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第8話 悲願の日 アルチュール視点(2)

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「ヴィルジニー。ここで休憩しようか」
「そうですね。そう致しましょう」

 従者たちにシートを敷かせたあと馬車を降りて、忌々しい女を馬車の進路に座らせる。そうして合図を送って――もいいが、それだとあっさりと終わってしまう。


『そ、そんな……。ぁぁぁ……。ぁぁぁあああああああああああああああ!』


 俺はブリュノと呼ばれていた頃、コイツのせいで多くのものを失った。
 その怒りは、あっという間の死、では消し去れない。
 そこで更に、ひとつ余興を挟むことにした。

「…………あのね。君に話したいことがあるんだ」
「は、はい。なんでしょう?」
「嘘みたいな本当の話。俺には前世の記憶があるんだ」

 かつてはブリュノ・ミアテーズという名の、子爵家の嫡男だったこと。
 幼馴染のジュリエット・ザルフェルと婚約していたものの、酷い過ちを犯してしまってミレーユ・ファトートと新たに婚約を結んでしまったこと。
 そんなミレーユはとんでもない女で、ブリュノの金目当てですり寄ってきていたこと。
 そんな忌々しい愚行蛮行によってブリュノはすべてを失ってしまい、悲惨な最期を迎えてしまったこと。
 それらを伝えた。

「……アルチュール様は、ブリュノ様……」
「信じられないだろう? だがさっき言ったように、紛れもない事実なんだよ」
「…………アルチュール様は、嘘を吐かない御方。疑ってはおりません」
「で、だ。なぜ急に、そんな話をし始めたか分かるか?」
「い、いえ、分かりません。どうして、なのでしょうか……?」

 目を瞬かせながら首を傾ける、ヴィルジニー。俺はひとり立ち上がり、そんなコイツを見下ろしながら続ける。

「俺はな、前世で果たせなかったことを現世で果たそうとしているんだ。ミレーユに天罰を与え、ジュリエットと今度こそ夫婦になろうとしているんだよ」
「そう、だったのですね……。それは――っ! もしかして……!」

 ヴィルジニーがハッと息を呑んだ瞬間、俺は仲間達に合図を送る。

《いいな、お前達。俺が事実を告げた直後に暴走させるんだ》
《《《》》》

 視線で言葉を交わし、怨敵へと向き直る。

「わたくしが……。ジュリエット、なのですね……!? 貴方様はそちらに気付いてっ、わたくしにお声をかけてくださったのですね……!」
「………………ははは」
「アルチュール様……! ありがとうご――」
「ふざけるなよ。お前がジュリエットなはずない」
 そうじゃ、ない。
 コイツは――
「貴様はなぁ――」


「ミレーユ、なんでしょう? 言われなくても分かってるわよ」


 ………………。
 え?
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