2 / 23
1話 猫にされた令嬢
しおりを挟む
(………………あれ……? 私は、どうして――そうだ……。私は、猫になっちゃったんだ……)
覚醒した私は、傍にある鏡に映った自分を見て――黒猫の姿を見て、思い出す。近くの床で転がっている私の姿をした人…………エルサに刺されて、容姿を変えられてしまったんだ。
(お姉、ちゃん……。あの毎日は、笑顔は、貴方との関係は、全部ウソだったのね……)
床にいるエルサを見つめていると、それを切っ掛けにして頭の中であらゆる感情が入り乱れるようになる。
――エルサがあんなことを思ってたなんて――。
――エルサをこうさせてしまったのは、私のせいなの?――。
――私が違う生き方をしていれば、エルサはこうならなかったの?――。
――私は、どうすればよかったの?――。
色んな思いで溢れ返り、頭痛と吐き気で倒れそうになる。
だけど、倒れてる場合じゃない。エルサが目を覚ます前に、戻らないと……っ。
(あの短剣で姿が変わったのなら、もう一回刺せば戻るはず……っ。剣は………………あったっ!」
倒れているエルサの傍に、私を苛んだ金色の短剣が転がっていた。
よかった。エルサがすぐ自分にも使ったおかげで、まだ近くにあった!
(これで自分をイメージしながら自分を刺せば、元通りになる。急がないと……っ)
エルサが目覚める前に済ませられるように、四つの足で短剣に駆け寄る。あとはこれを持って、胸に突き刺せば――
「ざーんねんでした。そうはさせないわよ」
――持とうとしているとエルサが目を覚まし、目の前にあった短剣は拾い上げられてしまった。
「この行動は想定済みで、あたしが目覚めるまでの時間もちゃんと計算してるのよ。じゃないと、何も考えずに間近で自分に使うワケないでしょぉ?」
(くぅ……。ここでも踊らされてた、のね……)
私に希望が芽生えた直後に、ソレを摘み取る。この人は、そういうことを考えていたんだ……っ。
「あらあら、悔しいわねぇ? 悔しいでしょう? 元上級貴族の一人娘、現不幸の象徴である黒猫になってしまった、アリス・ワールさん」
「……………………」
「人生が反転した気分は、どう? ねえ教えて頂戴」
エルサは宝物を扱うかの如く短剣を丁寧に胸元に忍ばせ、禍々しく口元を緩める。
その表情はさておき、短剣を大切に保管した。ということは多分、あれが壊れたら効果が切れるのね……っ。
(だとしたら……。自分を刺す、じゃなくて……)
「ねえねえ? どうなの? 猫語で教えて頂戴」
(…………いいわよ。教えてあげるわ)「フシャァァァァァァァァァァァ!!」
猫の反射神経と運動能力を活かし、私は突然飛び掛かる。
猫には鋭い爪と牙があるっ。それを使えば、剣を奪って壊せるかもしれない!
