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4話 ソフィア視点(1)
しおりを挟む「道具は、ありますね。では製薬を始めましょう」
お屋敷の中にある、厨房。慣れ親しんだ場所に戻ってきたわたしは早速、採取したものとお鍋達を並べました。
現在は午後2時過ぎで、移動も含めあと3時間ほどで戻らないといけません。今日はメリッサさんにも一部手伝ってもらって、速やかに済ませましょう。
「ソフィア。あたしは何を手伝えばいいの?」
「ドーアク草とダミナ草の、洗浄をお願いします。こちらに全量の半分がありますので、すみませんが一枚一枚丁寧に冷水で洗ってください」
「オッケー。任せておいて」
そうしてわたし達はまず素材の水洗いを行い、付着している汚れなどを取り除いていきます。
微量の土や虫のフンがあった場合、上手く効果が出てくれない時があります。ですのでこの作業は入念に行い、30分ほどで終わりました。
「メリッサさん、ありがとうございました。それでは次に、乾燥させるのですが……。自然乾燥をさせる時間はありませんから、火を使って水分をとばします」
メリッサさんにお願いしてお庭で焚火を行い、その近くに――焦げない適度な距離に、ドーアク草とダミナ草を置いてしばらく待ちます。そうすれば一応乾燥した状態となるので、それらを沸騰した水を張った鍋に投入。常に内部をかき回しながら、ぐつぐつ煮込んでいきます。
「なるほど、煮る、のね。あたしはてっきり、粉末にするものと思ってたわ」
「この国の薬師が取り扱うものは粉末状で、液体状のものはありませんからね。わたしも――フィアナも、他国の薬師に教わった時は驚いていました」
はるか遠い東にある国から来た、女性。偶然異国の同業者と出会ったフィアナは情報を交換し合い、様々な知識を手に入れたのです。
「実を言いますとこの薬もヒントはその方に頂いていて、『ドクダミ』というものを煎じた飲み薬がベースになっています」
「どく、だみ……? それは、毒なの……?」
「いえ。他国に生息する多年草の一種で、逆に毒を出す――老廃物の排出などを手伝ってくれる効果があります。ですのでその『排出』をベースに試行錯誤を行い、ドーアク草とダミナ草を用いた排毒薬を完成させました」
試行期間は、1年以上。フィアナでさえも、かなり苦労した薬でした。
ただ――。当時異国の文化は忌避されていたため実用化には至りませんでしたし、遺したレシピも処分されてしまったようです。幸い現在は食べ物など少しずつ受け入れられてきているため、事態が落ち着いたら改めて薬を発表しましょう。
「ドーアク草とダミナ草は、単体では何の効果もありません。ですがこうして二種類を茹でることで溶け出したものが作用し合い、ドクダミに似た効果をもたらしてくれるんですよ」
「へぇ、不思議なものね。興味深いわ」
「フィアナもそういう部分に惹かれ、薬師の門を叩きました。まだまだ沢山不可思議な組み合わせがありますから、今度お教えしますね」
わたし達はこのような話をしながら作業を進め、三十分ほどでこの工程はお仕舞い。これを常温でじっくり冷まし、完全に熱が取れたら瓶に入れて完成。
あとは――戻る前に、もう一つ。帰路で採取した花をもとにとあるものを拵え、以上で今度こそ終わり。
おまけが出来上がった頃にはすでに陽が落ちていて、お父様とお母様ともお話しをしたかったのですが、今日は我慢をして馬車に乗り込みます。そしてそのあとは御者さんが飛ばしてくれたこともあって無事時間内に着き、わたしは怪しまれずお城に戻れたのでした。
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