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第16話 回想・補完編その1 ~十年前の出会い~ レオナード(ヴィクター)視点(1)
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「うあぁあああぁああああぁああぁあああ!!」
今から10年前。あの日の僕は顔中を涙まみれにして、声にならない声を上げながら走っていた。
「ぁああああぁぁぁぁああああぁああああああううあああああ!!」
半狂乱といえる程に、錯乱してしまっている理由。それは一昨日の夜、そしてつい数分前に発生した出来事にあった。
「ミンテール……。ミンテール…………っ」
実の母親のように慕っていた、乳母。大好きな人が、持病により旅立ってしまったのだ。
あの頃の僕はまだ10歳で、人生で初めて直面する大切な人との別れ。幼さと未経験によって心も体もボロボロになって――……それだけならまだ、どうにか耐えられた。僕がこうなる嫌な決め手となってしまったのは、埋葬時に偶然聞こえてきたやり取りだった。
「ふん、ようやくバチが当たったわね。スッキリしたわ」
「下級貴族のくせに乳母だなんて、生意気だったのよ。もしかするとこれは、世の中の意思なのかもしれないわね」
「きっとそうですわ。空気を読んで辞退しなかった罰ですわ」
ミンテールは父上が『性質』と『適正』によって声をかけた、子爵家の長女。それを快く思わない者が居て、その者達は影で人の不幸を喜んでいた。
「お父様っ! 僕らがいない場所でっ、ミンテールの悪口を言っている人間がいましたっっ! アイツらはレッデイル公爵家とサエワリア侯爵家、バレンダス侯爵家の人間でしたっ!! あんなことを言うなんて許せないっ!! なんとかしてくださいっ!! お願いしますっ!!」
「…………すまん、レオナード。それは不可能だよ」
この手の『証拠が残らないもの』を理由には、動けないこと。仮に証拠があったとしても、レッデイル公爵家やサエワリア侯爵家達は裁けないこと。それらを説明され、僕は声を荒らげた。
「なぜですかお父様! お父様は国王でっ、アイツらは酷いことを言っているのにっ! どうしてなにもできないのですか!?」
そのわけは、国というものは一枚岩ではないから。
この国にも様々な派閥があり、それらを巧みにコントロールしないと国の平和は維持できない。今回問題を起こしたレッデイル公爵家は有力な派閥の中心的存在で、そんな家に罰を与えたら派閥関係者が声を上げるようになる。
それだけなら、まだいいのだけれど――他の王族や他国など、この国を狙っている者達。そんな存在が付け入る隙を与えてしまうため、この程度のことは見て見ぬふりをしなければならないのだった。
「王であっても、動けぬ時があるのだ……。すまないレオナ――」
「おかしい!! そんなことおかしい!! こんな国なんてっ、こんな世界なんてもう嫌だっっ!! 居たくない居たくない居たくないっ!! うああああああああああああああ!!」
今なら容易に、その重要性が分かる。父上だって酷く腹が立っていたとも、分かる。
でもその時の僕は理解することも受け入れることもできず、こんな結論に至る。そのため、教会へと走っていた。ミンテールに一番会えそうな場所で死ぬべく、一心不乱に目指していた。
のだけれど――。
まもなく僕は、出会うのだった。あの音色に。
今から10年前。あの日の僕は顔中を涙まみれにして、声にならない声を上げながら走っていた。
「ぁああああぁぁぁぁああああぁああああああううあああああ!!」
半狂乱といえる程に、錯乱してしまっている理由。それは一昨日の夜、そしてつい数分前に発生した出来事にあった。
「ミンテール……。ミンテール…………っ」
実の母親のように慕っていた、乳母。大好きな人が、持病により旅立ってしまったのだ。
あの頃の僕はまだ10歳で、人生で初めて直面する大切な人との別れ。幼さと未経験によって心も体もボロボロになって――……それだけならまだ、どうにか耐えられた。僕がこうなる嫌な決め手となってしまったのは、埋葬時に偶然聞こえてきたやり取りだった。
「ふん、ようやくバチが当たったわね。スッキリしたわ」
「下級貴族のくせに乳母だなんて、生意気だったのよ。もしかするとこれは、世の中の意思なのかもしれないわね」
「きっとそうですわ。空気を読んで辞退しなかった罰ですわ」
ミンテールは父上が『性質』と『適正』によって声をかけた、子爵家の長女。それを快く思わない者が居て、その者達は影で人の不幸を喜んでいた。
「お父様っ! 僕らがいない場所でっ、ミンテールの悪口を言っている人間がいましたっっ! アイツらはレッデイル公爵家とサエワリア侯爵家、バレンダス侯爵家の人間でしたっ!! あんなことを言うなんて許せないっ!! なんとかしてくださいっ!! お願いしますっ!!」
「…………すまん、レオナード。それは不可能だよ」
この手の『証拠が残らないもの』を理由には、動けないこと。仮に証拠があったとしても、レッデイル公爵家やサエワリア侯爵家達は裁けないこと。それらを説明され、僕は声を荒らげた。
「なぜですかお父様! お父様は国王でっ、アイツらは酷いことを言っているのにっ! どうしてなにもできないのですか!?」
そのわけは、国というものは一枚岩ではないから。
この国にも様々な派閥があり、それらを巧みにコントロールしないと国の平和は維持できない。今回問題を起こしたレッデイル公爵家は有力な派閥の中心的存在で、そんな家に罰を与えたら派閥関係者が声を上げるようになる。
それだけなら、まだいいのだけれど――他の王族や他国など、この国を狙っている者達。そんな存在が付け入る隙を与えてしまうため、この程度のことは見て見ぬふりをしなければならないのだった。
「王であっても、動けぬ時があるのだ……。すまないレオナ――」
「おかしい!! そんなことおかしい!! こんな国なんてっ、こんな世界なんてもう嫌だっっ!! 居たくない居たくない居たくないっ!! うああああああああああああああ!!」
今なら容易に、その重要性が分かる。父上だって酷く腹が立っていたとも、分かる。
でもその時の僕は理解することも受け入れることもできず、こんな結論に至る。そのため、教会へと走っていた。ミンテールに一番会えそうな場所で死ぬべく、一心不乱に目指していた。
のだけれど――。
まもなく僕は、出会うのだった。あの音色に。
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