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幕間 束の間の休息(1)

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「ミファ、じっとしておいてくれよ。絶対に動くんじゃないぞ?」
「もぅ、わかってるわよ。子供の時と違って、今の私は落ち着きのある子だもの」

 メイクスへの道程の3分の2くらい進んだところにある、爽やかな草原。そこで私はティルの横で正座をして、破れたワンピースの裾を縫ってもらっていた。

 あれは、少し前のこと――。

『ここで少し、昼食を兼ねた休憩を取ろう。馬にも俺達にも、適度な休息が必要だからな』
『そうね。じゃあ先に、お馬さんのご飯と水を用意しましょっか。お水は…………あそこの川で汲めばいいわね』
『そうだな。俺が行ってくる』
『ティルは操縦をしてくれてるんだから、ここは私がやるわ。こっちも少しは活躍しなきゃだし、体力づくりにもなるからね』

 こうして私は馬車に備え付けられたバケツを持って川を目指し、清らかな水を掬う。
 あとは引き返せばお仕事終了。だったんだけど……。そんな私を、ハプニングが襲う。

『きゅうきゅう。きゅうきゅう』
『ぁっ、ウサギっ。ここには野生の動物が暮らしてるのね』
『きゅうきゅうっ。きゅうきゅうっ』
『あははっ、くっついてきてくれたっ。ウサギって可愛いのよね――』

 ビリ。

 しゃがんで撫でていると、ウサギさんは私の服の端っこをモグモグした。
 まあこれは野生動物の戯れみたいなもので、何も言わずにそのままにしていた。だけどワンピースにとっては死活問題だったみたいで、ビリっという音がして裾が破けてしまった。
 そうして私は唯一の服を傷めてしまい、裁縫も得意なティルがお直しをしてくれているのです。

「……そういえば。こうやってミファの服を直すのも、久しぶりだな」

 苦い、でも可愛かったハプニングを思い出していると、右の耳にそんな声が入ってきた。

「ノルスという『正体不明の子供』を招き入れた事で怒りを買い、ミファは更に外出を制限されてしまったからな。前にこういう事が起きたのは、6歳の頃だったか」
「そうね、森で枝に引っかかった時。あの時は本当に、ティルがいてくれて助かったわ」

 当時から末っ子に対してはなかなかに厳しくって、あまり服も与えられなかった。なのに破けたところから下着が見えちゃうくらい、派手に破いちゃって……。
 ティルが抜群の腕で見事に修繕してくれなかったら、私は城内の人に履いてるものを見せたままになっていたのよね……。

「今も昔も、お世話になってます。とっても感謝してます」
「今も昔も、俺が好きでやっている事。俺がやりたいからやっている事だ。気にしないでくれ」


 幼馴染はいつものように、クールに微笑んでくれる。
 この人だけは、幼い頃からずっと変わらない。どんな時でも態度はおんなじで、心の底から安心できる人、なんだよね。

「………………ティル。ありがとう」
「例には及ばないさ。…………よし、できた。これでもう大丈夫だ」

 私と喋っている間も針を動かすスピードは少しも落ちず、あっという間に完成した。
 流石ティル。近くでじっくり見ないと補修が分からないくらい、完璧な仕上がりになってる。

「ついでに弱っていた部分にも手を加えておいたから、もし似た事が起きてもこうはならないはずだ。とはいえ元々が古物で、耐久力が随分と落ちている。街に着いたら洋服をいくつか購入した方がいいな」
「それも、そうね。着いて宿を確保したら、行ってみましょっか」

 折角直してくれたから、私はコレを着続けるつもり。だけど一つくらいスペアがないと、困るのも事実。
 メイクスは丁度『服飾の国』で、これから目指す街・クローズは『服飾文化誕生の地』とも言われている場所。だから、聖地ならではの出血大サービス品を。上下一枚で済むお手頃ワンピースを目指して、買いに行きましょう。

「それじゃあ予定に一つ追加で、その前に今度こそ休憩。お昼ご飯にしましょ」
「そうだな。食事は、サーゼル殿が作ってくださったサンドウィッチで――ん? ミファ、バスケットの横にある弁当箱はなんだ?」

 普段はあまり使わない『お箸』が載った、長方形の箱。ティルには内緒にしていて、これの存在は知らないのよね。

「ふふん。これは、ね」
「ああ。これは?」
「ティルへのお弁当。日頃の感謝の気持ちを込めて、コッソリキッチンを借りて作ったのよ!」

 私はサプライズを披露して、ティルの前に特製のお昼ご飯を置いた。
 の、だけど。あれ……?
 どうして、ティルの額に、脂汗が浮かんでるの……?
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