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5話
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モリワール邸の傍で、ノルベルト様と会ったあと。眠りについた私は、夢を見ました。
あの日は、およそ一か月半前の放課後。生徒会室でのことでした。
『ごめんね、シャルロッテ。急いで仕事を済ませるから』
その日の放課後は二人でお買い物に行く予定だったのですが、殿下は生徒会の書類のチェックとサインで大忙し。机上に積まれた、数十枚もの紙の対応に追われていたのです。
『折角出掛ける日なのに、急に仕事が入り込むだなんてね。しかもよりによって一人の時なんて、タイミングが悪すぎるよ』
『そういえば今日は、他の方がいらっしゃる様子はありませんね? 副会長のアリナ・モリワール様、会計のクルス・バーナス様、書記のユウト・ヴァウラル様は、どうなされたのですか?』
太陽のような、明るくて美人な女性。
細い眼鏡をかけた、真面目で知的な男性。
いつものんびりマイペースな、おっとりとした男性。
生徒会のメンバーさんは、誰一人いません。その時の私は、コクリと首を傾げました。
『ユウト書紀は、ご実家のお手伝い。クルス会計は先週から当主となっていて、他貴族との会議に出席中。アリナ副会長は、風邪を引いて昨日から欠席しているよ』
『そう、だったのですか。モリワール様の具合は、いかがなのでしょうか?』
『症状は軽くて、念のために2日間休む事にしたそうだね。さっき職員室に書類を取りに行った際、先生がそう仰っていたよ』
判を捺していたノルベルト様は、ここで手を止めて苦笑いを一つ。自虐的な色を多く含ませました。
『生徒会の仲間なのに、前日から欠席している事を知らなかった。お見舞いどころか、案じる事すらできていなかったなんてね。リーダー失格だよ』
『そんなっ。生徒会は隔日集合ですし、モリワール様とは教室が離れています。それに昨日は公務で大忙しでしたから、仕方ありませんよ』
『……シャルロッテ、ありがとう。そう言ってもらえると、気が楽になるよ』
ノルベルト様から自虐の色が薄まり、完全にとはいきませんが、表情が柔らかくなってお仕事を再開しました。
だから、なのかは分かりませんが――。その後は作業のスピードが上がり、私達は1時間後に無事お会い物をできるようになったのでした。
――これがその日、見た夢です。
この会話があったのは、一か月半前。ご本人曰くすでにモリワール様に恋をして、浮気が始まっていた時期です。
なのに欠席の情報を知らず、お見舞いにも行っていない。
もしも、お付き合いをしていたなら。もしも、強く想いを寄せていたなら。
こんなことは、絶対に起こりえません。
だとしたらあの話は、全て嘘。
罪悪感があるにはあったから、破棄の際にあんな顔になっていたなどなど。あそこで語られた内容は何かもが、偽りだったのです。
……やっぱり殿下は、何か隠しています……。
改めて事実だと認識した私は、目を覚ますと急いで制服に着替えて登校の準備を整えました。
学舎に行けばもう一人の関係者、アリナ・モリワール様がいらっしゃいます。
昨日一昨日と殿下が接触しているため、間違いなくあの方も何かご存じのはず。
朝食を終えた私は真実を確かめるべく、学舎の2階にある教室――モリワール様が籍を置く教室を目指したのでした。
あの日は、およそ一か月半前の放課後。生徒会室でのことでした。
『ごめんね、シャルロッテ。急いで仕事を済ませるから』
その日の放課後は二人でお買い物に行く予定だったのですが、殿下は生徒会の書類のチェックとサインで大忙し。机上に積まれた、数十枚もの紙の対応に追われていたのです。
『折角出掛ける日なのに、急に仕事が入り込むだなんてね。しかもよりによって一人の時なんて、タイミングが悪すぎるよ』
『そういえば今日は、他の方がいらっしゃる様子はありませんね? 副会長のアリナ・モリワール様、会計のクルス・バーナス様、書記のユウト・ヴァウラル様は、どうなされたのですか?』
太陽のような、明るくて美人な女性。
細い眼鏡をかけた、真面目で知的な男性。
いつものんびりマイペースな、おっとりとした男性。
生徒会のメンバーさんは、誰一人いません。その時の私は、コクリと首を傾げました。
『ユウト書紀は、ご実家のお手伝い。クルス会計は先週から当主となっていて、他貴族との会議に出席中。アリナ副会長は、風邪を引いて昨日から欠席しているよ』
『そう、だったのですか。モリワール様の具合は、いかがなのでしょうか?』
『症状は軽くて、念のために2日間休む事にしたそうだね。さっき職員室に書類を取りに行った際、先生がそう仰っていたよ』
判を捺していたノルベルト様は、ここで手を止めて苦笑いを一つ。自虐的な色を多く含ませました。
『生徒会の仲間なのに、前日から欠席している事を知らなかった。お見舞いどころか、案じる事すらできていなかったなんてね。リーダー失格だよ』
『そんなっ。生徒会は隔日集合ですし、モリワール様とは教室が離れています。それに昨日は公務で大忙しでしたから、仕方ありませんよ』
『……シャルロッテ、ありがとう。そう言ってもらえると、気が楽になるよ』
ノルベルト様から自虐の色が薄まり、完全にとはいきませんが、表情が柔らかくなってお仕事を再開しました。
だから、なのかは分かりませんが――。その後は作業のスピードが上がり、私達は1時間後に無事お会い物をできるようになったのでした。
――これがその日、見た夢です。
この会話があったのは、一か月半前。ご本人曰くすでにモリワール様に恋をして、浮気が始まっていた時期です。
なのに欠席の情報を知らず、お見舞いにも行っていない。
もしも、お付き合いをしていたなら。もしも、強く想いを寄せていたなら。
こんなことは、絶対に起こりえません。
だとしたらあの話は、全て嘘。
罪悪感があるにはあったから、破棄の際にあんな顔になっていたなどなど。あそこで語られた内容は何かもが、偽りだったのです。
……やっぱり殿下は、何か隠しています……。
改めて事実だと認識した私は、目を覚ますと急いで制服に着替えて登校の準備を整えました。
学舎に行けばもう一人の関係者、アリナ・モリワール様がいらっしゃいます。
昨日一昨日と殿下が接触しているため、間違いなくあの方も何かご存じのはず。
朝食を終えた私は真実を確かめるべく、学舎の2階にある教室――モリワール様が籍を置く教室を目指したのでした。
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