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2話 反撃、開始
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チュンチュン チュンチュン
私はいつものように、鳥の鳴き声で目を覚ました。
けれど今日は、ここからがいつもとは大きく違う。私の姿は黒猫になっていて、目覚めた場所は茂みの中だった。
(……ゆうべエルサに刺されて、部屋から放り投げられた……。やっぱりあれは、夢じゃなかったのよね……)
どうしても受け入れられない現実で、ついついこんなことを思ってしまう。
――悪夢だったらよかったのに――。
そう願うけど、これは紛れもない事実。エルサは私を憎んでいて、今は私の姿でレイジ様と結婚しようとしている。
(………………このままだと、レイジ様が酷い目に遭っちゃう。私のせいで、レイジ様が利用されてしまう。……エルサを止めないと……っ)
私はかぶりを振ってマイナス思考を追い出し、ゆっくりと立ち上がる。
眠ったからなのか猫の身体だからなのか、痛みも怪我もない。これなら、やれる。
(……まずは、時間を確認しないと。今は何時なんだろ……?)
周りはすでに明るくって、空には太陽が昇っている。
時計がないから、正しい時刻は分からないけど……。確か太陽の位置でおおよそを把握できて……。ええと……。そこにあるってことは…………午前の10時か11時頃、みたい。
(10か11。ギリギリ、ね……)
式は二十数キロ離れた場所にあるレイジ様のお城で、午後6時から行われる。そしてその式は、絶対に延期や中止をできない。
八代前の王太子殿下が式を寸前で中止し、五代前の王太子殿下が式を延期した。
それはどちらもやむを得ない事情だったのだけれど、それはともかくとして。その後はどちらも、立て続けに王族内で不幸が起きてしまった。
そのため王族内ではその二つがタブーとされていて、レイジ様は偶々だと思っているものの、現国王様を始めとしたその他の王族が絶対に許してくれない。
もしもエルサが全員の前で『自分は偽者だ!』と打ち明けたとしても、アリスとして全ての結婚の儀を行ったあと離婚、処罰、という形になってしまう。
なのでこのままだとエルサと誓いのキスを行い、更にそのあとは『初夜(しょや)の儀』――お互い初めて、異性と……その……。身体を重ねるようになってしまう。
(レイジ様が、エルサと初夜の儀を行ったら大変。だから絶対に、式の開始までに何とかしないといけない……!)
残り6か7時間で二十数キロを走破して、どうにかしてエルサの企みを阻止する。
これが、私がやるべきこと――やらないといけないこと。
(…………もうお父様達は出発してるから、どうやっても誰も頼れない。そもそも私の姿をしたエルサがいるから、あの手この手で妨害されていて家は頼れない。絶望的な状況…………だけど絶対に、今までみたいに根性で何とかしてみせるわ)
昨日エルサが『あらゆる才能に恵まれた女の子』と言っていたけど、あれは大間違い。実は私には、人並みの能力しかなくって――。大好きなお姉ちゃんに『すごい!』って褒めてもらいたくって、いつも隠れて努力をしていたのだ。
(…………やる気があれば、不可能は可能になる……っ。エルサの好きにはさせないわっっ!)
私は前足でぺしっと両頬を叩き、気合を注入。人間の時にいつもしていた動作を行い、勢いよく地面を蹴ってニース城を目指したのでした。
私はいつものように、鳥の鳴き声で目を覚ました。
けれど今日は、ここからがいつもとは大きく違う。私の姿は黒猫になっていて、目覚めた場所は茂みの中だった。
(……ゆうべエルサに刺されて、部屋から放り投げられた……。やっぱりあれは、夢じゃなかったのよね……)
どうしても受け入れられない現実で、ついついこんなことを思ってしまう。
――悪夢だったらよかったのに――。
そう願うけど、これは紛れもない事実。エルサは私を憎んでいて、今は私の姿でレイジ様と結婚しようとしている。
(………………このままだと、レイジ様が酷い目に遭っちゃう。私のせいで、レイジ様が利用されてしまう。……エルサを止めないと……っ)
私はかぶりを振ってマイナス思考を追い出し、ゆっくりと立ち上がる。
眠ったからなのか猫の身体だからなのか、痛みも怪我もない。これなら、やれる。
(……まずは、時間を確認しないと。今は何時なんだろ……?)
周りはすでに明るくって、空には太陽が昇っている。
時計がないから、正しい時刻は分からないけど……。確か太陽の位置でおおよそを把握できて……。ええと……。そこにあるってことは…………午前の10時か11時頃、みたい。
(10か11。ギリギリ、ね……)
式は二十数キロ離れた場所にあるレイジ様のお城で、午後6時から行われる。そしてその式は、絶対に延期や中止をできない。
八代前の王太子殿下が式を寸前で中止し、五代前の王太子殿下が式を延期した。
それはどちらもやむを得ない事情だったのだけれど、それはともかくとして。その後はどちらも、立て続けに王族内で不幸が起きてしまった。
そのため王族内ではその二つがタブーとされていて、レイジ様は偶々だと思っているものの、現国王様を始めとしたその他の王族が絶対に許してくれない。
もしもエルサが全員の前で『自分は偽者だ!』と打ち明けたとしても、アリスとして全ての結婚の儀を行ったあと離婚、処罰、という形になってしまう。
なのでこのままだとエルサと誓いのキスを行い、更にそのあとは『初夜(しょや)の儀』――お互い初めて、異性と……その……。身体を重ねるようになってしまう。
(レイジ様が、エルサと初夜の儀を行ったら大変。だから絶対に、式の開始までに何とかしないといけない……!)
残り6か7時間で二十数キロを走破して、どうにかしてエルサの企みを阻止する。
これが、私がやるべきこと――やらないといけないこと。
(…………もうお父様達は出発してるから、どうやっても誰も頼れない。そもそも私の姿をしたエルサがいるから、あの手この手で妨害されていて家は頼れない。絶望的な状況…………だけど絶対に、今までみたいに根性で何とかしてみせるわ)
昨日エルサが『あらゆる才能に恵まれた女の子』と言っていたけど、あれは大間違い。実は私には、人並みの能力しかなくって――。大好きなお姉ちゃんに『すごい!』って褒めてもらいたくって、いつも隠れて努力をしていたのだ。
(…………やる気があれば、不可能は可能になる……っ。エルサの好きにはさせないわっっ!)
私は前足でぺしっと両頬を叩き、気合を注入。人間の時にいつもしていた動作を行い、勢いよく地面を蹴ってニース城を目指したのでした。
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