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第4章 rebel lane~逆走~

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「永礼の秘蔵っ子と聞いていたが、それを手放さなければならないほど永礼は失態をやらかしたらしいな」
 それが関口組長の颯天に対する第一声だった。
 剥げたのか剃ったのか丸坊主の頭に分厚いくちびる、鼻も団子鼻に近い。鋭く颯天を見る目だけが細さを感じさせる。年の頃は、六十歳手前というところか。太っているのか体格がいいのか判別はつかないが、高圧的な雰囲気だ。それは、永礼や清道や緋咲の雰囲気と違って、貫禄ではなく見た目の圧倒感にすぎない。
 関口は、ばかに大きいデスクの向こうで革張りの椅子にふんぞり返って颯天を迎えた。デスクを挟んで颯天が見下ろす側なのにもかかわらず、関口は顎をしゃくり、伏せ目がちに見やっておののかせる。
「永礼組長が失態ですか?」
 そう訊ねた颯天を粘りつくような眼差しで見ながら、関口はにやりとしておもしろがった。
「聞いていないのか」
「僕には何も知らされませんから」
 実際のところ、フィクサーを監視しろという命のもとEタンクに売られたわけで、颯天はその裏に事情があるとはまったく思っていなかった。関口が競りで落としたことと大して変わらず、祐仁から品評会で選ばれたのと同じだ。
 ――ちょっと待て。
 ふと颯天は不自然さに気づいた。あのとき祐仁が選んだのは颯天一人だけだ。顔を隠されていたのに、永礼や清道はなぜ颯天が選ばれると確信していたのか。いや――ひょっとしたらだれを選んでも颯天が行かされた。そういう絡繰りだったのだ。
 颯天はすぐさま自らで答えにたどり着き、関口に神経を集中した。
「聞かせてもらえるんですか」
 それは反抗的に聞こえただろうか。演技であって演技ではない。颯天の心境は複雑だ。
 そして、関口の眉が片方だけ跳ねあがる。
「聞いてはいたが、おつむが悪い男娼ではなさそうだな」
「……聞いていた?」
「競りで見たかぎり快楽にはめっぽう弱いようだが、男娼に甘んじているだけと耳にした。おれに協力する気があるなら、おまえ次第でおまえの希望に協力してやってもいい」
 颯天がいまの境遇に甘んじているだけだと思っているのは祐仁だけでなく永礼も、そして清道もそうかもしれない。関口は聞いたとか耳にしたとか云う。実際に颯天が口にした相手は祐仁と春馬しかいない。迷うまでもなく、関口は春馬から聞いたのだ。競りがあったのは一昨日、こんなに早く伝達されるということは、やはり春馬は関口組と深く繋がっていることの裏付けだ。
「なんに協力すればいいんですか」
「云ったろう、これからのおまえ次第だ。丸腰で信用するわけにはいかん。従順でありながら裏で何を考えているかわからんからなぁ」
 永礼には適わなくとも、関口もトップにいる身で、そう甘くはない。
「当然ですね。ぼくも関口組長に確認しておきたいことがあります。ぼくの希望が何かご存じですか」
「男娼という身分から逃れたいのではないのか」
「それ以上にこの世界から逃れたいんです」
「それならやはりおまえ次第だな。おれを楽しませることだ」
 楽しませるという真意は測れないが、事は思う方向へと進んでいる。どうやって楽しませればいいのかわかりませんが、と颯天は途方にくれた様を装い――
「永礼組長のことは教えていただけるんですか」
 と問うてみた。
「知りたいのか」
「自分に関係することであればあたりまえに知りたいです」
 関口は鼻先で笑い、椅子を引きながら、こっちに来い、と命じた。
「裸になれ」
 デスクをまわって、向きを変えた関口の正面に立つと、颯天はためらわずに服を脱ぎ捨てる。その間に、関口は自分の下腹部に手をやってベルトを外し、ジッパーをおろしてスーツパンツの前をはだけた。
「しゃぶれ。おまえの反応が見たい」
 颯天は二歩踏みだして床にひざまずくと、トランクスの中から引きだされたオスをつかんだ。見た瞬間にいびつだと思ったが、その感触に思わず関口を見上げた。
「はじめてか、こういう男根は?」
 関口はにやにやとしたり顔で問いかけ、「一度これを味わったら忘れられんらしいが」と独り悦に入る。
「楽しみにしておけ。さあ、咥えろ」
 こんなことはやりたくない。外見から品格を感じられない男ならなおさらだ。
 これまで男娼でありながら、相手は選ばれた男たちだったと颯天はいまさら気づく。性的嗜好は様々だが、少なくとも暴力めいたことはなく、なお且つ不衛生な不快さに遭ったこともない。
 その不快感をおくびにも出さず、颯天は口を開いた。
 颯天は甘んじるだけではなく、五年の間に男娼として自制する術を身に着けていた。関口が用心深くなるのも当然であり、むしろそうでなければよほどの能無しだ。
 颯天は男根に口を寄せ、咥えて奥へと含む。くびれのすぐ下に埋めこまれた丸い粒がくちびるの裏側をくすぐり、不覚にも颯天は呻いた。
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