unison～元婚約者様へ。私は決して、復縁はいたしません～

第14話 決行当日～始まる予定調和～ ステラ視点（２）

「ステラ様。お忘れ物をお届けに上がりました」

　マーティン様と渋々会話を始めて、２分弱が経過した頃でした。スタッフの制服を着た眼鏡をかけた女性が、私達の右手側からやって来ました。
　この方は、会場の関係者――ではありません。今近づいてきているのは、関係者に成りすましたゼルデック子爵家のセリア様。私を襲う、そんなお芝居をする役割を与えられた方です。

「忘れ物、ですか？　何もしていないと思うのですが……？」
「先ほど控え室の点検を行っておりましたら、イヤリングが一つ床に落ちておりました。ご確認をお願いします」

　首を傾げて見せるとスラスラと返事があって、私達の距離はゆっくりと狭まってきます。
　10メートルが９メートルになって。９メートルが８メートルになって。その距離が、６メートルほどになった時でした。

「イヤリングが落ちていた……？　そんなことがあり得るのか……？」

　ぽつりと。マーティン様が呟かれ、眉間に皺が刻まれるようになりました。


「……控え室には何人もの人間がいて、去る際には細かくチェックをするはず。そんなことがはあり得ないはずだ……」

「そもそも……。どうしてコイツは、左側から来た……？　あとを追いかけてきたなら、関係者用の出入り口から現れるはずだ……」


　まるで本当に推理をしているように呟きを繰り返し、距離が４メートルを切ったところでマーティン様の両目がカッと見開かれました。

「ステラっ！　そいつはスタッフじゃない!!　外部のっ、無関係な人間っ!!　何か企んでいる!!」
「チィッ、邪魔をしないでよ!!　でも遅いわっ！　ここまで近づけたら問題ないわぁぁあああああああああああああああ!!」

　変装をしていたセリア様は絶叫と共にナイフを取り出し、それを振り上げながら私へと飛び掛かってきました。

「「しまっ!!」」

　マーティン様に近づいていたことにより、護衛の自分たちは対応が間に合わない。お二人はそういうお芝居を行われ、ですので――

「すてらぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

　マーティン様の背中が視界一杯に広がり、

「ぐ!!　おっ、お前の好きにはさせないぞ!!」

　私を庇い腕を負傷したあと、素早くセリア様こと不審者を取り押さえたのでした。



　……マーティン様。ここまでは計画通りですね？
　ですがここからは、そうはいきませんよ？