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第15話(6)
しおりを挟む「俺がなぜ出来るのか。その答えは、そう出来るようにならないといけなかったから、ですよ」
魔物と対峙しているマティアス君は、口調と雰囲気を戻してゆっくりと。恐らくこれまでの出来事を振り返りながら、言の葉を紡ぎ始めました。
「俺は力も地位もない、ド底辺の男。そんな者が彼女を救い幸せにするには、魔王を討って英雄になるしかなかった。そして魔王を討つには、独りで戦えるだけの強大な力を手に入れないといけなかった。だから、必要なものを身につけた。この身を死地に置いて必死に、四六時中にただひたすらに、鍛錬を続けたのですよ」
「お、想いが、原動力だと……。そんな物だけで……っ。貴様は人の限界を超え、その階梯に登ったというのか……」
「人間という生き物は、想いで不可能を可能にできてしまうものなのですよ。大切な人の為なら、どんな壁だって超えられます」
マティアス君は、後方を一瞥。私に対し、柔らかで温かな視線を注いでくれました。
「貴方も誰かの優しさに触れ、その人に恋をすれば分かるかもしれませんよ。もっとも――。その機会は、ありませんが」
マティアス君は2つの短剣を構え直し、静かに前へ。一歩一歩、魔物との距離を詰めていきます。
「貴方が存在し続ければ、落ち着いて今後の話が出来ないのですよ。……この世に魔物がいなければ、心臓への小細工は無意味となります。敬愛する魔王のように、最後の魔物を葬りましょう」
「ほぅ、そうか。だが、本当にいいのか? このままオレを消すと、面倒な事になってしまうのだぞ?」
窮地なはずの彼から、動揺が消えました。
まだ……。何か、ある……?
「魔王様は万が一に備え、道ずれのパターンも用意されている。このまま貴様がオレを殺ると、この世から全魔物が消える――スイッチが入る。そうなれば魔術がかかったその心臓は爆発し、周囲を巻き込んで――その雌と共に、死に至るのだよ」
「なっ!? そ、そんな……。マティアス君が、死ぬ……」
「どうせ死ぬなら共に、という事だ。さあどうする、英雄様。最後の最後で、衝撃の事実が発覚だぁ。判断できないなら、オレが舌を噛んで起爆させてやろうか――ァ……? ガ……?」
え……!?
ベロを出していた、魔物。哄笑を浮かべていた彼の胸部に、マティアス君の短剣が突き刺さりました……っ!
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