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7話(8)

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「……残された時間とこちらの戦力、敵の規模を考えると……。街から撤退するしかありませんね……」

 あれから、およそ20分後。ギルドに飛び返って報告をすると、アルジェさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「猶予は約30分。漁場狙いを考慮して、元王族の方々には各地の警備をお願いしている――すぐには応援要請ができない。そして……」


『逃げろ逃げろ! 早く逃げないと死んじまうぞ!!』
『巨大な繭から出てくるヤツなんて、倒せるはずがないっっ! 姉御や旦那も逃げましょう!!』


「ギルド所属の冒険者さん達全員が、迎撃を諦めています。おまけに僕には戦闘向けのスキルはないため、遺憾ですがその選択をせざるを得ないのですよ……」

 アルジェさんは慌てふためく冒険者達を一瞥し、口を真横に結んだ。
 私達の報告後周りに今後について尋ねた結果、返ってきたのは『戦わずに逃げる』のみ。おまけに十分な戦力となる元王族達が不在なのだから、この判断は致し方ない。

「全土を警戒してしまった、僕の判断ミスです。……お二人のご期待に応えられず、申し訳ありません……」
「アルジェ殿は一人も被害者を出さないよう動いていた、素晴らしいリーダーです。頭をお上げください。それに、貴方は判断ミスをされてはいませんよ」

 そうね。決定的なミスを犯してはいない。

「……? それは、どういう……?」
「アルジェ殿はミファと俺を『要(かなめ)』とし、遠方への派遣を依頼しませんでした。そのため――」
「最大の戦力は、ここにいます。あんなヤツ、私達で倒しますよ」

 ティルに目線で促された私は、幼馴染の右肩に左肩をくっつける。
 私達の脳内には、はなっから撤退の2文字はない。森での、『もしいい案が見つからなくっても、今引き返せば皆が避難する時間を作れる』――。皆が避難ってのは、そういうことなのよね。

「私達がここに戻った一番の理由は、防戦が未経験だから。何かを守りながら戦うのは初めてで、うっかり被害が出るかもしれないから避難を伝えただけ。なんですよ」
「ソーラ、さん……。ですが今回の敵は、相手が悪すぎます。さしものお二人であっても、巨大かつ更にもう一つ何かを隠している魔物は危険です」
「ええ、そこは私達も承知しています。けどこのくらいのヤツを倒せないと、この先やっていけないんですよね」

 私は――隣にいるティルも、小さく口元を緩めた。

「ここだけの話私達は、魔王と大魔王もぶっ潰すつもりなんです。イレギュラーとはいえ『魔王が置いてった魔物』ごときに負けてたら、大魔王どころか魔王すら倒せませんよ」

 こんなの、通過点の更に通過点。大魔王の、おまけのおまけ以下。そんなのさえ越えられないようじゃ、クソ勇者への復讐なんて夢のまた夢よね。

「ま、魔王と、大魔王……。貴方がたは、一体……?」
「そこは秘密で、とにかく私達はやります。アルジェさんは念のために、街の人達の避難をお願いしますね」
「俺達は極力害を出さないよう、街から50メートル程度離れた地点で迎え撃ちます。くれぐれもその方向には近づかないよう頼みます」

 以上で、会議(?)はお仕舞い。移動する時間もあるため私達は足早にギルドをあとにし、戦場に定めた草原へと急いだ。
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