19 / 64
第2章 median strip~分離~
5.
しおりを挟む
疾しさがあってすぐには答えられないのか。疾しさを祐仁が感じているぶんだけましなのか。それだったら、少しは颯天のことを考えていることになる。そんなわずかな期待を抱く自分に気づいたところで、颯天は嗤う気にも呆れる気にもなれない。いまはただ祐仁の答えを待った。
云いたくないのならかわせばいいのに祐仁はそうすることもなく、やはり彼らしくない。そう思うと、告げるのを窮するほど何があるのか不安になってくる。
「もう――」
――いいですよ、と颯天のほうがその答えから逃げかけたが、やっと颯天へと目を戻してきた祐仁によってさえぎられた。
「おれのものになれ、そう云っただろう。おまえを愛人にするのはおれだ」
さっきまでの沈黙はなんだったのかと思うほど、祐仁は決然として見えた。颯天の内部まで射貫くような眼差しだ。
「けど……ためらったってことは、最初は少なくともそういうつもりじゃなかったんだ。違いますか」
祐仁は薄く笑った。都合が悪いふうでもなく、おもしろがっている。
「最初っていうのは、おまえとおれじゃ時間差あるけどな。そのとおりだ」
「時間差? どういうことですか」
祐仁は神通力を保持しているかのごとく、問い返した颯天の目を捉えて放さない。嘘を云えばたちまち見抜くぞといった様で祐仁はおもむろに口を開いた。
「颯天、おまえはおれの話を聞く覚悟はあるか」
おかしな云い分だった。話すことに覚悟が要ることはあっても、聞く側になぜ覚悟が必要なのか。
訳のわからない覚悟を迫られるのなら、祐仁にも覚悟をしてもらいたいことがある。祐仁が、春馬の云う“足下へも寄りつけない”人なら、御門違い、身の程知らずと云われるに違いないが。
「工藤さんは自分のことを朔間さんのパートナーだと云ってました。けど、わかるんですよ、そのパートナーって意味。おれは工藤さんと取り合いする気にはなれませんから」
云い終えたとたん、祐仁はわきまえろと咎めるどころか、大げさなほど声を出して笑いだした。
「だれを取り合うんだ?」
祐仁にからかわれて、また嫉妬じみたことを――いや、はっきり嫉妬を口走ったことに気づかされた。笑い飛ばされたことへのむっとした不機嫌さは消え去り、かわりに颯天の心底には俄に覚悟が生じる。
「おれは……朔間さんをだれかと共有するなんてできない。おれ一人って決めてくれたら聞いてやってもいい」
身の程知らずだろうが、祐仁への恋慕を認めてしまうと颯天は怖いものがなくなった。
「その云い方、恩着せがましいし、違わないか」
「違いませんよ。朔間さんがおれに聞いてほしがってる」
祐仁は確信に満ちた疾風の言葉を聞き、さっきよりは静かだがまた声を出して笑う。かと思うと真顔になり、そうしていきなり顔を近づけた。焦点が合わないほど目と目の距離がなくなり、直後、颯天はくちびるをふさがれた。
抵抗するのではなく、そして迫られてもいないのに颯天は口を開けた。颯天から進んで身をゆだねたという、はじめての証しは伝わったのか、すかさず祐仁は舌を差し入れ、颯天の舌に絡めた。
どうすれば祐仁が口づけに満足するのかわからない。颯天は祐仁を侵したい衝動に駆られ、くちびるとくちびるのすき間を探り、本能のまま舌をねじ込むように伸ばした。
く、ふっ。
呻いたのはどちらか。罰するように祐仁は颯天の舌を絡めとりながら吸引した。
ふぁあっ。
口が緩んで颯天は間の抜けた喘ぎ声を漏らし、舌は快感に痺れて痙攣する。颯天の口内に溜まったふたりの唾液がだらしなく口の端からこぼれた。
祐仁はいきなり颯天の舌を放つと、一分にも満たないキスにもかかわらず息を荒らげながら顔を上げた。
