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1話 猫にされた令嬢
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(………………あれ……? 私は、どうして――そうだ……。私は、猫になっちゃったんだ……)
覚醒した私は、傍にある鏡に映った自分を見て――黒猫の姿を見て、思い出す。近くの床で転がっている私の姿をした人…………エルサに刺されて、容姿を変えられてしまったんだ。
(お姉、ちゃん……。あの毎日は、笑顔は、貴方との関係は、全部ウソだったのね……)
床にいるエルサを見つめていると、それを切っ掛けにして頭の中であらゆる感情が入り乱れるようになる。
――エルサがあんなことを思ってたなんて――。
――エルサをこうさせてしまったのは、私のせいなの?――。
――私が違う生き方をしていれば、エルサはこうならなかったの?――。
――私は、どうすればよかったの?――。
色んな思いで溢れ返り、頭痛と吐き気で倒れそうになる。
だけど、倒れてる場合じゃない。エルサが目を覚ます前に、戻らないと……っ。
(あの短剣で姿が変わったのなら、もう一回刺せば戻るはず……っ。剣は………………あったっ!」
倒れているエルサの傍に、私を苛んだ金色の短剣が転がっていた。
よかった。エルサがすぐ自分にも使ったおかげで、まだ近くにあった!
(これで自分をイメージしながら自分を刺せば、元通りになる。急がないと……っ)
エルサが目覚める前に済ませられるように、四つの足で短剣に駆け寄る。あとはこれを持って、胸に突き刺せば――
「ざーんねんでした。そうはさせないわよ」
――持とうとしているとエルサが目を覚まし、目の前にあった短剣は拾い上げられてしまった。
「この行動は想定済みで、あたしが目覚めるまでの時間もちゃんと計算してるのよ。じゃないと、何も考えずに間近で自分に使うワケないでしょぉ?」
(くぅ……。ここでも踊らされてた、のね……)
私に希望が芽生えた直後に、ソレを摘み取る。この人は、そういうことを考えていたんだ……っ。
「あらあら、悔しいわねぇ? 悔しいでしょう? 元上級貴族の一人娘、現不幸の象徴である黒猫になってしまった、アリス・ワールさん」
「……………………」
「人生が反転した気分は、どう? ねえ教えて頂戴」
エルサは宝物を扱うかの如く短剣を丁寧に胸元に忍ばせ、禍々しく口元を緩める。
その表情はさておき、短剣を大切に保管した。ということは多分、あれが壊れたら効果が切れるのね……っ。
(だとしたら……。自分を刺す、じゃなくて……)
「ねえねえ? どうなの? 猫語で教えて頂戴」
(…………いいわよ。教えてあげるわ)「フシャァァァァァァァァァァァ!!」
猫の反射神経と運動能力を活かし、私は突然飛び掛かる。
猫には鋭い爪と牙があるっ。それを使えば、剣を奪って壊せるかもしれない!