「なっ!? しまっ!?」
(エルサは虚をつかれて、まだ反応できてないっ! いけるわっ!)「フシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
私は声を原動力にしながら宙を飛び、そうして――
「ふぎゃっ!?」
――エリスが隠し持っていたお父様の灰皿で顔を殴られ、私は床に叩き落された。
「お芝居その2で、こういう事も想定済み。またしても希望を摘み取られた気分はいかがかしら?」
「…………………………。…………………………」
「あら。ついつい強く叩きすぎて、また意識がおぼろげになってるみたいね」
視界がグラグラして、身体が動かせない……。声も、出せない……。
「生意気をしたお仕置きを、もっとしたい――ところだけど、明日に備えて今夜は早く寝ないといけないの。だからお遊びはここまでにして、邪魔者には出ていってもらいましょうか」
私は首根っこを乱暴に摘ままれ、窓辺へと運ばれる。
これは……。まさか……っっ。
「ゴミは、外にポイしないとね。さようなら」
エルサは右腕を荒っぽく振り、私は2階の窓から放り投げられた。
本物の猫ならどうにかできるのかもしれないけど、私は人間だし意識がおぼろげ。そのため何の抵抗もできず、そのまま庭の茂みに叩きつけられたのでした――。
覚醒した私は、傍にある鏡に映った自分を見て――黒猫の姿を見て、思い出す。近くの床で転がっている私の姿をした人…………エルサに刺されて、容姿を変えられてしまったんだ。
(お姉、ちゃん……。あの毎日は、笑顔は、貴方との関係は、全部ウソだったのね……)
床にいるエルサを見つめていると、それを切っ掛けにして頭の中であらゆる感情が入り乱れるようになる。
――エルサがあんなことを思ってたなんて――。
――エルサをこうさせてしまったのは、私のせいなの?――。
――私が違う生き方をしていれば、エルサはこうならなかったの?――。
――私は、どうすればよかったの?――。
色んな思いで溢れ返り、頭痛と吐き気で倒れそうになる。
だけど、倒れてる場合じゃない。エルサが目を覚ます前に、戻らないと……っ。
(あの短剣で姿が変わったのなら、もう一回刺せば戻るはず……っ。剣は………………あったっ!」
倒れているエルサの傍に、私を苛んだ金色の短剣が転がっていた。
よかった。エルサがすぐ自分にも使ったおかげで、まだ近くにあった!
(これで自分をイメージしながら自分を刺せば、元通りになる。急がないと……っ)
エルサが目覚める前に済ませられるように、四つの足で短剣に駆け寄る。あとはこれを持って、胸に突き刺せば――
「ざーんねんでした。そうはさせないわよ」
――持とうとしているとエルサが目を覚まし、目の前にあった短剣は拾い上げられてしまった。
「この行動は想定済みで、あたしが目覚めるまでの時間もちゃんと計算してるのよ。じゃないと、何も考えずに間近で自分に使うワケないでしょぉ?」
(くぅ……。ここでも踊らされてた、のね……)
私に希望が芽生えた直後に、ソレを摘み取る。この人は、そういうことを考えていたんだ……っ。
「あらあら、悔しいわねぇ? 悔しいでしょう? 元上級貴族の一人娘、現不幸の象徴である黒猫になってしまった、アリス・ワールさん」
「……………………」
「人生が反転した気分は、どう? ねえ教えて頂戴」
エルサは宝物を扱うかの如く短剣を丁寧に胸元に忍ばせ、禍々しく口元を緩める。
その表情はさておき、短剣を大切に保管した。ということは多分、あれが壊れたら効果が切れるのね……っ。
(だとしたら……。自分を刺す、じゃなくて……)
「ねえねえ? どうなの? 猫語で教えて頂戴」
(…………いいわよ。教えてあげるわ)「フシャァァァァァァァァァァァ!!」
猫の反射神経と運動能力を活かし、私は突然飛び掛かる。
猫には鋭い爪と牙があるっ。それを使えば、剣を奪って壊せるかもしれない!
「なっ!? しまっ!?」
(エルサは虚をつかれて、まだ反応できてないっ! いけるわっ!)「フシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
私は声を原動力にしながら宙を飛び、そうして――
「ふぎゃっ!?」
――エリスが隠し持っていたお父様の灰皿で顔を殴られ、私は床に叩き落された。
「お芝居その2で、こういう事も想定済み。またしても希望を摘み取られた気分はいかがかしら?」
「…………………………。…………………………」
「あら。ついつい強く叩きすぎて、また意識がおぼろげになってるみたいね」
視界がグラグラして、身体が動かせない……。声も、出せない……。
「生意気をしたお仕置きを、もっとしたい――ところだけど、明日に備えて今夜は早く寝ないといけないの。だからお遊びはここまでにして、邪魔者には出ていってもらいましょうか」
私は首根っこを乱暴に摘ままれ、窓辺へと運ばれる。
これは……。まさか……っっ。
「ゴミは、外にポイしないとね。さようなら」
エルサは右腕を荒っぽく振り、私は2階の窓から放り投げられた。
本物の猫ならどうにかできるのかもしれないけど、私は人間だし意識がおぼろげ。そのため何の抵抗もできず、そのまま庭の茂みに叩きつけられたのでした――。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる