほどでいいから」
隣の部屋に移ると、実那都はベッドがわりのロフトに軽々とおろされる。
「なんだよ。おれ、早く終わってくれってくらい下手くそなのか」
ベッドに上がってきた航は、実那都と向き合ってぐいっと顔を近づけた。
「そんなこと、“わたし”は云ってない」
ずっと以前のことを思いだして実那都が一部を強調すると、航も思いだしたのだろう、にやりとした。
航が自信なさそうに訊ねたのは見せかけで、きっと下手くそなんて少しも思っていない。それくらい、実那都はいつも丸わかりの反応をしている。あとになったら恥ずかしいけれど、そのままに恥ずかしがっていたら身動きが取れなくなるから、がんばって自分の反応を認めている。
「いまのいままで忘れてたけどさ、中学んときのことは遊びの一環だった。お互いにな。実那都もあの女が云ったことを聞いてただろ。それに、実那都とは全然、次元が違う」
「わたしは比べる人もいないけど」
「んー、実那都の拗ねた顔も可愛い。ジェラシーは大歓迎だ。おれを愛してるっていう、明確な実那都の意思表示だよな」
あまりに都合がいいポジティブな解釈で、実那都は笑わされる。あながち、間違ってはいないけれど。
「そういう考えって、やっぱりストーカーっぽい」
「あくまで“ぽい”だよな。ストーカーじゃなくて、おれのラブコールが最強なんだ。だろ?」
少年っぽい無邪気な自信満々ぶりに笑いながら、実那都は大きくうなずいた。
「わたしも航の寝顔は好き。綺麗だから。それに、朝起きて寝顔を見たとき、一緒に暮らしてるってことをいちばん実感できるんだよ」
そんな実那都の告白に航は小さく呻くと。
「そろそろ躰で語り合おうぜ」
航は航らしく云い、実那都の頬を両手でくるむと下から笑みをすくうようにくちびるをふさいだ。
ー第8話 了ー
やがて、航はくちびるを浮かして、惜しむように吸着しながら離れていった。
いったんくっついてしまえば、離れるのは心もとない。キスに限らず、航と付き合うこともそうだし、同棲もそうだ。
「ほんと云うとさ」
と、航はそのさみしさを共有しているかのような口調でつぶやいた。
「うん?」
実那都が首をかしげると頬から航の手が滑り落ちる。航はまた頭を掻くようなしぐさをしてから続きを語りだした。
「なんつーか……東京に出てきて、急激にいろんなことが変わって――まあ、環境は確かに変わったけど、おれは変わってねぇつもりで、だから、実那都が変わるのを見てると、おれも仲間に入れてくれって思うんだ」
「わたし、変わった?」
「化粧してるだろ」
航がコスメボックスを指差して、実那都は釣られて手もとのメイク道具を見下ろした。
つい見入ってしまったけれどそこから得られるものはない。それほど航の云い分は荒唐無稽だ。呆気に取られて顔を上げると、「バカにすんじゃねぇ、おれは真剣だ」と、実那都が口を開くよりさきに航は釘を刺した。
実那都はきょとんとして、一方でどういうことか考えつつ、ゆっくりと口を開いた。
「大学生だし、せっかく航のお母さんから入学祝いだってそろえてプレゼントしてもらってたし……。もしかして、仲間に入れてって……航もメイクする――?」
云っている途中で、あるわけないだろうといった面持ちに合い、「ってことはないよね。わかってる」と実那都は慌てて修正し、なだめようと手をひらひらと振ってみせた。そうしながら、ふと思いつく。
「でも航、ビジュアル系のバンドになれば男の人でもしっかりメイクするよね? FATEはみんな美形だし、見てみたいかも……」
航は、ぶっ、と堪えきれずに吹きだしたような様で笑った。
「たぶん、ビジュアル勝負するなら、素でやるほうがウケるだろ」
裏を返せば、それだけ容姿に自負心があるということだ。本人が自ら云っても嫌味にならないほど、客観的にだれもが認めるところだ。そこで終わるかと思いきや。
「まあ、やってみたらおもしれぇかもな」
「うん。ちゃんとメンバーがそろったらやってみて!」
「云っとく。けど、あれは特殊メイクに近いし、実那都がやってるのとは違う」
航は真剣だと主張したけれど、いまの云いぶりからしても何かしら実那都のメイクにこだわっているのは確かなようだ。
