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第8話 一致 シュザンヌ視点(1)

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「…………………………。…………………………」
「ごめん、いきなりこんなことを言われても迷惑だったよね。驚かせて済まない」
「い、いえっ。違うんです! そうではないのですっ!」

 おもわず呆然となってしまっていたわたしは、慌てて立ち上がってブンブンと首を左右に振ります。

「わたしも、同じだったのですっ。ずっと、クロヴィスさんを好きだったんですっ。友人としてだけではなく、男性として、好意を抱いていたのですっ」

 3年前のあの夜に恋の芽が生まれて、3年間ずっとその芽が育ち続けていたこと。一緒の気持ちだったこと。
 この胸の中にあった感情を、無意識的に興奮しつつお伝えしました。

「侯爵家と男爵家はあまりにも立場が離れていますし、所属する国も違いますし、聖女に覚醒しました。ですので諦めていて、クロヴィスさんとはそういった関係にはなれないと思っていたんです。……でも、クロヴィスさんも想ってくださっていた。信じられないことが起きて、思考回路が停止してしまい無言になってしまっていたのです」
「……そう、なのか。そうだったんだね」
「はいっ、そうだったんです……! ですのでどちらも頷かせていただきたい、のですが……。本当に、わたしで構わないのでしょうか……?」

 わたしは現在も聖女の力を有していますが、この国で祈りを捧げてもザッカールスには何ももたらせません。寿命以外では死ぬことのない、とてつもなく健康で頑丈なだけの人間。しかも追放――貴族籍を剥奪されていて、平民となっています。
 コザレイティア家は歴史ある侯爵家で、特にパイプ作りなどが必要なお家にわたしのような人間が入っても構わないのでしょうか……?

「コザレイティア侯爵家の皆様が、難色を示されると思うのですが……?」
「そこに関しては、なにも問題ないよ。……僕は君より1つ上の18歳なのに、未だに婚約を結んでいない。これは、かなり珍しいよね?」
「え? そ、そうですね。とても珍しいと思います」

 婚約の解消などで『現在していない』のではなくて、クロヴィスさんは一度も交わしたことがありません。
 ラクリナルズでもこちらの国でも性質上、身分が高くなるほど婚約の時期も早くなります。たとえばあの誕生日パーティーの主役だったリスル侯爵令嬢ミリアス様は、13歳の半ばに婚約を発表されていました。

「どうして少々おかしなことになっているのかというとね、コザレイティア侯爵家の決まり――『嫡男が愛した人間を婚約者であり当主夫人とする』というものがあるからなんだよ」


 5代前のコザレイティア侯爵家当主様――クロヴィスさんの高祖父にあたる方のお父様の代までは、他の貴族と同じく当主様がお家にとってのメリットデメリットを鑑みて相応しい相手を決めていたそうです。
 ですが当主夫妻の仲が険悪になったことで様々な問題が発生し、その結果大変な事態が起きてしまう――コザレイティア家が大きなダメージを受ける事態に陥ってしまったそうです。そしてそれ以前にも、険悪により悪い影響がもたらされたことが何度かあった。
 それらの理由から『メリットデメリットを考慮して決めるよりも、険悪にならない相手を選んだ方がいいのではないか?』という意見が一族内から出はじめ、次の代で試してみたら非常にうまく行った。プラスマイナスが0になるどころか、愛と信頼によって――当主と当主夫人が公私で深く支え合ったことによって、大きなプラスとなるものが多々後世に残される結果となった。
 それによってコザレイティア家は他貴族とは異なるルールで動くようになり、現在の当主夫人は――クロヴィスさんのお母様は、なんと子爵家の次女なのだそうです。

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