8 / 38
第3話 あの日から今日まで リシャール視点
しおりを挟む
妹のマリオンは人格が破綻していて、両親も同類。エミリーさんはそんな家族にいつも心身を苛まれている。
あの日偶然ランファーズ家の内情を知ってから、僕はずっと彼女を救いたいと思っていた。
でも――。
それの実現は、とてつもなく難しかった。
『リシャール、お前の気持ちはよく分かる……。その話を聞いて、わたしもどうにかしてあげたいと思っているのだよ……。だがな、首を縦には振れんのだ』
あんな扱いを受けていても、エミリーさんはランファーズ子爵家の一員。貴族が貴族に干渉するとなると、あらゆる問題が発生してしまう。
リスクがいくつも生まれてしまう。
この上なく酷い、ハイリスクノーリターンな行動。チュワヴァス子爵家や領地領民を最前線に立って護る立場にある当主としては、到底了解できることではなかった。
僕自身も、それは理解していた。けど――。
諦めるつもりはなかった。
だって、そんな事実を知って――いつもいつもあんな目に遭っていると知って、放っておけるはずがないじゃないか。
だから僕は、必死で探した。
一番の障害となっている『ハイリスクノーリターン』をなくし、チュワヴァス家に迷惑をかけないで解決できる方法を探し始めた。
それは茨の道。いくら考えても良いやり方が見つからず、何度も何度も下を向いてしまった。
けれど今から一か月前に、その状況は大きく変化することとなるのだった。
《リュミエール水彩画部門 金賞受賞》
一流画家への登竜門と言われている、由緒あるコンテスト。そこで、非常に名誉ある賞を――画家としての将来を約束される賞を、いただくことができたのだった。
((……よかった。これでやっと、前に進める))
俗に言う、青田買い。上位入賞を果たした画家の――巨匠になるかもしれない人間の初期作品を欲しがる人は多くいて、それは非常に高値がつく。
……どの作品も大切な宝物なのだけれど、我を通すには代償がつきもの……。
僕はこれまで描いた作品を売れるだけ売り、大金を――ランファーズ家からエミリーさんを『買える』だけの額を用意した。
その状態で――
「……なるほどな、これだけあれば喜んで差し出すだろうな。ただ――」
「それでも、デメリットは残っていると承知しております。ですので、そうであっても『エミリー・ランファーズをウチに迎え入れるべき』であるということを――そのデメリットを打ち消し、更には大きなメリットとなるものが存在しているということを、これから説明致します」
「打ち消し、メリットになる……? なにがあるというのだ……?」
「将来この家に、リュミエールの金賞受賞者がもう一人増える――恐らくは、それ以上の賞を受賞する大物が誕生する。ということですよ」
僕は初めてエミリーさんの絵を見た時、衝撃を受けた。絵に、色に、感情を乗せられるということを初めて知って、尊敬であり憧憬を抱くようになった。
でも……そんな彼女は家族に活動を快く思われていないせいで、あまり――僕の半分も絵の勉強をできておらず、『技術』の面で遥かに劣ってしまっていた。
そしてその『技術』は才能センスと異なり、時間をかければ誰だって身につくもの。つまりまともな環境さえあればエミリーさんは、もっともっと羽ばたけるのだ。
「僕には彼女を護りたいという想いも、次期当主として『家』や領地領民を護らなければならないという思いもあります。最悪どちらも傷付けてしまうような嘘はつきませんよ」
「…………確かに、そうだな」
「あちらが、エミリーさんを喜んで手放す方法を――自分で考えていて反吐が出てしまうような、下卑た言い分を考えております。それによってランファーズ家が関わるあらゆる問題も発生しなくなります。……ですので父上、お願いします。この計画を実行させてください」
そうして父上――その後親族を説得し、僕は急いで準備を整えてお屋敷を発ち――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――その道中で偶然エミリーさんを見つけ、声をかけたのだった。
あの日偶然ランファーズ家の内情を知ってから、僕はずっと彼女を救いたいと思っていた。
でも――。
それの実現は、とてつもなく難しかった。
『リシャール、お前の気持ちはよく分かる……。その話を聞いて、わたしもどうにかしてあげたいと思っているのだよ……。だがな、首を縦には振れんのだ』
あんな扱いを受けていても、エミリーさんはランファーズ子爵家の一員。貴族が貴族に干渉するとなると、あらゆる問題が発生してしまう。
リスクがいくつも生まれてしまう。
この上なく酷い、ハイリスクノーリターンな行動。チュワヴァス子爵家や領地領民を最前線に立って護る立場にある当主としては、到底了解できることではなかった。
僕自身も、それは理解していた。けど――。
諦めるつもりはなかった。
だって、そんな事実を知って――いつもいつもあんな目に遭っていると知って、放っておけるはずがないじゃないか。
だから僕は、必死で探した。
一番の障害となっている『ハイリスクノーリターン』をなくし、チュワヴァス家に迷惑をかけないで解決できる方法を探し始めた。
それは茨の道。いくら考えても良いやり方が見つからず、何度も何度も下を向いてしまった。
けれど今から一か月前に、その状況は大きく変化することとなるのだった。
《リュミエール水彩画部門 金賞受賞》
一流画家への登竜門と言われている、由緒あるコンテスト。そこで、非常に名誉ある賞を――画家としての将来を約束される賞を、いただくことができたのだった。
((……よかった。これでやっと、前に進める))
俗に言う、青田買い。上位入賞を果たした画家の――巨匠になるかもしれない人間の初期作品を欲しがる人は多くいて、それは非常に高値がつく。
……どの作品も大切な宝物なのだけれど、我を通すには代償がつきもの……。
僕はこれまで描いた作品を売れるだけ売り、大金を――ランファーズ家からエミリーさんを『買える』だけの額を用意した。
その状態で――
「……なるほどな、これだけあれば喜んで差し出すだろうな。ただ――」
「それでも、デメリットは残っていると承知しております。ですので、そうであっても『エミリー・ランファーズをウチに迎え入れるべき』であるということを――そのデメリットを打ち消し、更には大きなメリットとなるものが存在しているということを、これから説明致します」
「打ち消し、メリットになる……? なにがあるというのだ……?」
「将来この家に、リュミエールの金賞受賞者がもう一人増える――恐らくは、それ以上の賞を受賞する大物が誕生する。ということですよ」