「メイクするのは、変わったっていうより……んっと、成長だよ。ホント云うと、やりたくて始めたわけじゃないから」
「周りに合わせてるってことか?」
「航のお母さんがプレゼントしたのはそのためだとは思うけど、やろうって思ったのは――」
「九月だ」
と、割って入った航はちゃんと気づいて憶えている。
一緒に住んでいるし、たった三カ月前のことだから特別感心するほどでもないだろうけれど、この会話の流れからすると、それが十年前でも憶えていそうだ。
航の目が宙をさまよう。九月の出来事に思いを巡らして、きっかけを探っているのだろう。
答えは単純だ。進んで云いたくなるようなことではないけれど、隠すことでもない。実那都は、大げさなことじゃないよ、と前置きをして――
「青南祭の審査の日、ドーナツカフェに加純が来たでしょ。航が来るまえ、加純は男の子と一緒だったの。加純はカレじゃなくてボーイフレンドだって云うけど、デートの帰りだって云ってた。モデルやってるからかもしれないけど、高校生でもちゃんとメイクしてたし……。航とは中学から一緒にいるから、すっぴんでも恥ずかしいことはないけど、それに甘えて怠けてちゃいけないって思って」
「おれからすると、甘えるとか怠けるとか、そんなのはぴんと来ねぇけど……。要するに、加純ちゃんと張り合ってるわけだ」
航はずばりと云い当てて、くちびるを目いっぱい歪めてにやりとした。
「真剣だからバカにしないで」
実那都は少しむくれながら航の言葉をそっくり返す。すると、さっき反省していたはずが、航はやっぱり実那都の頭に手をのせた。
「怒るなって。どんなに加純ちゃんが完璧に化けたって、実那都に勝つことはない、おれにとっては。加純ちゃんだけじゃなくて、だれも実那都には勝てない」
不満げに尖っていた実那都のくちびるは三日月みたいな孤を描く。
「だと思った」
実那都が厚かましく受け合うと、航はいかにも満足そうに顎をしゃくって尊大になる。
「まあ……さっき寝顔がお気に入りっつったけど――それは本音に違いねぇけど、もっと本音を云えば、実那都が変わったって感じたら、おれもそれに関わっときたいんだよ」
なるほど、『仲間に入れて』というのは関わりたいということで、それは『一緒に楽しもう』と云ったことに繋がるのだ。
「じゃあ、わたしの睫毛のお手入れしたがるのは一石二鳥ってこと?」
「ってことだ。おれのラブコールでもあるわけよ」
「ラブコールって……」
「心の中でも常におれは愛を叫んでる」
一瞬、目を見開いた実那都は小さく吹いて、「だと思ってる」とついさっきと同じように云った。
「はっ。あんまり云ってっと重みがなくなるっつうか、また云ってるって本気に取られなくなるのも嫌だし……あとさ、うっとうしいとか、一歩間違えばストーカーっぽいだろ。てか、実那都がおれを嫌いになったら、間違いなくストーカーだ」
実那都は目を瞠った。そして、笑いだしそうになった刹那、航は実那都の鼻頭ぎりぎりに人差し指を突きつけた。
「笑うなよ。おれは真剣だ」
「可笑しいんじゃなくて、うれしくて笑うのもダメ?」
航の人差し指をつかんで目の前からずらしつつ、実那都は首をかしげた。
ん? と航は考えこむような面持ちになり、一拍置いて納得がいったふうに吐息をこぼす。
「いんや、それならいい」
けど、と続けながら、航は自分の人差し指をつかんだ実那都の手をつかみ返した。
「加純ちゃんに嫉妬するくらいだから、当面、おれのラブコールは安泰だってことだな」
「嫉妬って……。わかってるの?」
実那都は、加純の気持ちを知っているのか曖昧に訊ねてみた。
はっきり口にすると無視できなくなって、何より航の中で加純を見る目が変わることから始まって、果てには意識を変えてしまいそうな気もしてできなかった。その実那都の懸念は筒抜けなのか、航は詰め寄るようにぐっと顔を近づけてきた。
「鈍感な人間だって思われてんなら心外だな」
航は遠回しに加純の気持ちを知っていると認めた。
ほっとしたり不安だったり、笑いたくなったり憂うつだったり、相対する感情が入り混じる。
「自信満々だってことは知ってる」
「つまり、おれが自惚れてるって? どっちにしろ、勘違いされねぇようにはしてる。だれに対しても。おれが無駄に愛を吐いてると思ったら大間違いだからな」
