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第4話 逆監視2日目 監視前 (2)

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「朝は6時30分頃に起きて調子を整え、9時から午後2時までは祈りを捧げる。そのあとは毎日夜まで聖女の職務が入っていて、全然遠出が出来ないっス。だからせめて、光景だけでも楽しんで貰いたかったんスよ」

 青い空の下で揺れる、何百何千もの7月の誕生花ひまわりたち。10年ぶりの景色に目を奪われていると、ラズフ様が鼻の頭を掻きました。

「生まれつきこんな力を持ってるんで、昔から絶景がある場所には映鏡を置いてるんス。俺も仕事柄自由に動ける時が少なくって、こうやって満足させてるんスよ」
「……そう、なのですね……。おかげ様で、私も満足できました」

 いつからだったでしょうか。景色を楽しむ気持ち『も』、なくなっていました。
 ですがこの光景を見た瞬間、色々なものを思い出して――。すっかりモノクロになっていた思い出達に、再び色がつきました。

「……私の家は田舎で農業を営んでいて、山の麓に行くとこんなひまわり畑があるんです。特に朝日に照らされるひまわりが好きで、お父様やお母様に見守られながらその中を走り回って……。とても楽しい毎日でした」
「………………」
「久しぶりにお父様とお母様に会って、あそこを走り回ってみたいですね。……お父様達は今どうされていて、あの畑はどうなっているのでしょうか……?」

 お二人ともスケジュールなどを気遣ってくださり、年々会う回数が減っていきました。そのためお喋りしたのも、お手紙を貰ったのも、7年前が最後。
 こちらも同じくいつの間にか気にならなくなっていましたが、今日はそわそわします。

「どちらも、変わっていないとは思いますが――ぁっ、すみませんっ。折角見せてくださっているのに、独り言ばかり口にしてしまっていました」
「いーやいや、いいっスよいいっスよ。他にも絶景はあるんで、この時期に綺麗なトコをいくつか追加するっスね」

 鮮やかな紫色が並ぶ、ラベンダー畑。紅色やピンク、白など可愛らしい色の花が咲く、百日紅(サルスベリ)。
 澄みきった水が綺麗な川。雄々しさのある滝。などなど。
 全部で9個もの景色が目の前に広がって、どれもすごく新鮮で、なのに懐かしさのある時間を満喫できました。

「ラズフ様、とても楽しかったです。本当にありがとうございました」
「このくらい、お安い御用っスよ。まだ何個かあるんスけど……っ。時間切れが、というかあのロスが憎いっス……っ」
「あれは、わざわざ誕生花を調べてくださった時間。ロスではなくって、心が温かくなる有難いお時間ですよ」

 あの行動も、嬉しい事の一つです。元気が湧く要素の一つでした。

「今朝は、沢山の幸せがありました。今はいつも以上にエネルギーが漲っていて、祈りのあとも一日中元気で過ごせますよ」
「そっスか、ならよかったスっ。ミウヴァ様、そしたらいってらっしゃいませっスよ。俺達のために、よろしくお願いしますっス!」
「畏まりました。いってまいります」

 一昨日映鏡を設置しているため、今日も最初から最後まで私のみ。部屋の中心で手を組んで祈りを捧げ――。

 心がずっとポカポカとしたまま時が流れ、あっという間に5時間が経ちました。

 このあとは、逆監視2日目の始まり。昨日から借りてある別室でラズフ様は待ってくださっているので、早歩きで向かったのでした。

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