38 / 51
第16話 回想・補完編その1 ~十年前の出会い~ レオナード(ヴィクター)視点(3)
しおりを挟む
「レオナード様。お迎えにあがりました」
僕が考えを変えて、戻ろうとした時だった。どこからともなく、目の前に赤い髪の女性が現れた。
「……レベッカ。そっか、そうだよね。僕は国王の子どもだもんね。ずっと傍に居た――居てくれてたんだね」
「はい。ただ…………わたくしは専属護衛ではありますが、人でもございます故。現状を喜ばしく思っております」
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だよ、ありがとう」
そうして僕はレベッカと共に父上のもとへと戻り、暴走を謝罪。二度とこんな真似はしないと誓い、父上は不要だと仰ったものの自身がそう決めていたため、1週間城内の清掃など自分に罰を与えた。
そしてそれが終わった日に、僕は父上に一つのお願いをしたのだった。
「なんだって……!? 調律師を目指したい!?」
「はい。僕の心を救ってくれた恩人に、恩返しをしたいんです」
一週間ああしている間に情報を集めてもらい、奏者はレンダユス伯爵家のステラ様だと――ピアニストを志している女の子であると知った。同時に調律師は職業柄年々数が減っている上に我が国では高齢化が顕著であるとも知っていて、そう決めていたのだ。
「う、ううむ……。お前の意思を尊重してやりたいところだが……」
「お父様、安心してください。職務、責務は全うした上で、目指すつもりです」
先にあった派閥や親族、他国などの問題を少しでも早く封じ込めていけるように、次の代からは――兄上が国王に就いた時から、僕とレオネル――次男と三男が両脇を固め、3人で力を合わせて国を守ってゆく計画になっている。幸い僕ら兄弟は仲が良くリスペクトし合っていたため、実現すれば強固な守りが誕生するのは確定的だった。
なので――あのような思いをするのは僕で最後になるように、そこを疎かにするつもりはなかった。
「僕は奏者である彼女に救われたので、恩返しはピアノに関することでなくてはならないのです。どうか、お許しください」
「…………時間、労力、体力。様々な面で、厳しい毎日になるだろう。それでも有言実行とするのだな?」
「はい。どちらも実現します」
「父上。この男は、やると決めたらやる男です」「お父さま。お兄さまは約束を破らない人ですよ」
「お前達…………それは分かっておるさ。一応、聞いてみただけだ」
父上は、陰で盗み聞きをしていた――見守ってくれていた兄さんとレオネルに向けて頷き、こうしてお許しをいただいた。
なのでその日から調律師を目指し始め、師匠は容赦のない人で修業は厳しかった。第二王子との両立は厳しいものだったが、それでも我武者羅に走り続けた。
そうしてそれから6年後に『一人前』の太鼓判をいただき、やがて僕は専属調律師としてステラ様と契約を行ったのだった――。
僕が考えを変えて、戻ろうとした時だった。どこからともなく、目の前に赤い髪の女性が現れた。
「……レベッカ。そっか、そうだよね。僕は国王の子どもだもんね。ずっと傍に居た――居てくれてたんだね」
「はい。ただ…………わたくしは専属護衛ではありますが、人でもございます故。現状を喜ばしく思っております」
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だよ、ありがとう」
そうして僕はレベッカと共に父上のもとへと戻り、暴走を謝罪。二度とこんな真似はしないと誓い、父上は不要だと仰ったものの自身がそう決めていたため、1週間城内の清掃など自分に罰を与えた。
そしてそれが終わった日に、僕は父上に一つのお願いをしたのだった。
「なんだって……!? 調律師を目指したい!?」
「はい。僕の心を救ってくれた恩人に、恩返しをしたいんです」
一週間ああしている間に情報を集めてもらい、奏者はレンダユス伯爵家のステラ様だと――ピアニストを志している女の子であると知った。同時に調律師は職業柄年々数が減っている上に我が国では高齢化が顕著であるとも知っていて、そう決めていたのだ。
「う、ううむ……。お前の意思を尊重してやりたいところだが……」
「お父様、安心してください。職務、責務は全うした上で、目指すつもりです」
先にあった派閥や親族、他国などの問題を少しでも早く封じ込めていけるように、次の代からは――兄上が国王に就いた時から、僕とレオネル――次男と三男が両脇を固め、3人で力を合わせて国を守ってゆく計画になっている。幸い僕ら兄弟は仲が良くリスペクトし合っていたため、実現すれば強固な守りが誕生するのは確定的だった。
なので――あのような思いをするのは僕で最後になるように、そこを疎かにするつもりはなかった。
「僕は奏者である彼女に救われたので、恩返しはピアノに関することでなくてはならないのです。どうか、お許しください」
「…………時間、労力、体力。様々な面で、厳しい毎日になるだろう。それでも有言実行とするのだな?」
「はい。どちらも実現します」
「父上。この男は、やると決めたらやる男です」「お父さま。お兄さまは約束を破らない人ですよ」
「お前達…………それは分かっておるさ。一応、聞いてみただけだ」
父上は、陰で盗み聞きをしていた――見守ってくれていた兄さんとレオネルに向けて頷き、こうしてお許しをいただいた。
なのでその日から調律師を目指し始め、師匠は容赦のない人で修業は厳しかった。第二王子との両立は厳しいものだったが、それでも我武者羅に走り続けた。
そうしてそれから6年後に『一人前』の太鼓判をいただき、やがて僕は専属調律師としてステラ様と契約を行ったのだった――。
12
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです
天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。
魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。
薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。
それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる