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アシルの記憶編 追憶。そして……。(2)
しおりを挟む「当時の作品などは、全てそのまま保管されているそうですよ。御覧になりますか?」
「うん、見てみよう。僕は一体、どんな絵を描いていたのかな……?」
アシル様は期待と不安を胸に手を伸ばし、棚にあった絵を取ります。
1つ目の絵は、風景画。ここから見える景色を描いたものです。
「繊細なタッチで空と山が描かれていて、絵の具の色遣いがとても綺麗だ……。特に空は、絵の中に本物があるみたいで……。自分が言うのもなんだけど、確かに一流――超一流だね」
「こういうものを描(えが)く際は筆遣いが柔らかくって、優しさが線や色に宿っています。いつまでも見ていられる絵、ですよね」
「うん、本当にすごいよ……。次は………………えっ。今度のは、別人が描いてるみたいだ……」
2つ目の絵は、こちらも風景画。ただしこちらは内容が大きく変わり、荒れた夜空を駆ける稲妻を描いたものです。
「こっちは線が鋭く勢いがあって、カミナリの迫力が出ている……。塗りはいい意味で雑さと荒々しさがあって、音が聞こえてくるようで……。何度見ても、同一人物とは思えないよ」
「ルシアンさんだからこそできる芸当、ですね。わたしも出会った頃に初めて見せられた時は、他の方の作品だと思いましたよ」
昔からあの人は筆づかいの変化具合が飛び抜けていて、実際に目の前で描いてもらうまで信じられませんでした。
そんな才能を持っているのに、才に溺れず努力を怠らないのですから――。最高の絵師と呼ばれるに至ったのは、至当です。
「……記憶の件は関係なしに、一人の作者として興味が出てきたよ。そこにあるものは、何が描かれているのかな?」
3つ目の絵は…………。こちらは、珍しい人物画。まだまだぎこちない手つきですり鉢を扱っている女性――若き日のフィアナが描かれたものでした。
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