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第2章 median strip~分離~

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 疾しさがあってすぐには答えられないのか。疾しさを祐仁が感じているぶんだけましなのか。それだったら、少しは颯天のことを考えていることになる。そんなわずかな期待を抱く自分に気づいたところで、颯天はわらう気にも呆れる気にもなれない。いまはただ祐仁の答えを待った。
 云いたくないのならかわせばいいのに祐仁はそうすることもなく、やはり彼らしくない。そう思うと、告げるのを窮するほど何があるのか不安になってくる。
「もう――」
 ――いいですよ、と颯天のほうがその答えから逃げかけたが、やっと颯天へと目を戻してきた祐仁によってさえぎられた。
「おれのものになれ、そう云っただろう。おまえを愛人にするのはおれだ」
 さっきまでの沈黙はなんだったのかと思うほど、祐仁は決然として見えた。颯天の内部まで射貫くような眼差しだ。
「けど……ためらったってことは、最初は少なくともそういうつもりじゃなかったんだ。違いますか」
 祐仁は薄く笑った。都合が悪いふうでもなく、おもしろがっている。
「最初っていうのは、おまえとおれじゃ時間差あるけどな。そのとおりだ」
「時間差? どういうことですか」
 祐仁は神通力を保持しているかのごとく、問い返した颯天の目を捉えて放さない。嘘を云えばたちまち見抜くぞといった様で祐仁はおもむろに口を開いた。
「颯天、おまえはおれの話を聞く覚悟はあるか」
 おかしな云い分だった。話すことに覚悟が要ることはあっても、聞く側になぜ覚悟が必要なのか。
 訳のわからない覚悟を迫られるのなら、祐仁にも覚悟をしてもらいたいことがある。祐仁が、春馬の云う“足下へも寄りつけない”人なら、御門違い、身の程知らずと云われるに違いないが。
「工藤さんは自分のことを朔間さんのパートナーだと云ってました。けど、わかるんですよ、そのパートナーって意味。おれは工藤さんと取り合いする気にはなれませんから」
 云い終えたとたん、祐仁はわきまえろと咎めるどころか、大げさなほど声を出して笑いだした。
「だれを取り合うんだ?」
 祐仁にからかわれて、また嫉妬じみたことを――いや、はっきり嫉妬を口走ったことに気づかされた。笑い飛ばされたことへのむっとした不機嫌さは消え去り、かわりに颯天の心底しんていには俄に覚悟が生じる。
「おれは……朔間さんをだれかと共有するなんてできない。おれ一人って決めてくれたら聞いてやってもいい」
 身の程知らずだろうが、祐仁への恋慕を認めてしまうと颯天は怖いものがなくなった。
「その云い方、恩着せがましいし、違わないか」
「違いませんよ。朔間さんがおれに聞いてほしがってる」
 祐仁は確信に満ちた疾風の言葉を聞き、さっきよりは静かだがまた声を出して笑う。かと思うと真顔になり、そうしていきなり顔を近づけた。焦点が合わないほど目と目の距離がなくなり、直後、颯天はくちびるをふさがれた。
 抵抗するのではなく、そして迫られてもいないのに颯天は口を開けた。颯天から進んで身をゆだねたという、はじめての証しは伝わったのか、すかさず祐仁は舌を差し入れ、颯天の舌に絡めた。
 どうすれば祐仁が口づけに満足するのかわからない。颯天は祐仁を侵したい衝動に駆られ、くちびるとくちびるのすき間を探り、本能のまま舌をねじ込むように伸ばした。
 く、ふっ。
 呻いたのはどちらか。罰するように祐仁は颯天の舌を絡めとりながら吸引した。
 ふぁあっ。
 口が緩んで颯天は間の抜けた喘ぎ声を漏らし、舌は快感に痺れて痙攣する。颯天の口内に溜まったふたりの唾液がだらしなく口の端からこぼれた。
 祐仁はいきなり颯天の舌を放つと、一分にも満たないキスにもかかわらず息を荒らげながら顔を上げた。
「颯天、聞かせてやる」
 祐仁もまた恩着せがましく云ったが、颯天が迫った覚悟を受け入れたという返事でもあった。
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