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プロローグ アルマ・レンザー視点

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((これは……。更に、良くないことが起きてしまいそうですね))

 レンザ―子爵邸内にある、応接室。そこにあるテーブルに積まれた、お札の束2つと高価な骨董品2点。それらを眺めていた私は、対面にいらっしゃる男性へと視線を戻しました。
 常にニコニコとされている、穏やかさに満ちた美男。この方はリエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。2週間前より私に交際を申し込みにいらっしゃるようになった、少々――いえ、かなり困った方なのです。

「アルマ・レンザ―様。先日の舞踏会で貴方との時間を共有し、それ以来僕の心は貴方で満たされてしまったのです。どうか僕と交際をしてはいただけないでしょうか?」

 何も問題がなかったのは、最初にいらっしゃった時の序盤だけ。この言葉を口にされたあとから、問題行動が続くようになりました。
 私としては、一生涯異性と交際を行うつもりはありません。ですので丁重にお断りをさせていただくと、

「……アルマ様。ここにいる者は社交界での評判がすこぶる良く、異性同性からの人気も非常に高い、人格者なのです。家柄も良く中身も良い、最高の人間なのですよ。僕以上に貴方を幸せにできる者はいないと自負しておりますので。どうかお考え直しを」

 ご自分に圧倒的な自信があり、上手くいくと確信していたのでしょう。目を見開いた後イライラされるようになり、ここから執着が始まりました。
『とりあえず交際を始めてみれば気が変わる』『僕を信じて』『貴方を運命の相手は僕なんですよ』などなど――。こちらに意思がないにもかかわらず繰り返し迫られ、あげく今日は――

「レンザ―卿。本日は貴方様に、こちらを差し上げたく思います」

 外堀を埋め始めた。お父様の懐柔を試み、親命令で交際を行おうとし始めたのです。
 説得が駄目だと気付くや、こういった強引なやり方で実現させようとする。そういった方は非常に危険で、

((これは……。更に、良くないことが起きてしまいそうですね))

 まもなくそんな私の予感は、的中することになりました。

「リエズン様。わたくし共は、双方が望まぬ交際をよしとはしません。ですので申し訳ございませんが、お返事が変わることは決してございません」

 アダンお父様が金品を受け取らず、深々と頭を下げた――『このやり方も効かない』と、リエズン様が察した直後でした。
 例えるならば、秋の空のよう。瞬く間に余裕であり穏やかさが消え、反対に青筋がくっきりと浮かぶようになって――

「下手に出ていたら、いい気になりやがって……!! いいから僕と交際をしろ!! お前達は黙って、格上の言うことに従え!!」

 ――そう、仰られたのでした。

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