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64.究極のエロティシズム(1)

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 魂が宿った器。簡単に云えば、即ち、躰だ。
 再びプールに入ることはなく、部屋に戻ろう、と云って、京吾は智奈に有無を云わせなかった。
 部屋に戻ってバスルームに行き、智奈が服を脱いだときその下が水着のままとわかると、いきなり京吾のスイッチが入った。水着のままでなかに連れていかれると、シャワーの下で智奈は襲われ、一方的に快楽に浸かった。
 智奈はくたっとして京吾に寄りかかって――濡れそぼつなか、裸で抱きつくのはひどく気持ちがいいのに、京吾は意地悪をするように躰を離してしまった。
 京吾は智奈にバスローブを羽織らせてから抱きあげ、リビングに行って椅子におろした。椅子はふかふかで、智奈はくたっと深く沈みこむ。京吾は冷蔵庫からスポーツドリンクを持ってきて智奈に手渡した。
「智奈、人前で二度とあの水着は着ないでほしい」
 さっそくドリンクを飲んでいた智奈はむせそうになって、慌てて飲みこんだ。
「そんなに刺激的?」
「あれは水着じゃない」
「そういうの、自業自得って云わない? それに、わたしが着て、そう思うのは京吾だけかもしれない。しかもいま限定で」
「いま限定?」
「おなかがおっきくなるし、水着だと不恰好だし……」
 智奈が首をすくめると、んー、と京吾は賛同しかねるといった具合に首をひねった。
「何?」
 京吾は智奈が座った椅子の向きを少し変えて、正面でひざまずいた。智奈のバスローブのベルトに手をかけてほどき始めた。
「妊娠は、オスにとっては征服の結果だ。おれのものだっていうしるしが――」
 ――ここにある、と、京吾はバスローブをはだけて智奈の腹部に手のひらを添えた。
「ある意味、究極のエロティシズムだろう?」
 京吾は嫌らしく笑み、手に負えない。その傍ら――
「妊娠がエロティック?」
 と、京吾がそう感じるのなら、智奈の杞憂はやっぱり杞憂で、出会うきっかけや理由がどうであろうと京吾は病的に、そして智奈が願うとおりに、どうかしている。
「正直、生まれるまで加減できるか不安だ」
 智奈はくすっと笑う。純粋な幸せが復活してくる。
「だったら、妊娠は京吾がわたしを抱き尽くして満足してしまうまでの期間を延期してくれそう」
「その認識は誤りだな。同化して満ち足りる。繋がることでそれは完成されるけど、離れればまた飢える。智奈が何を不安に思ってるか、わかる気はする。いま、この時が永遠であればいい。おれもそう思うから。だから――、智奈に対する飢餓感から解放されることはない――その確たる証明はおれの命が尽きるときにしかできないけど」
「だめ!」
 智奈はとっさに叫んだ。
「だめって?」
「わたしのほうがさきに逝く。京吾はそのときちゃんと傍にいて」
 京吾は目を見開いて、それからふっと笑った。おもしろがっているのでもなくうれしいのでもない。読み間違いでなければ、さみしい、そんな微笑だ。
「さすが、智奈はさみしがり屋だ」
「約束できる?」
「できるかぎり」
 しりとりみたいな返事はふざけているのか、京吾は、そろそろ、と気分を変えた気配で云い、智奈の腹部から手を放した。
 さっきほどいた、智奈のバスローブのベルトをするすると引き抜いて、京吾は智奈の右手を取った。それから右脚の膝の裏を持ちあげると肘置きの上に引っかける。
「京吾っ」
 バスローブの下は何も身に着けていない。いまだなくならない羞恥心から、右脚を閉じようと試みたけれど京吾にさえぎられた。何をするつもりか考えつかないうちに、右側の手首と足首がひと纏めにしてベルトで括られてしまう。
「待ってっ」
 智奈の言葉を無視して、京吾は自分のバスローブのベルトをほどきながら、智奈の左手からペットボトルを奪い取った。左側も同様にされると判断はついたけれど、京吾の力と速さには敵わなかった。
 京吾の前で無防備に躰が開き、智奈は恥ずかしいことこの上ない。――いや、“同化”するときは、もっと深く繋がっていたいという欲求に自ら開いて、似たような恰好になる。それを思うと、拘束されているのは不可抗力で羞恥心は不要なのかもしれない。
 いや、そんなことはどうでもいい。無駄なことを考えてしまうのは羞恥心から逃れるために違いなく。
「京吾、こんなことしなくても……!」
「束縛は嫌いじゃない。智奈は訊ねただろう? その答えを行動で示してる」
 あのとき失言だと感じたのはこういうことだったのだ。京吾は主観がどうこう云っていたけれど、都合よく解釈しすぎだ。
「全然、意味が違う!」
 加えて、バスルームでは発情していながら自分の欲望を満たしていないのに、智奈をベッドではなくリビングに連れてきた理由もわかった。束縛するためだったのだ。
「違わない。それに、おれは心的にも躰も智奈を束縛したい欲求は常にある」
 これでお相子だ、と京吾はバスローブを脱いで裸体を晒した。その中心では、欲求もまた露骨に晒されている。
「見てのとおり、収拾がつかない。なだめてほしい」
 臆面もなく京吾はくちびるを歪めて淫靡な一夜をほのめかした。
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