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13.キスは味覚を刺激する
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ふっ、とキョウゴは息を漏らした。ただの吐息か笑みかはわからないけれど、そうするまでに、どうしたんだろうと智奈が思ってしまうほどの少しの間が空いた気がした。
「まえに会ったことがあったとして、すぐに思いだせないほど印象に残らないってかなりの衝撃だ」
キョウゴの発言は自惚れだ。けれど、否定できる人もまたいない。智奈とて、今朝、ホストと聞かされたとき、ロマンチックナイトで働いているのなら憶えていないはずがないと思った。それは普段の生活のなかでも当てはまることだ。何かしらの電話を受けたことがあって声を知っていただけという可能性もあるけれど、去年まで智奈はホストとの縁がなかったし、会社の人材業は夜の街の仕事は取り扱っていない。声を知っているとしたら会ったからであって、すなわち憶えているはずだ。
「声を知っているような気がしただけです」
「声? まったく同じということはないだろうけど、似た声はいくらだってあるからな。それより、キスに夢中になってたと思ってたのに、この状況でどうでもいい話をするって、おれに魅力がないってことか?」
「ううん、ちょっと気になっただけ。魅力がないのはわたしのほうだし……」
「キスは気に入ったってわけだ」
智奈が『ううん』と否定したのは『どうでもいい』という言葉に対してだったはずが、キョウゴはわざとだろうけれど、やはり都合のいいように捉える。
それなら、とキョウゴは続けた。
「その魅力がないっていうのが智奈のコンプレックスなら、すぐに克服できる」
キョウゴはそんなことを断言すると再びくちびるを合わせた。吸着して、すぐにくちびるは浮いていくけれど――
「口を開けて」
かすかに接点を残したまま、キョウゴが囁いた。くちびるにかかる吐息が熱い。思わず従ったのは、智奈の中に拒絶したい気持ちが皆無だったからだ。力を抜くと口がかすかに開いて、キョウゴが舌でくちびるを割る。またさっきと同じように、ゆったりと智奈の口内でうごめき始めた。
舌は頬の裏側を這い、歯並の裏側を滑っていく。ただ舌で撫でられているだけなのに、くすぐったいような感覚は智奈に陶酔感をもたらした。
キョウゴは少し顔を斜め向ける。キスの角度が変わって智奈の舌が絡めとられた。智奈の領域で起きていることなのに、主導権は奪われている。
キョウゴの意思のまま舌が踊らされ、感じるはずのない味覚が刺激されて、甘ったるい蜜が口の中に生成されていく。智奈は寝転んでいるのに、それでも酔ってしまったようにくらくらしてきた。
んふっ。
蜜が溢れそうになって無意識に飲みこむと、キョウゴの舌を巻きこんで、自分のものではない小さな唸り声が智奈の口内にこもった。そうしてキョウゴは、キスにとどまらず食べてしまいそうな勢いで口を押しつけてきた。
キョウゴの舌が大きくうごめいて、智奈の舌をすくい、吸いつく。
んんんっ。
舌の神経がざわついて、あまりの心地よさに痙攣する。智奈はまた力尽き、躰がベッドに沈むような感覚がした。そのとき。
ん、くぅっ……。
力尽きたはずが、魚が跳ねるように智奈の背中が反って胸が跳ねあがる。
キスにのぼせている間に、キョウゴは智奈のパジャマの上着をはだけ、インナーをたくし上げて小高いふくらみをあらわにしていた。そのトップがそれぞれ指先で抓まれている。そうしたまま小さく揺り動かされて、智奈の胸が連続してぴくぴくと小刻みに跳ねた。はじめて知るこの感覚が快楽というものなのか、鋭すぎて落ち着く間もない。
キスと相まって呼吸がうまく整えられず、胸先の快感が躰全体に広がって寒くもないのに身ぶるいをし始めた。キョウゴは舌と指先で器用に智奈を快楽に侵し、追いつめていった。逃れられないまま、ふと気が遠くなったような感じがしたあと、智奈の躰はぶるっと波打った。
キョウゴはゆっくりと顔を上げて、くちびるを放した。
「智奈」
荒っぽく息をつきながらキョウゴが呼びかけ、智奈はぼんやりとしたまま聞き遂げて瞼を上げる。乱れた呼吸は智奈のものか。そんな認識さえ難しい。定期的に躰がびくっとして、止めようとしても止められない。
「ん……っ」
「はじめてだからか? 軽くイッてたみたいだ。智奈は敏感すぎるかもな」
その声音を聞くかぎり、文句ではなく喜んでいそうだけれど。
「……ヘン、です……か……」
智奈は不安になって、息切れしながら訊ねてみると、キョウゴのくちびるがきれいな弧を描いた。
「まさか。攻め甲斐がある。取りようによっては、智奈には褒美にも罰にもなりそうだけどな」
どういう意味だろう。キョウゴはやはり楽しそうに云う。
「罰って……」
「まずは、セックスの快楽をとことん知ってみようか」
キョウゴは、智奈の意思に関係なく強制的に導くような云い方をした。無論、智奈の返事など必要なく、キョウゴは智奈の口角に口づけたかと思うと、顔を下げていきながら口を開く。すると。