「なっ!? しまっ!?」
(エルサは虚をつかれて、まだ反応できてないっ! いけるわっ!)「フシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
私は声を原動力にしながら宙を飛び、そうして――
「ふぎゃっ!?」
――エリスが隠し持っていたお父様の灰皿で顔を殴られ、私は床に叩き落された。
「お芝居その2で、こういう事も想定済み。またしても希望を摘み取られた気分はいかがかしら?」
「…………………………。…………………………」
「あら。ついつい強く叩きすぎて、また意識がおぼろげになってるみたいね」
視界がグラグラして、身体が動かせない……。声も、出せない……。
「生意気をしたお仕置きを、もっとしたい――ところだけど、明日に備えて今夜は早く寝ないといけないの。だからお遊びはここまでにして、邪魔者には出ていってもらいましょうか」
私は首根っこを乱暴に摘ままれ、窓辺へと運ばれる。
これは……。まさか……っっ。
「ゴミは、外にポイしないとね。さようなら」
エルサは右腕を荒っぽく振り、私は2階の窓から放り投げられた。
本物の猫ならどうにかできるのかもしれないけど、私は人間だし意識がおぼろげ。そのため何の抵抗もできず、そのまま庭の茂みに叩きつけられたのでした――。
覚醒した私は、傍にある鏡に映った自分を見て――黒猫の姿を見て、思い出す。近くの床で転がっている私の姿をした人…………エルサに刺されて、容姿を変えられてしまったんだ。
(お姉、ちゃん……。あの毎日は、笑顔は、貴方との関係は、全部ウソだったのね……)
床にいるエルサを見つめていると、それを切っ掛けにして頭の中であらゆる感情が入り乱れるようになる。
――エルサがあんなことを思ってたなんて――。
――エルサをこうさせてしまったのは、私のせいなの?――。
――私が違う生き方をしていれば、エルサはこうならなかったの?――。
――私は、どうすればよかったの?――。
色んな思いで溢れ返り、頭痛と吐き気で倒れそうになる。
だけど、倒れてる場合じゃない。エルサが目を覚ます前に、戻らないと……っ。
(あの短剣で姿が変わったのなら、もう一回刺せば戻るはず……っ。剣は………………あったっ!」
倒れているエルサの傍に、私を苛んだ金色の短剣が転がっていた。
よかった。エルサがすぐ自分にも使ったおかげで、まだ近くにあった!
(これで自分をイメージしながら自分を刺せば、元通りになる。急がないと……っ)
エルサが目覚める前に済ませられるように、四つの足で短剣に駆け寄る。あとはこれを持って、胸に突き刺せば――
「ざーんねんでした。そうはさせないわよ」
――持とうとしているとエルサが目を覚まし、目の前にあった短剣は拾い上げられてしまった。
「この行動は想定済みで、あたしが目覚めるまでの時間もちゃんと計算してるのよ。じゃないと、何も考えずに間近で自分に使うワケないでしょぉ?」
(くぅ……。ここでも踊らされてた、のね……)
私に希望が芽生えた直後に、ソレを摘み取る。この人は、そういうことを考えていたんだ……っ。
「あらあら、悔しいわねぇ? 悔しいでしょう? 元上級貴族の一人娘、現不幸の象徴である黒猫になってしまった、アリス・ワールさん」
「……………………」
「人生が反転した気分は、どう? ねえ教えて頂戴」
エルサは宝物を扱うかの如く短剣を丁寧に胸元に忍ばせ、禍々しく口元を緩める。
その表情はさておき、短剣を大切に保管した。ということは多分、あれが壊れたら効果が切れるのね……っ。
(だとしたら……。自分を刺す、じゃなくて……)
「ねえねえ? どうなの? 猫語で教えて頂戴」
(…………いいわよ。教えてあげるわ)「フシャァァァァァァァァァァァ!!」
猫の反射神経と運動能力を活かし、私は突然飛び掛かる。
猫には鋭い爪と牙があるっ。それを使えば、剣を奪って壊せるかもしれない!
「なっ!? しまっ!?」
(エルサは虚をつかれて、まだ反応できてないっ! いけるわっ!)「フシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
私は声を原動力にしながら宙を飛び、そうして――
「ふぎゃっ!?」
――エリスが隠し持っていたお父様の灰皿で顔を殴られ、私は床に叩き落された。
「お芝居その2で、こういう事も想定済み。またしても希望を摘み取られた気分はいかがかしら?」
「…………………………。…………………………」
「あら。ついつい強く叩きすぎて、また意識がおぼろげになってるみたいね」
視界がグラグラして、身体が動かせない……。声も、出せない……。
「生意気をしたお仕置きを、もっとしたい――ところだけど、明日に備えて今夜は早く寝ないといけないの。だからお遊びはここまでにして、邪魔者には出ていってもらいましょうか」
私は首根っこを乱暴に摘ままれ、窓辺へと運ばれる。
これは……。まさか……っっ。
「ゴミは、外にポイしないとね。さようなら」
エルサは右腕を荒っぽく振り、私は2階の窓から放り投げられた。
本物の猫ならどうにかできるのかもしれないけど、私は人間だし意識がおぼろげ。そのため何の抵抗もできず、そのまま庭の茂みに叩きつけられたのでした――。
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