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幕間 最初のざまぁ(1)
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「勇者様。先日発生した魔物の漁場襲撃について、お話がございます」
王がタチの悪い自己顕示欲をいかんなく発揮して豪奢に仕上げた、エルン城内にある王の間。そんな無駄の極みとも言える場所で、王は畏まりながら頭を下げた。
――王が頭を下げる――。
これは、見間違いでも聞き間違いでもない。なぜならばエルン城の実権、否。この国の実権はすでに、勇者であるノルスが握っているのだから。
「お忙しいところ申し訳ありません。少々構いませんでしょうか?」
「……仕方ない。話を聞いてやろう」
王座でこの国の第一王女と第二王女を侍らせていたノルスは、嘆息を一つ。『愉快な一時(ひととき)を邪魔された』、という様子で息を吐いた。
「ありがとうございます。……実は、ですね……。漁場周辺に住む者達が、『勇者様に一度お越しいただきたい』と切望しているのですよ」
「…………なるほど。勇者様がその御姿を見せてくだされば、魔物が恐れて近づかなるはず。というわけだな?」
「さ、さようでございます」
王は恭しく首肯し、続ける。
「先日の襲撃では長男が不在だったため援軍が間に合わず、漁師の者たちも不安で仕事が手につかない有様です。ですのでどうか、ほんの数分で構いませんので、御足労のほどお願い申し上げます」
「………………」
「現在は長男もおりますので、移動のご負担はございません。あの漁場はわが国にとって、重要な資源場の一つでして……。何卒お願いいたします」
「………………そうか、分かった。だが、それについては断る。たとえ数分であろうとも、この勇者の時間が奪われてしまうのだからね」
勇者は偉大なる存在。偉大なる存在の貴重な時間は、庶民如きに使えない。
そんな理由で、ノルスは棄却した。
「魔物が心配なら、騎士団の人間を数名常駐させればいい。この城にはこの僕がいるんだから、ちょっとくらい数が減っても問題ないさ」
「そ、そうでございますね。承知いたしました」
「まったく、そのくらい自分で考えてくれ。ホント、お前の父親は無能で困る」
「そうですわね。お父様。いつまでもその調子でしたら、ミファ達のように追放されてしまい――」
「失礼致します! 勇者様大変ですっ! 大変でございますっっ!!」
第一王女が実父をせせら笑っていると、せわしないノックと共に初老の男性が飛び込んできた。
彼はノルスの側近を務める、ヘーゼ・ナイスン。無能な勇者に代わって様々な仕事をこなす――問答無用で押し付けられている人間だ。
「またしても、騒がしいヤツが来たな。ナイスン、どうしたんだ?」
「あ、あの、ですね……。先ほど……。あの……」
「はぁ、いいからさっさと言え。さきほど、なんなんだ?」
「……その、ですね。ナルセイのアーティス家から、伝書鳩が届きまして……。『第一王女の結婚はなかったことにさせていただく』と、あったのでございます……」
王がタチの悪い自己顕示欲をいかんなく発揮して豪奢に仕上げた、エルン城内にある王の間。そんな無駄の極みとも言える場所で、王は畏まりながら頭を下げた。
――王が頭を下げる――。
これは、見間違いでも聞き間違いでもない。なぜならばエルン城の実権、否。この国の実権はすでに、勇者であるノルスが握っているのだから。
「お忙しいところ申し訳ありません。少々構いませんでしょうか?」
「……仕方ない。話を聞いてやろう」
王座でこの国の第一王女と第二王女を侍らせていたノルスは、嘆息を一つ。『愉快な一時(ひととき)を邪魔された』、という様子で息を吐いた。
「ありがとうございます。……実は、ですね……。漁場周辺に住む者達が、『勇者様に一度お越しいただきたい』と切望しているのですよ」
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「さ、さようでございます」
王は恭しく首肯し、続ける。
「先日の襲撃では長男が不在だったため援軍が間に合わず、漁師の者たちも不安で仕事が手につかない有様です。ですのでどうか、ほんの数分で構いませんので、御足労のほどお願い申し上げます」
「………………」
「現在は長男もおりますので、移動のご負担はございません。あの漁場はわが国にとって、重要な資源場の一つでして……。何卒お願いいたします」
「………………そうか、分かった。だが、それについては断る。たとえ数分であろうとも、この勇者の時間が奪われてしまうのだからね」
勇者は偉大なる存在。偉大なる存在の貴重な時間は、庶民如きに使えない。
そんな理由で、ノルスは棄却した。
「魔物が心配なら、騎士団の人間を数名常駐させればいい。この城にはこの僕がいるんだから、ちょっとくらい数が減っても問題ないさ」
「そ、そうでございますね。承知いたしました」
「まったく、そのくらい自分で考えてくれ。ホント、お前の父親は無能で困る」
「そうですわね。お父様。いつまでもその調子でしたら、ミファ達のように追放されてしまい――」
「失礼致します! 勇者様大変ですっ! 大変でございますっっ!!」
第一王女が実父をせせら笑っていると、せわしないノックと共に初老の男性が飛び込んできた。
彼はノルスの側近を務める、ヘーゼ・ナイスン。無能な勇者に代わって様々な仕事をこなす――問答無用で押し付けられている人間だ。
「またしても、騒がしいヤツが来たな。ナイスン、どうしたんだ?」
「あ、あの、ですね……。先ほど……。あの……」
「はぁ、いいからさっさと言え。さきほど、なんなんだ?」
「……その、ですね。ナルセイのアーティス家から、伝書鳩が届きまして……。『第一王女の結婚はなかったことにさせていただく』と、あったのでございます……」
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