実那都はきょとんとして目の前の航を見つめ、思考を急回転させた。
「それって……」
「ムシ除けだ。手っ取り早いだろ。これも一石二鳥だな。実那都ひと筋って宣言しとけば、云い寄られても断る面倒が省けるし、実那都は喜ぶ――だよな?」
「もちろんだよ」
実那都の返事を聞いたのか否か、そんじゃ、と航はテレビを消すと、あぐらをほどいて腰を浮かせる。繋いだ手をそのまま自分の首の後ろにやって、つかまるよう実那都を促す。そうして膝の裏をすくい、実那都はあっという間に抱きあげられた。
「航っ、自分で歩いていける!」
「ドラムは特に体力勝負だ。トレーニングに付き合えっていつも云ってる」
「すぐそこまでだし、役に立たないと思うけど」
「これは序盤、抱き潰れるまでが本番だ」
実那都は落ちないよう反射的にしがみついていた躰を引き離す。間近にある顔はにやついているけれど、その眼差しは挑むようで冗談っぽさは皆無だ。実那都を抱き潰すのではなく、航が抱き潰れるという状況ではまったく事情が異なる。
リビングの出口で、電気消して、という航の言葉に無意識に従ったのち、実那都はおそるおそるといった気分で航の顔を窺う。
「疲れてないの?」
「まえに云っただろ。疲れてるから振りきりたいって。ラブコールも、今日は言葉じゃなくて躰で勝負だ」
「……ほどほどでいいから」
隣の部屋に移ると、実那都はベッドがわりのロフトに軽々とおろされる。
「なんだよ。おれ、早く終わってくれってくらい下手くそなのか」
ベッドに上がってきた航は、実那都と向き合ってぐいっと顔を近づけた。
「そんなこと、“わたし”は云ってない」
ずっと以前のことを思いだして実那都が一部を強調すると、航も思いだしたのだろう、にやりとした。
航が自信なさそうに訊ねたのは見せかけで、きっと下手くそなんて少しも思っていない。それくらい、実那都はいつも丸わかりの反応をしている。あとになったら恥ずかしいけれど、そのままに恥ずかしがっていたら身動きが取れなくなるから、がんばって自分の反応を認めている。
「いまのいままで忘れてたけどさ、中学んときのことは遊びの一環だった。お互いにな。実那都もあの女が云ったことを聞いてただろ。それに、実那都とは全然、次元が違う」
「わたしは比べる人もいないけど」
「んー、実那都の拗ねた顔も可愛い。ジェラシーは大歓迎だ。おれを愛してるっていう、明確な実那都の意思表示だよな」
あまりに都合がいいポジティブな解釈で、実那都は笑わされる。あながち、間違ってはいないけれど。
「そういう考えって、やっぱりストーカーっぽい」
「あくまで“ぽい”だよな。ストーカーじゃなくて、おれのラブコールが最強なんだ。だろ?」
少年っぽい無邪気な自信満々ぶりに笑いながら、実那都は大きくうなずいた。
「わたしも航の寝顔は好き。綺麗だから。それに、朝起きて寝顔を見たとき、一緒に暮らしてるってことをいちばん実感できるんだよ」
そんな実那都の告白に航は小さく呻くと。
「そろそろ躰で語り合おうぜ」
航は航らしく云い、実那都の頬を両手でくるむと下から笑みをすくうようにくちびるをふさいだ。
ー第8話 了ー
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更新楽しみにしています。
読んでいただきありがとうございます。
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その時にまたお付き合いいただけたら嬉しいです。
初レビューまで喜びました。ありがとうございます。
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まこちゃん様
読書していただいてありがとうございます。
FATEシリーズ他作を読んでくださっていて倍増しで嬉しいです!
ずっと続きをと思いつつ、やっと次のステップに入りました。
コメントまでいただけて喜びました。励みになります。
サクッとは更新できませんが楽しんでいただけるようにがんばりますので、お付き合いをよろしくお願い致します。
れゆな深謝