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第28話 裏側 エミリアン視点
しおりを挟む『エミリアン、お前はアニエス君を好いているのだな? ずっと一緒にいたい、そう思っているのだな?』
『ならば、もっと強くなれ。賢くなれ。どんな状況が訪れても我を通せるようにな』
俺はシルスアルズ子爵家の嫡男、次期当主でシルスアルズ家を背負っていかなければならない存在。貴族の子として生まれたからには、『家』の発展を優先する必要があった。
我を通せるだけのものを得ないと、結婚はできなかった。
そして――。
イアサントおじさん。彼は自身の利益を第一とする人間で、彼を唸らせるほどの『メリット』が俺にないと婚約できなかった。
だから――。
俺はそのすべてを達成できるように、考えた。
眠る時以外。屋敷にいる時も外に居る時も、答えが見つかるまで四六時中ひたすらに考えた。
そうして出た答えが、
――コネクションを作る――。
いくら俺が努力をしても、子爵家の人間ができることなんて限られてくる。そこで、困った時に強い人の力を借りられる状態を作ることにした。
――でも誰だって、力を貸すメリットがない者には貸してくれはしない――。
相手を唸らせる『何か』が必要で、真っ先に浮かんだのが『リンダスの実』だった。
空気に触れると高い粘着性を持つようになる液体を含んだ、ウチの山でしか採れない実。これを上手く使えば、面白いものを作れると思った。
「……中位、高位貴族が常に必要としているのは、護身の術。この粘着性を利用して敵の身動きを制限できたら、良い護身アイテムになるぞ」
以前から知恵の輪などを自作するなど、俺は手先はかなり器用だった。そこで『護身用』――隠し持てるサイズの道具を考え始め、やがてペンや装身具への液体の搭載を思い付く。
「普段はその中に隠しておいて、非常時に発射する。良いアイディア…………だけど、そうするとなると粘着力が足りないな……」
そこで粘着性を高める方法を模索し始め、5年かけてその方法を――リンダスの実から採れる液体とハチミツを混ぜ合わせたら、粘着力が高まるのだと気が付いた。
なのですぐに制作を始め、上手く搭載できずに何度も何度も失敗を繰り返し、やがて1つ目の護身アイテムが完成したのだった。
「……次は、これのセールスだな」
この段階も、大変だった。
格上に接触しようとしても門前払いを受けてしまい、会えない。そこで子爵家の中でも上位の『家』に接触し、そこから後ろ盾へと繋いでもらい、ゆっくりと『上』を目指していっていたのだった。
『ローレラル卿、このお願いが非常に愚かな我が儘だと理解しております。ですがそれでも、今回ばかりは我を通させていただきたいと考えております。どうか御力をお貸しください』
『もちろんでございます! そのご希望、喜んで叶えさせていただきます!!』
歩みの遅さのせいで、クリストフの横やりには間に合わなかった……。
けれどその時までに積み上げてきたものは無駄にはならず、ジャナヴァエス卿やヴァルソリク卿とギブ&テイクの関係を結ぶことができた。
そうして俺は、アイテムで得たコネクションを使い――
クリストフ。
イアサントおじさん。
――1度は敗れた2人を倒し、今度こそアニエスを護ったのだった。
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