「颯天、聞かせてやる」
祐仁もまた恩着せがましく云ったが、颯天が迫った覚悟を受け入れたという返事でもあった。
云いたくないのならかわせばいいのに祐仁はそうすることもなく、やはり彼らしくない。そう思うと、告げるのを窮するほど何があるのか不安になってくる。
「もう――」
――いいですよ、と颯天のほうがその答えから逃げかけたが、やっと颯天へと目を戻してきた祐仁によってさえぎられた。
「おれのものになれ、そう云っただろう。おまえを愛人にするのはおれだ」
さっきまでの沈黙はなんだったのかと思うほど、祐仁は決然として見えた。颯天の内部まで射貫くような眼差しだ。
「けど……ためらったってことは、最初は少なくともそういうつもりじゃなかったんだ。違いますか」
祐仁は薄く笑った。都合が悪いふうでもなく、おもしろがっている。
「最初っていうのは、おまえとおれじゃ時間差あるけどな。そのとおりだ」
「時間差? どういうことですか」
祐仁は神通力を保持しているかのごとく、問い返した颯天の目を捉えて放さない。嘘を云えばたちまち見抜くぞといった様で祐仁はおもむろに口を開いた。
「颯天、おまえはおれの話を聞く覚悟はあるか」
おかしな云い分だった。話すことに覚悟が要ることはあっても、聞く側になぜ覚悟が必要なのか。
訳のわからない覚悟を迫られるのなら、祐仁にも覚悟をしてもらいたいことがある。祐仁が、春馬の云う“足下へも寄りつけない”人なら、御門違い、身の程知らずと云われるに違いないが。
「工藤さんは自分のことを朔間さんのパートナーだと云ってました。けど、わかるんですよ、そのパートナーって意味。おれは工藤さんと取り合いする気にはなれませんから」
云い終えたとたん、祐仁はわきまえろと咎めるどころか、大げさなほど声を出して笑いだした。
「だれを取り合うんだ?」
祐仁にからかわれて、また嫉妬じみたことを――いや、はっきり嫉妬を口走ったことに気づかされた。笑い飛ばされたことへのむっとした不機嫌さは消え去り、かわりに颯天の心底には俄に覚悟が生じる。
「おれは……朔間さんをだれかと共有するなんてできない。おれ一人って決めてくれたら聞いてやってもいい」
身の程知らずだろうが、祐仁への恋慕を認めてしまうと颯天は怖いものがなくなった。
「その云い方、恩着せがましいし、違わないか」
「違いませんよ。朔間さんがおれに聞いてほしがってる」
祐仁は確信に満ちた疾風の言葉を聞き、さっきよりは静かだがまた声を出して笑う。かと思うと真顔になり、そうしていきなり顔を近づけた。焦点が合わないほど目と目の距離がなくなり、直後、颯天はくちびるをふさがれた。
抵抗するのではなく、そして迫られてもいないのに颯天は口を開けた。颯天から進んで身をゆだねたという、はじめての証しは伝わったのか、すかさず祐仁は舌を差し入れ、颯天の舌に絡めた。
どうすれば祐仁が口づけに満足するのかわからない。颯天は祐仁を侵したい衝動に駆られ、くちびるとくちびるのすき間を探り、本能のまま舌をねじ込むように伸ばした。
く、ふっ。
呻いたのはどちらか。罰するように祐仁は颯天の舌を絡めとりながら吸引した。
ふぁあっ。
口が緩んで颯天は間の抜けた喘ぎ声を漏らし、舌は快感に痺れて痙攣する。颯天の口内に溜まったふたりの唾液がだらしなく口の端からこぼれた。
祐仁はいきなり颯天の舌を放つと、一分にも満たないキスにもかかわらず息を荒らげながら顔を上げた。
「颯天、聞かせてやる」
祐仁もまた恩着せがましく云ったが、颯天が迫った覚悟を受け入れたという返事でもあった。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる