催眠探偵術師のミク

柚木ゆず

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3 はじめまして(6)

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「えっと。樹梨にお話って、なんですか?」

 あのあと、ウォーミングアップをしていた樹梨ちゃんにご挨拶。探偵の技術のひとつ『話術』を使って誘導をして、怪しまれずに体育館内にある倉庫に――人気(ひとけ)のない場所に連れてこれた。

「ちょっと、お話をお聞きしたいんですー。ごめんなさいですっ」
 鼻の辺りまで伸びている樹梨ちゃんの前髪を上げさせてもらって、じっとお目目を見つめる。
「へぴゃっ!? な、なんですっ?」
「――――。――。――――」
「な、なにを仰っているので――ふにゃ? なんだか…………ふわふわ、する……」

 すぐに樹梨ちゃんの身体から適度に力が抜け、両目がトロンとなった。
 よっし。これで樹梨ちゃんは、わたしに嘘をつけなくなりましたっ。

「…………わたしの問いに、答えてください。草原樹梨ちゃん。今学校中に、脅迫の噂が流れてるよね?」
「……はい。流れています」
「その、月橋夢兎ちゃんへの脅迫。あれをやったのは、あなたですか?」

 樹梨ちゃんがやったのなら、『はい』って返ってくる。
 あれは、この子が犯人なのかな?

「……違います。樹梨は、何もしていません」

 お返事は、『いいえ』。樹梨ちゃんは犯人じゃなかった。

「…………そっかぁ。じゃあ、もう一つ質問するね」
「……はい。なんでしょうか?」
「昨日と一昨日、それより前でもいいですー。あの脅迫に関係していそーな、怪しい人を知りませんか?」

 こういうトコから手がかりを掴めることは、意外と多い。そう勉強した。
 樹梨ちゃんは、なにか情報を持ってるかな?

「……えと。一週間前の夜……」

 あっ。なにかあるみたい。

「食堂に忘れ物を取りに行った帰りだから、午後の11時頃です……。2年F組の山谷恵子(やまたにめぐみこ)ちゃんが、3年生のフロアに入っていくのを見かけました」
「1週間前の、午後11時って。あたしが脅迫状を受け取った時間だわ」

 夢兎ちゃんのお顔が、険しくなった。
 誰かがお部屋の扉をノックしてきて、出てみたらドアに封筒が貼られていたみたい。
 恵子ちゃんが貼り付けに向かってた可能性は、あるよね。

「しかも午後の十一時は消灯時間で、そんな時間に上級生が暮らす階に居るのは不自然ですね~。おまけに山谷さんは~」
「学園長先生のリストの中にいるね。恵子ちゃんは、犯人候補のお一人」

 夢卯ちゃんがいなくなれば当選の可能性がある位置にいて、ふしぜんな行動を取ってる。ますます怪しいよね。

「ミクちゃん。山谷恵子さんのトコに行ってみましょ」
「ん。そだね」

 わたしは頷いて、自分のポッケをゴソゴソ。中からクッキーが入った袋を取り出し、樹梨ちゃんのポッケにソレを入れる。

「??? それ、なにしてるの?」
「催眠術を使ってゴメンナサイ、のお詫びだよー。わたし達は悪人じゃない人に使用した時は、こうやってお詫びをするんだ」

 ウチが使う催眠術は害はないけど、心を調べちゃったからね。こうさせてもらうのです。
 ちなみにこのクッキーさんは、叔母さんがやっているお菓子屋さんの商品。佐々木家のみんなが使うクッキーを趣味で作ったらお菓子作りが大好きになって、なんとお店を出しちゃったんだー。

「良い事をしている上での行動なのに、催眠探偵術師さんは皆さんそうなさるんですよね~。初めてお目にした時からずっと、尊敬してますよ~」
「いくら良い事をしてても、先輩にとっては迷惑をかけられただけだからね。きちっと反省しとかないといけないんだよ」
「ミクちゃんや他の皆さんって、本当に素敵な人達よね。わたしも尊敬しています」
「ぇへへ、ありがとー。んじゃんじゃ、二人目さんのところにレッツゴー」

 恵子ちゃんは、テニス部所属。なのでわたし達は建物から出て、外にあるテニスコートを目指したのでした。


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