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8話(1)

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「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 動く城――。そんな例えが適切になっちゃうくらい、大きな大きな存在。
 四足歩行の、鱗を持つ緑色の化け物――トカゲに似た巨大な魔物が、のっそりのっそりと歩いてきている。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 一歩足を降ろすたびに大地は揺れ、咆哮は鼓膜を激しく震わせる。
 アイツがなすこと全てが、規格外。子供の頃に夢で見た、タチの悪いお話のような景色がそこにある。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「……興奮状態にもかかわらず、そのスピード。どうやらヤツは、この速さが限界のようだ」
「だったら、不幸中の幸いね。あのデカさで滅茶苦茶俊敏なら、流石にどうにもならなかったもの」

 猫のような動きをみせる、三十メートル超の巨大魔物。こんなのがいたら、街も私達も終わってた。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「ようやく俺達に気付き、殺気を剥き出しにしてきたな。ならばこちらも、挨拶をするとしよう」

 ティルが前方に杖を突き出し、その先端が青く光って氷の魔術が飛び出す。直径2メートルくらいある大きなツララは、ヤツの左前脚へと飛んで行って――

「ギギャ……?」

 しっかり命中したものの、アイツは無傷。『今、何かぶつかったか?』とでも言いたげな、薄い反応を見せただけだった。

「あの規模の魔術だと、他の魔物なら串刺しになってるのに……。防御力が、高いみたいね」
「ああ。異様に、高いらしい。ミファに魔力を高めてもらった状態で撃っても、鱗に傷一つついていないからな」

 ほんの僅かな傷跡さえも、ない。魔王ゲーランが言っていた『もう一つの愉快な力』は、コレ。バカみたいな防御力のようね。

「…………威力のある光属性の魔法をぶつけても、結果は同じか。十中八九、ミファが思っている通りのようだな」
「そうね。だけど、アイツは甘いわ。ここには聖剣並みの剣があるんだからね」

 私は腰から剣を抜き、『祝福』を施して強化する。
 これでこの武器は、様々な逸話を持つ利器になった。あの鱗も聖剣が斬り伏せてきたものに比べたら柔らかくて、ちゃんと傷つけられるのよね。

「脚を斬って姿勢を崩し、地面に転がった胴体をぶしゅり。こんな感じかしら」
「そう、なるな。だが相手も攻撃手段を持っていて、近づけば激しく抵抗してくるはずだ。……まずは俺が偵察してくる」

 ティルは私を制するように左手を横に伸ばし、颯爽と前に飛び出した。
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