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第3章 恋は刹那の嵐のようで

11.

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 はじめてのときよりも引きつっている気がする。いつもと違うきつさに怯えて、環和は少し委縮したかもしれない。なめらかさはなく、やわらかい粘膜が響生のオスに張りついてひどい摩擦を生んでいる。そうなれば快感から遠ざかり、ぬめりかけていたそこも乾いていくような、はじめての感触に見舞われる。かろうじて、オスが環和の唾液に塗れていたことが緩和剤になっているけれど、それも尽きそうな気配だ。
 くっ。
 環和は息を詰めていて、それなら聞こえた呻き声は響生のものだ。目を開けると、環和に覆いかぶさった響生の顔が真上にあった。

 果てそうなとき、響生はいまみたいに耐えきれないといった様で呻く。陶酔した、まるで無防備な面持ちになるけれど、いまは違う。快楽からきている表情ではないように感じた。環和がそうであるように摩擦が痛むのか、それとも同じであることを求める環和の幻想なのか。
 少なくとも環和への気遣いは皆無で、響生はがむしゃらに腰を前後させる。環和は手を上げて響生の眉間に触れた。両手の中指の腹で撫で、すっと鼻を伝ってくちびるへと滑らせる。口が開いたかと思うと、指先が咥えられた。甘噛みして、それから吸いつかれた。
 あっ。
 指先に甘い痺れを感じ、そこに性感があるとは思えないのに、体内を伝っておなかの奥に届いた。響生は指先に舌を絡め、また吸いつくと、環和は躰をよじった。すると、いままで引きつったきつさしかなかった繋がりが、快感を呼び覚ました。

 あ、あっ……。
 指先への吸着が繰り返されるたびに環和なの口から嬌声が漏れ――
 ぅ……っ。
 指を咥えたまま響生が呻く。それはのぼせたような面持ちで、熱い吐息が指先に纏わりつく。律動が一段と激しくなり、そうして環和の指先を放した一瞬後、響生は中心を密着させてぶるっと腰をふるわせた。
 躰の奥がくすぐられ、熱く濡れそぼつ。はじめてのじかの感触に環和のお尻までふるえてしまう。
 いつもとは反対に環和を置いてけぼりにして、一方的に快楽を放った響生はそれで終わるかと思ったのに、呼吸が荒くも少し落ち着いた頃、腰を引きかけ、そしてまた突いてきた。

 あっ。
 ぐちゅっと音が立ったのは、響生が放った慾のしるしがもたらしているに違いなく、それは環和の中を滑らかにして快感を覚醒させた。いったんは力尽きた響生の慾もまたオス化している。動いているうちに環和の中を満たして、余すところなく弱点が摩撫され、感度は上昇していく一方だ。
 奥を突かれれば体内が痙攣して、出ていく寸前まで抜けだせば、引き止めるように腰が浮く。全身にわたり脱力感に似た快感に塗れ、環和の躰は無防備に開いた。息づいているのは響生で埋め尽くされた中心だけだった。

 環和の中で発生する快楽音は恥ずかしいほど大きくなって、耳をも侵す。響生の慾の痕だからとはもう云い逃れができない。体内ではおさまりきれず、溢れだしているに違いなく、入り口はしとどに濡れた感触がある。
「響生っ、も……イっちゃ……ぅ」
 環和の背中がのけ反った。
「くっ……隙だらけ、だ。それで……大丈夫、なのか」
 響生は息を切らしながら、責めるように吐く。まるで果てることを咎めているようで、けれどそれとは裏腹に響生は律動を激しくしていく。スピードを増すのではなく、どこもかしこも刺激するように腰をうごめかして最奥まで穿ってくる。

「ぃ、やぁっ」
 快楽と引き替えに思考力が融けだしそうな喪失感に襲われた。
 響生がそれを拒絶と受けとるわけはなく――受けとったとしても強硬ないまの響生がやめるはずはなく、環和を容赦なく追いつめた。
「あ、あ、あ、……っぁあっ、だ、めっ……――」
 びくっと腰を跳ねちらし、巻きこまれた響生が二度めの唸り声を放つ。熱く迸る慾のしるしは快楽に浸かった躰をさらに嬲るようで、環和は嗚咽を漏らした。
「環和」
 響生は環和の上に伏せ、ふたりの躰をぴたりと密着させた。荒い呼吸がぶつかり合って、それも快楽を持続させる。すぎる快楽はやはり苦痛と紙一重だ。環和の嗚咽がひどくなり、響生はくちびるの端に口づけてなだめるように頭に手を添えた。頬を合わせ、包みこむようなしぐさは守られているようでもあった。

 ぴくりとした反応はまだ繋がっているせいで、なかなかおさまらない。ただ、だんだんと快楽から満ち足りた感覚へと変化していった。
 環和はやがて深く、長い息をついた。
「響生……響生が好き」
 云いたくてたまらなかったことをやっと素直に云えて、環和はくすっと独り笑う。
 最初に告白に答えたのはため息だった。
「懲りないな。男にいいようにされて付け込まれる」
「響生は悪い人じゃないから。それだけはわかってる」
 おなかが揺れたのは笑ったのか、耳もとにも短い吐息が連続する。くすぐったさとも快感とも見紛う感覚に環和は喘いだ。
 それと入れ替わりに、今度は長い吐息がひとつこぼれ、そうして――
「ガキの頃、川にさらわれたことがある」
 環和は想像もしなかった告白に目を見開いた。
 頬を合わせていてその表情を見ることはかなわなかったけれど、響生の声は淡々としていながら、強靱なはずの躰が怯えたようにふるえた。
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