上 下
13 / 64
第1章 Cross-Border~越境~

12.

しおりを挟む
 人差し指と中指の先には、ニンニクとオリーブオイル風味の味がかすかに残る。颯天はそれを舐めとると親指に移った。吸いつくようにしながら顔を放していき、口から指が抜けた。
 祐仁を見上げると、目を細めてかすかに眉間にしわを寄せている。何が気に喰わないのだろう。そう思っていると、祐仁は形だけの笑みを見せた。皮肉っぽくもなく、嘲るようでもない。
「今度はおれが空腹を満たすばんだ」
 祐仁は立ちあがり、颯天が座った椅子を九十度まわして向きを変えた。斜め向かいの席にある椅子の背に手を伸ばすと、ベルトを二つ手に取った。そんなものがあるとも気づかなかったが、ベルトで何をするつもりなのか、颯天には見当もつかない。
 颯天の疑問をよそに向き直った祐仁は躰を折って、膝と膝の間に手を入れた。
「な、なんですか」
「いまさら足掻くな」
 軽くあしらい、祐仁は脚の間に通したベルトで右脚と椅子の脚を一緒に括った。
 颯天は革のしなやかさを感じながら、それがベルトではなく拘束用のバンドだとわかった。ふくらはぎの上を適度に締めつけられて、本能的に閉じようとしたがかなわない。
「朔間さんっ」
 祐仁は顔を上げ、見下ろしながらも顎を引いて上目遣いで颯天の目を捕らえた。
「縛られてるほうがラクだぞ。縛られてたからしかたなかったって自分への口実になる。おまえ、自我が強そうだから」
 気を遣っているようでいて、その実、祐仁の目を見れば容赦なく颯天を好きにするつもりなのだと察せられる。
 祐仁の云うことに一理あると思いながらも、気持ちはついていかない。本気で抵抗するべきか迷っているうちに左脚も固定され、椅子を跨ぐような恰好になり、躰の中心が無防備に晒された。
「食べろ。桃のシャーベットだ」
 颯天の羞恥心を気にも留めていないのか、祐仁は空腹を満たすのは自分だと云っておきながら颯天にスプーンを向けた。クリーム色をしたシャーベットは山盛りだ。ほかのを食べている間、置きっぱなしにしていたせいで溶けかかり、一滴二滴とちょうど颯天の開いた脚の間に落ちる。
「毒も薬物も入っていない。ただ冷たいだけだ」
 颯天が避けるように顔を引くと、祐仁はそう云ってスプーンを自分の口に持っていき、舌を出して舐めた。毒見したあとそのまま颯天の口もとに当てられ、くちびるがひやりとする。
 逆らっても無駄だし、逆らうほどのことでもない。颯天は口を開けた。祐仁が云ったとおり、口腔には桃の味が広がる。甘いものは苦手でもなく、甘さ控えめのシャーベットもいいが、山盛りのシャーベットは感覚が麻痺しそうなほど口の中をひんやりとさせた。
 二度め、スプーンが迫ってきた。
「もう――」
 ――いい、と拒みかけたがさえぎられ、くちびるの隙間に押しつけられれば食べざるを得ない。それが祐仁の意志だからだ。
 颯天が一度に口の中に入れてしまうと、祐仁はスプーンを器に戻した。三度めはないらしい。シャーベットを呑みこむように食べた矢先、祐仁は身をかがめたかと思うと颯天に口づけた。
 んんっ。
 緩んでいたくちびるが舌で割られる。無遠慮に侵入してくると、祐仁の舌は驚くほど熱く感じた。舌の這った感触がくっきりとあとを残していく。舌に絡みつき、吸いつかれると温度差がどうしようもなく心地いい。舌が痙攣するほど快感に侵された。快感は下腹部に伝達され、また熱を持ったように感じて颯天は焦った。
 んあっ。
 喘ぎながら首を横に振ると、祐仁はあっさりと離れていく。
「どうだ、シャーベットの効果は? 気持ちいいだろう」
「……あたりまえに熱く感じただけです」
 ふっと祐仁は可笑しそうに息をついた。そうして祐仁が颯天の下腹部に手を置いたとたん、颯天はびくりと躰を揺らす。そのさきは自ずと察せられる。
「さっきまで萎えてたのにな、キス一つで半勃はんだちしてるぞ。触ったらどうなるんだ?」
 祐仁がにやついた云い方で煽り、颯天の中心を捕らえた。
 背中から粟立つようなぞくりとした感覚が走り、身動きが取れないなかでも胸を反らし、颯天はびくんと腰を突きあげる。
 あっ、あああっ。
 颯天のものを包みこんだ手は扱くようにしながら先端へと抜けていく。その間、颯天はがくがくと腰を揺さぶっていた。どうにか快楽を堪えた颯天は、解放されたあと激しく喘いだ。
「処女はただでさえ反応がいい。委縮する奴もいるけどな、おまえは違うみたいだ。淫乱な愛人になる素質がある」
 祐仁は悦に入った声でつぶやいた。
 とてもまともには聞いていられない、受け入れがたい言葉だ。颯天は顔を背け、息を整えようと努めた。
 祐仁に温度差の口づけとちょっと中心を弄られただけで、いまから自分に何が起こるのかを予感させた。考えたくない。考えると恐ろしい。
 快楽を逃すためには冷静さを失わないことだ。自分に云い聞かせるさなか、器とスプーンがぶつかる音がして、直後、再び中心がくるまれる。
 ぅわぁああっ。
 中心を捕らえられただけではなかった。祐仁の手は恐ろしく冷たかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...