上 下
54 / 56

第32話 ダンスのあとに パトリシア視点(1)

しおりを挟む

「テオドール様……っ、夢のような時間でした……っ。ありがとうございます……っ」
「こちらこそ、ありがとうございます。パトリシア様のおかげで、大きな思い出がまた一つ増えましたよ」

 何分にも渡るダンスが終わったあと。私達はこの空間の隅に移動して体を休ませ、落ち着くや改めて微笑み合いました。
 今はこの場に、2人しか居ません。ですがあの夜は、そうしましたので。私達はあの人同じ場所で休憩を取り、言葉を交わしています。

「…………そういえば。あの時私は、化け物令嬢なのにどうして興味を? と伺っていましたよね」
「ええ、そうですね。そうでした」
「そうしたらテオドール様は秘密を教えてくださって、そして。そんな私を、好きだと仰ってくださいました」

 いくら視えていても、目の前にいる私はあんな風になっていたのに。コブだらけの私を真っすぐ見て、告げてくださった。
 その際の瞳は、今でも鮮明に焼き付いています。

「すでに世界が変わっていたのに、更に変えてくださって。その出来事も、忘れられない、忘れるはずがないものの一つです」
「勿論こちらも、僕も鮮明に記憶していますよ。こうやって、行いましたよね?」

 テオドール様は姿勢を正された後、流麗な動作で片膝をつかれました。
 はい、そうでした。私は幸せの感情で体を震わせながら、伸ばしてくださった手に手を重ねたのですよね。

「折角ですので、そのシーンも再現しましょう。…………と思いましたが、あの出来事はお互いにとって大切なもの。繰り返すべきものではありませんので、別のものにしましょうか」
「え? 別のもの、ですか? 何をなさるおつもりですか?」

 そちらの代わりとなりそうなものが浮かばず、私は首を傾げて目を瞬かせていました。そうしたらテオドール様の右手が懐へと入り、

「これから僕が、行おうとしていること。それは、貴女へのプロポーズですよ」

 っっ。服の中から、ケースに入ったリングが現れました……っ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢はヒロインの逆ハールートを阻止します!

桃月とと
恋愛
 メルは乙女ゲーム「ラブコレ」の、なんちゃって悪役令嬢のはずだった。偶然にも前世の記憶を取り戻せたので、大人しくモブとして暮らしていこうと決めていた。  幼馴染でメインキャラクターの1人であるジルのことが好きだったが、彼とはライバル以上にはなれないと諦めてもいた。  だがゲームと同じく、学園が始まってしばらくするとヒロインのアリスが逆ハーレムルートを選んだことに気がつく。 「いや、大人しく第一王子でも選んどけよ!」  ジルにとって……いや、他のキャラにとっても幸せとは言えない逆ハールート。それなら自分も……と、メルはジルへの気持ちを解禁する。  少なくとも絶対に逆ハールートを成功させたりなんかしないわ! 悪役令嬢? いくらでもなってやる!

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

【完結】田舎育ち令嬢、都会で愛される

櫻野くるみ
恋愛
生まれつき身体が弱かった伯爵令嬢のリリーは、静養のため酪農が盛んな領地で育った。 すっかり健康になった15歳のリリーは、王都に戻ることになり・・・ ひょんなことから、リリー特製ミルクスープにがっつり胃袋を掴まれた第3王子ラインハルトは、王家の男性特有の執着で、鈍感なリリーを手に入れようと躍起になる。 ライバルに恨まれたり、田舎者だと虐められるかと思いきや、リリーを好ましく思う味方がどんどん増え、気付いたら愛され王子妃に!? 田舎育ち令嬢が、無自覚に都会の人達を癒し、王子に溺愛されてしまうお話。 完結しました。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ
恋愛
美しすぎるがゆえに嫉妬で嘘の噂を流され、それを信じた婚約者に婚約を破棄され人間嫌いになっていたシェリル。 過ぎた美貌で近付く女性がメンヘラストーカー化するがゆえに女性不信になっていたエドガー。 恋愛至上の社交界から遠ざかりたい二人は、跡取りを残すためという利害の一致により、愛のない政略結婚をすることに決めた。 ◇お互いに「自分を好きにならないから」という理由で結婚した相手を好きになってしまい、夫婦なのに想いを伝えられずにいる両片想いのお話です。 ※やや同性愛表現があります。

婚約者様にお子様ができてから、私は……

希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。 王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。 神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。 だから、我儘は言えない…… 結婚し、養母となることを受け入れるべき…… 自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。 姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。 「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」 〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。 〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。 冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。 私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。 スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。 併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。 そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。 ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───…… (※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします) (※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)

処理中です...