あ、ああっ。
硬く突きだした胸のトップがいきなり熱く濡れた。
「まえに会ったことがあったとして、すぐに思いだせないほど印象に残らないってかなりの衝撃だ」
キョウゴの発言は自惚れだ。けれど、否定できる人もまたいない。智奈とて、今朝、ホストと聞かされたとき、ロマンチックナイトで働いているのなら憶えていないはずがないと思った。それは普段の生活のなかでも当てはまることだ。何かしらの電話を受けたことがあって声を知っていただけという可能性もあるけれど、去年まで智奈はホストとの縁がなかったし、会社の人材業は夜の街の仕事は取り扱っていない。声を知っているとしたら会ったからであって、すなわち憶えているはずだ。
「声を知っているような気がしただけです」
「声? まったく同じということはないだろうけど、似た声はいくらだってあるからな。それより、キスに夢中になってたと思ってたのに、この状況でどうでもいい話をするって、おれに魅力がないってことか?」
「ううん、ちょっと気になっただけ。魅力がないのはわたしのほうだし……」
「キスは気に入ったってわけだ」
智奈が『ううん』と否定したのは『どうでもいい』という言葉に対してだったはずが、キョウゴはわざとだろうけれど、やはり都合のいいように捉える。
それなら、とキョウゴは続けた。
「その魅力がないっていうのが智奈のコンプレックスなら、すぐに克服できる」
キョウゴはそんなことを断言すると再びくちびるを合わせた。吸着して、すぐにくちびるは浮いていくけれど――
「口を開けて」
かすかに接点を残したまま、キョウゴが囁いた。くちびるにかかる吐息が熱い。思わず従ったのは、智奈の中に拒絶したい気持ちが皆無だったからだ。力を抜くと口がかすかに開いて、キョウゴが舌でくちびるを割る。またさっきと同じように、ゆったりと智奈の口内でうごめき始めた。
舌は頬の裏側を這い、歯並の裏側を滑っていく。ただ舌で撫でられているだけなのに、くすぐったいような感覚は智奈に陶酔感をもたらした。
キョウゴは少し顔を斜め向ける。キスの角度が変わって智奈の舌が絡めとられた。智奈の領域で起きていることなのに、主導権は奪われている。
キョウゴの意思のまま舌が踊らされ、感じるはずのない味覚が刺激されて、甘ったるい蜜が口の中に生成されていく。智奈は寝転んでいるのに、それでも酔ってしまったようにくらくらしてきた。
んふっ。
蜜が溢れそうになって無意識に飲みこむと、キョウゴの舌を巻きこんで、自分のものではない小さな唸り声が智奈の口内にこもった。そうしてキョウゴは、キスにとどまらず食べてしまいそうな勢いで口を押しつけてきた。
キョウゴの舌が大きくうごめいて、智奈の舌をすくい、吸いつく。
んんんっ。
舌の神経がざわついて、あまりの心地よさに痙攣する。智奈はまた力尽き、躰がベッドに沈むような感覚がした。そのとき。
ん、くぅっ……。
力尽きたはずが、魚が跳ねるように智奈の背中が反って胸が跳ねあがる。
キスにのぼせている間に、キョウゴは智奈のパジャマの上着をはだけ、インナーをたくし上げて小高いふくらみをあらわにしていた。そのトップがそれぞれ指先で抓まれている。そうしたまま小さく揺り動かされて、智奈の胸が連続してぴくぴくと小刻みに跳ねた。はじめて知るこの感覚が快楽というものなのか、鋭すぎて落ち着く間もない。
キスと相まって呼吸がうまく整えられず、胸先の快感が躰全体に広がって寒くもないのに身ぶるいをし始めた。キョウゴは舌と指先で器用に智奈を快楽に侵し、追いつめていった。逃れられないまま、ふと気が遠くなったような感じがしたあと、智奈の躰はぶるっと波打った。
キョウゴはゆっくりと顔を上げて、くちびるを放した。
「智奈」
荒っぽく息をつきながらキョウゴが呼びかけ、智奈はぼんやりとしたまま聞き遂げて瞼を上げる。乱れた呼吸は智奈のものか。そんな認識さえ難しい。定期的に躰がびくっとして、止めようとしても止められない。
「ん……っ」
「はじめてだからか? 軽くイッてたみたいだ。智奈は敏感すぎるかもな」
その声音を聞くかぎり、文句ではなく喜んでいそうだけれど。
「……ヘン、です……か……」
智奈は不安になって、息切れしながら訊ねてみると、キョウゴのくちびるがきれいな弧を描いた。
「まさか。攻め甲斐がある。取りようによっては、智奈には褒美にも罰にもなりそうだけどな」
どういう意味だろう。キョウゴはやはり楽しそうに云う。
「罰って……」
「まずは、セックスの快楽をとことん知ってみようか」
キョウゴは、智奈の意思に関係なく強制的に導くような云い方をした。無論、智奈の返事など必要なく、キョウゴは智奈の口角に口づけたかと思うと、顔を下げていきながら口を開く。すると。
あ、ああっ。
硬く突きだした胸のトップがいきなり熱く濡れた。
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