僕は初めてエミリーさんの絵を見た時、衝撃を受けた。絵に、色に、感情を乗せられるということを初めて知って、尊敬であり憧憬を抱くようになった。
でも……そんな彼女は家族に活動を快く思われていないせいで、あまり――僕の半分も絵の勉強をできておらず、『技術』の面で遥かに劣ってしまっていた。
そしてその『技術』は才能センスと異なり、時間をかければ誰だって身につくもの。つまりまともな環境さえあればエミリーさんは、もっともっと羽ばたけるのだ。
「僕には彼女を護りたいという想いも、次期当主として『家』や領地領民を護らなければならないという思いもあります。最悪どちらも傷付けてしまうような嘘はつきませんよ」
「…………確かに、そうだな」
「あちらが、エミリーさんを喜んで手放す方法を――自分で考えていて反吐が出てしまうような、下卑た言い分を考えております。それによってランファーズ家が関わるあらゆる問題も発生しなくなります。……ですので父上、お願いします。この計画を実行させてください」
そうして父上――その後親族を説得し、僕は急いで準備を整えてお屋敷を発ち――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――その道中で偶然エミリーさんを見つけ、声をかけたのだった。
51
お気に入りに追加
1,162
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。
音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。
幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。
やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。
すっかり諦めた彼女は見合いをすることに……
だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。
二人の心は交わることがあるのか。
今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?
ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢
その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた
はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、
王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。
そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。
※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼
※ 8/ 9 HOTランキング 1位 ありがとう御座います‼
※過去最高 154,000ポイント ありがとう御座います‼
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。
銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」
私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。
「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」
とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。
なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。
え?どのくらいあるかって?
──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。
とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。
しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。
将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。
どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。
私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?
あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
需要が有れば続きます。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
婚約破棄ですか?あなたは誰に向かって口をきいているのですか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、マリアンヌ・バークレーは王宮の誕生日パーティーでいきなり婚約破棄を言い渡された。は!?婚約破棄ですか?あなたは誰ですの?誰にモノを言っているのですか?頭大丈夫ですか?
10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
今から10年前――わたしが12歳の頃、子爵令嬢のルナだった頃のことです。わたしは双子の姉イヴェットが犯した罪を背負わされ、ルナの名を捨てて隣国にある農園で第二の人生を送ることになりました。
わたしを迎え入れてくれた農園の人達は、優しく温かい人ばかり。わたしは新しい家族や大切な人に囲まれて10年間を楽しく過ごし、現在は副園長として充実した毎日を送っていました。
ですが――。そんなわたしの前に突然、かつて父、母、双子の姉だった人が現れたのです。
「「「お願い致します! どうか、こちらで働かせてください!」」」
元家族たちはわたしに気付いておらず、やけに必死になって『住み込みで働かせて欲しい』と言っています。
貴族だった人達が護衛もつけずに、隣の国でこんなことをしているだなんて。
なにがあったのでしょうか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる