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第4話 理由と理由 ガブリエル・セイラルファル視点(3)
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それはルシー様が、敷地内にある花壇で水やりをされている時だった。守護騎士故にお傍で待機をしていた僕は、不意に違和感を覚えた。
((……なんだ、この感覚は……。何かが、近づいてきている……?))
例えるならば、トウガラシに触れてしまったようなヒリヒリとした感覚。これまで経験したことのない感覚を、突如全身に感じるようになった。
((これは……悪意、敵意? いや……。それならもっと鮮明に感じるし、そもそも周囲には誰もいない))
僕は半径15メートル内にある悪意や敵意を、無条件で感じ取れる。しかしながらその範囲内に僕ら以外の人間はおらず、その可能性はすぐに消えた。
((じゃあ、一体何なんだ……? この違和感は何がもたらしている――っっ、余計なことを考えている場合ではないな!))
そのヒリヒリとした感覚は次第に強くなっていて、『何か』が近づいてきているのだと分かった。恐らく速やかにこの場から逃げようとしても、もう間に合わない距離にいると分かった。
なので原因の追究はやめ、『何か』への対処に集中することにした。
((この感覚を放っている原因は、どこにいる……? どの方向から、近づいてきているんだ……?))
感覚の発生源がまるで掴めないため、全神経を集中させる。
目を閉じ耳を塞ぎ、五感の二つを絶って集中力を上げる。そうやってセンサーの感度を限界まで上昇させた状態で相手を探し――
((!!)
――うっすらとだが、『何か』は花壇の上にいると感じ取れた。
ルシー様の真ん前にいるのだと、分かった。
「危ない!!」
そう理解した瞬間喉と身体が同時に動き、俺は身体を前へと伸ばしながら白のローブを――ルシー様のお召し物を、思い切り引っ張った。
「きゃっ!?」
「事情はあとで説明します。僕がいる限り、貴方様の心身が傷つくことはありません。ご安心を」
守護騎士が取り乱してしまえば、ルシー様は猛烈な不安及び恐怖を抱かれてしまう。こんな時だからこそ平静を装い、抱きかかえて飛び退りながら次の動きを考える。
((感覚から推測するに、『何か』はルシー様に触れようとしていたように思える。つまり、触れなければ目的を果たせないということか))
ならば、とりあえず逃げて時間を稼ごう。こうして距離を取った今なら…………それは可能だ。
瞬時に計算をして頭の中にGOサインが出るや、僕は身を翻して――
((なっ!? 離れていく……!?))
地面を蹴ろうとしていたら、『何か』が離れてゆく感覚がやって来た。
それは希望的観測なのではなく、紛れもない事実。ずっと感じていたヒリヒリ感が薄くなり始め、やがては完全に消えてしまったのだ。
((これは……。僕を油断させるための小細工か……?))
何かしらの形で自身を感知できる者がいたと気付き、今度は頭を使って攻めようとしている? そう考えたが、そうではなかった。声を聞きつけてやって来た神殿の人々を声で制し、その場で10分ほど警戒態勢を維持しても――変化はなし。どうやら間違いなく、『何か』はこの場を去ったようだった。
((一旦退いた、のか……。それとも、完全なる撤退、諦めたのか……。いずれにせよ今のうちに相手の狙いを推測し、対策を講じ――ん? これは……))
そこで即座に思案を始めようとしていた僕は、とあることに気付くのだった。
((……なんだ、この感覚は……。何かが、近づいてきている……?))
例えるならば、トウガラシに触れてしまったようなヒリヒリとした感覚。これまで経験したことのない感覚を、突如全身に感じるようになった。
((これは……悪意、敵意? いや……。それならもっと鮮明に感じるし、そもそも周囲には誰もいない))
僕は半径15メートル内にある悪意や敵意を、無条件で感じ取れる。しかしながらその範囲内に僕ら以外の人間はおらず、その可能性はすぐに消えた。
((じゃあ、一体何なんだ……? この違和感は何がもたらしている――っっ、余計なことを考えている場合ではないな!))
そのヒリヒリとした感覚は次第に強くなっていて、『何か』が近づいてきているのだと分かった。恐らく速やかにこの場から逃げようとしても、もう間に合わない距離にいると分かった。
なので原因の追究はやめ、『何か』への対処に集中することにした。
((この感覚を放っている原因は、どこにいる……? どの方向から、近づいてきているんだ……?))
感覚の発生源がまるで掴めないため、全神経を集中させる。
目を閉じ耳を塞ぎ、五感の二つを絶って集中力を上げる。そうやってセンサーの感度を限界まで上昇させた状態で相手を探し――
((!!)
――うっすらとだが、『何か』は花壇の上にいると感じ取れた。
ルシー様の真ん前にいるのだと、分かった。
「危ない!!」
そう理解した瞬間喉と身体が同時に動き、俺は身体を前へと伸ばしながら白のローブを――ルシー様のお召し物を、思い切り引っ張った。
「きゃっ!?」
「事情はあとで説明します。僕がいる限り、貴方様の心身が傷つくことはありません。ご安心を」
守護騎士が取り乱してしまえば、ルシー様は猛烈な不安及び恐怖を抱かれてしまう。こんな時だからこそ平静を装い、抱きかかえて飛び退りながら次の動きを考える。
((感覚から推測するに、『何か』はルシー様に触れようとしていたように思える。つまり、触れなければ目的を果たせないということか))
ならば、とりあえず逃げて時間を稼ごう。こうして距離を取った今なら…………それは可能だ。
瞬時に計算をして頭の中にGOサインが出るや、僕は身を翻して――
((なっ!? 離れていく……!?))
地面を蹴ろうとしていたら、『何か』が離れてゆく感覚がやって来た。
それは希望的観測なのではなく、紛れもない事実。ずっと感じていたヒリヒリ感が薄くなり始め、やがては完全に消えてしまったのだ。
((これは……。僕を油断させるための小細工か……?))
何かしらの形で自身を感知できる者がいたと気付き、今度は頭を使って攻めようとしている? そう考えたが、そうではなかった。声を聞きつけてやって来た神殿の人々を声で制し、その場で10分ほど警戒態勢を維持しても――変化はなし。どうやら間違いなく、『何か』はこの場を去ったようだった。
((一旦退いた、のか……。それとも、完全なる撤退、諦めたのか……。いずれにせよ今のうちに相手の狙いを推測し、対策を講じ――ん? これは……))
そこで即座に思案を始めようとしていた僕は、とあることに気付くのだった。
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