上 下
11 / 56

第3話 7年前の出会いと、気持ちの変化 マティアス視点(7)

しおりを挟む
 ――おいおい、アホかお前は。魔王を倒すだって? 無理に決まってるだろ――。

 ソレは、あまりにもバカげた内容だったからなのかもしれない。心の声が即座に、俺を嘲り始めた。

 ――戦士ならまだしも、その日暮らしをしていたお前だぞ? できるワケがないだろ――。

 そりゃそうだ。それは当たり前だよな。無茶苦茶を言ってる。

 けどよ。

 そんな事は、関係ない。


 できるできない、じゃない。やるんだよ。


 俺がコイツのためにできることは、これしかない。だから、やる。やらないといけないんだよ。
 こんなにも真っすぐなヤツがあんな目に遭ってるのは、おかしいんだからな!!

「…………い――じゃなかった。そういやお前さ、名前はなんていうんだ?」
「私は、イリスだよ。下の名前は、ごめんなさい。内緒にしないといけないの」
「こっちはそもそも姓なんてないから、気にするな。そうか、イリスっていうのか。俺は、マティアスっていうんだ」

 元々あった名前ライアンは、捨てられた時に捨てた。今は自分でつけたコレが、俺の名前だ。

「マティアス君、男の子くんのお名前はマティアス君っ。ね、男の子くんっ。これから、マティアス君って呼んでもいいかな?」
「ああ、いいぜ。……ただワケアリで、これからこの街を離れることになったんだ。次にそう呼べるのは――帰ってこれるのは、いつになるか分からない」

 目標が目標で、予想すら立てられない。


 ……お前の気持ちは、分かってるんだ……。
 こんな俺が、お前の支えになっていてさ。そいつがなくなれば、お前が悲しむことも分かってるんだよ……。


 でも。この生活を続けていると、絶対に好転はしない。確実に悪い方向に進んでいっていて、いずれ悲劇が起きちまう。
 だから、悪い。それまで、耐えてくれ。

「……そう、なんだ……。明日からは、会えなくなっちゃうんだね……」
「そうだな。けどよ、俺もこの時間は気に入ってるんだよ。必ずお前の前に戻ってくるから、その名前を憶えておいてくれ」

 長期戦は確定で、その間に色んな部分が変わるだろう。だから、その時はすぐに分かってもらえるように。せめても希望を持っていてもらえるように、名を伝えた。

「きっと、その間にも辛いことがあると思うけどよ。そんなものに負けずに、待っていてくれ。その時が来たら、絶対に。お前を、笑顔にするからさ」
「??? 私を、笑顔に……? どういうこと……?」
「いや、なんでもねーよ。とにかく俺は、必ずお前の前に戻ってくる。この名前を忘れずに、待っていてくれ」
「…………ん、分かった。忘れずに、待ってるね、元気でいてね、マティアス君っ」
「サンキュ。お前も元気でな、イリス。…………それじゃあ、いってくる」

 そうしてベンチに座っていた俺は立ち上がり、一度だけ暫く彼女を見つめた後――。
 公園をあとにしたのだった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

植物と話のできる令嬢は気持ち悪いと婚約破棄され実家から追い出されましたが、荒地を豊かな森に変えて幸せに暮らしました

茜カナコ
恋愛
植物と話のできる令嬢は気持ち悪いと婚約破棄され実家から追い出されましたが、荒地を豊かな森に変えて幸せに暮らしました

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...