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第8話(2)
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「あの。どうされたのですか?」
「お兄さん、ご心配をおかけしてすみません。旦那が、腰をやっちゃったみたいなんですよ」
急いで駆け寄ると、奥様が介抱しつつ説明をしてくださいました。
商品の陳列を変更していて、往復が面倒だからと大量に一気に抱えた。その結果腰に大きな負荷がかかってしまい、こうなってしまったようです。
「もう若くないんだから、無理するなって言ったのに……。『大丈夫だ!』と言い張って、このザマですよ」
「今日は偶々、調子が悪かっただけさ。普段のわたしなら、このくらいは楽々――あいたたたたた……っ」
「店長さんっ! 大丈夫ですかっ?」
「減らず口を叩けていますし、平気ですよ。……とはいえ。念のために、お医者さまに診てもらっておいた方がいいわねぇ」
奥様はそう仰ると店を畳む準備を始め、「待ってくれハールっ!」。すぐに、店長さんから待ったがかかります。
「店を閉めたら、わざわざ来てくださったお客様に申し訳が立たない。幸い痛みは引いてきていて、ハールの肩を借りずとも独りで行ける。すまんが、店番を頼んだ――いててててて……っ」
「はあ。そんな状態で、独りで行けるはずがないでしょう? 気持ちは分かるけど、今日は諦めなさいな」
「いいや、駄目だ……っ。もしも昨日のように、遠方から来てくださった方が居たら大変だ。期待を裏切る真似は、できん……っ!」
こちらの商品は食にうるさいミンラ様が贔屓にしていた程に、支持をされています。私が扱き使われていた頃もそういう方が頻繁にいらっしゃっていましたし、恐らくそれは杞憂ではありません。
「わたしは、大丈夫だ。この痛みは、何とかする……っ。だから、ハール。この店を頼んだ……っ」
「…………まったくもう、これだから職人は困るのよね。はいはい、分かりましたよ。あたしが店番をしておくわ」
店長さんの目は、真摯な色しかありませんでした。そのためそれを見た奥様は、呆れと不安、そして敬意を表して、2回頷きを返しました。
そして――。
そんなお二人の姿を見た私達も、同じように頷き合っていました。
「マティアス君」
「うん。店長様、奥様。よろしければ、俺達が店番を致しますよ」
私達がお手伝いをする、私達が治療施設にお連れする。選択肢はこの2つで、人数的にも後者の方がいいと感じていました。
しかしながら奥様には、不安という案じる様子が強くありました。そのため『マティアス君が御者さんと馬車を用意して、お二人で向かう』という、お傍にいられる前者を申し出ました。
(変装で隠していますが、彼女と自分は――こういう身分でして、素性はハッキリしております。商品や売り上げに対する盗み、所謂ネコババなどは発生しませんので、遠慮なく俺達を利用してください)
(えっ、英雄様とそのお相手の御令嬢様っ!? えっ!? ええ!?)
(どっ、どうしてこちらに!? どうしてわたし共にそんなご提案を!?)
(このお店には御縁がありまして、自分達にとっても非常に大切な場所なのですよ)
(こちらがなければ今の私達はなく、お店にもお二人にも感謝しています。ですので、恩返しをさせてください)
これは人助けであり、私達の希望。そのためお二人は驚きながらも受け入れてくださり、戻られるまで代役を担う事になりました。
「2~3時間後――閉店時間までには、戻ってこられると思います。それまで、よろしくお願い致します」」
「「はい。お任せください」」
そうしてお二人は安堵して治療に向かわれ、私達のお仕事が始まりました。
人生初のお店番、スタートです……っ。
「お兄さん、ご心配をおかけしてすみません。旦那が、腰をやっちゃったみたいなんですよ」
急いで駆け寄ると、奥様が介抱しつつ説明をしてくださいました。
商品の陳列を変更していて、往復が面倒だからと大量に一気に抱えた。その結果腰に大きな負荷がかかってしまい、こうなってしまったようです。
「もう若くないんだから、無理するなって言ったのに……。『大丈夫だ!』と言い張って、このザマですよ」
「今日は偶々、調子が悪かっただけさ。普段のわたしなら、このくらいは楽々――あいたたたたた……っ」
「店長さんっ! 大丈夫ですかっ?」
「減らず口を叩けていますし、平気ですよ。……とはいえ。念のために、お医者さまに診てもらっておいた方がいいわねぇ」
奥様はそう仰ると店を畳む準備を始め、「待ってくれハールっ!」。すぐに、店長さんから待ったがかかります。
「店を閉めたら、わざわざ来てくださったお客様に申し訳が立たない。幸い痛みは引いてきていて、ハールの肩を借りずとも独りで行ける。すまんが、店番を頼んだ――いててててて……っ」
「はあ。そんな状態で、独りで行けるはずがないでしょう? 気持ちは分かるけど、今日は諦めなさいな」
「いいや、駄目だ……っ。もしも昨日のように、遠方から来てくださった方が居たら大変だ。期待を裏切る真似は、できん……っ!」
こちらの商品は食にうるさいミンラ様が贔屓にしていた程に、支持をされています。私が扱き使われていた頃もそういう方が頻繁にいらっしゃっていましたし、恐らくそれは杞憂ではありません。
「わたしは、大丈夫だ。この痛みは、何とかする……っ。だから、ハール。この店を頼んだ……っ」
「…………まったくもう、これだから職人は困るのよね。はいはい、分かりましたよ。あたしが店番をしておくわ」
店長さんの目は、真摯な色しかありませんでした。そのためそれを見た奥様は、呆れと不安、そして敬意を表して、2回頷きを返しました。
そして――。
そんなお二人の姿を見た私達も、同じように頷き合っていました。
「マティアス君」
「うん。店長様、奥様。よろしければ、俺達が店番を致しますよ」
私達がお手伝いをする、私達が治療施設にお連れする。選択肢はこの2つで、人数的にも後者の方がいいと感じていました。
しかしながら奥様には、不安という案じる様子が強くありました。そのため『マティアス君が御者さんと馬車を用意して、お二人で向かう』という、お傍にいられる前者を申し出ました。
(変装で隠していますが、彼女と自分は――こういう身分でして、素性はハッキリしております。商品や売り上げに対する盗み、所謂ネコババなどは発生しませんので、遠慮なく俺達を利用してください)
(えっ、英雄様とそのお相手の御令嬢様っ!? えっ!? ええ!?)
(どっ、どうしてこちらに!? どうしてわたし共にそんなご提案を!?)
(このお店には御縁がありまして、自分達にとっても非常に大切な場所なのですよ)
(こちらがなければ今の私達はなく、お店にもお二人にも感謝しています。ですので、恩返しをさせてください)
これは人助けであり、私達の希望。そのためお二人は驚きながらも受け入れてくださり、戻られるまで代役を担う事になりました。
「2~3時間後――閉店時間までには、戻ってこられると思います。それまで、よろしくお願い致します」」
「「はい。お任せください」」
そうしてお二人は安堵して治療に向かわれ、私達のお仕事が始まりました。
人生初のお店番、スタートです……っ。
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