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第7話 転げ落ちる、4人(1)
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「皆様、お集まりいただき感謝します。今日は皆さまに、大事なお話があるのです」
あの日から二日後。ファーフ城には予定通り隣国の王族や国内外の有力貴族が集まり、会場の前方にあるステージでフェリクス様が一礼しました。
これから行われるのは勿論、婚約の発表。あたしはこの式を見せつけられるために『ラナラ家のお付き』扱いで正体を隠して参加させられていて、その様子を会場の最後方で眺めています。
『傷心だった殿下の顔色が、すっかりお戻りになっているな。どうも、よいニュースがあるようだ』
『そうですね。殿下は、どんな素敵なことをお聞かせくださるのでしょうか?』
「………………皆様。自分フェリクス・ファーフは本日、こちらの彼女。ララ・ラナラと婚約致します!」
フェリクス様に促され、右脇からララが歩いてきました。
今日の彼女は、白いドレス姿。最高級の衣装を特別にあつらえてもらい、外用の所謂おすまし顔でペコリと頭を下げました。
『ら、ララ・ラナラさんっ!? それって、前婚約者の妹さんよね……!?』
『ラナラ家とは、縁を切っていると思ってたのに……。何が起きていたの……!?』
「彼女は、先日起きた不幸で悔やんでいた――己の目が節穴だったと悔やんでいた自分を慰め、励ましてくれました。その時自分にかけてくれた台詞と微笑みに、心を奪われてしまい――。交際を重ねるうちに気持ちが強く確かなものとなり、この結論に至りました」
「私は最初、姉によって受けた傷が少しでも和らげば、との思いでお声をかけさせていただきました。そうしたらこんな私に興味を持ってくださって……。お話ししているうちに、私も段々と意識をするようになり……。やがて一番の人となっていて、プロポーズをお受けしました」
フェリクス様とララはありもしないことを平然と語り、会場からは大きな拍手が起こります。
二人の演技力は、かなりのものですからね。何も知らない方々は、簡単に信じてしまいました。
『『『よかったっ。本当によかった!』』』
『『『ファーフ様っ! 今度こそお幸せにっ!』』』
「ありがとう、ございます。ララは本当に優しく思いやりのある女性ですので、前回のようにはなりませんよ」
フェリクス様は爽やかに微笑み、二人は揃って礼をしてから向かい合います。
この発表会の目的は、婚約の公表と来訪者の皆様に証人になってもらう事。そのためこれから、お客さんの前で口づけを交わすのです。
『『『『『ファーフ様っ! おめでとうございますっ!』』』』』
『『『『『ララ・ラナラさんっ。おめとうございますっっ!』』』』』
「…………ララ。それじゃあ」
「はい……。フェリクス様」
大勢が祝福する中。二人の唇が、ゆっくりと近づいてゆき――。ララの動きが、ピタリと止まります。
「…………? ララ……?」
『『『『『ラナラさん……? 急に、どうしたかしら……?』』』』』
「…………………………。やっぱり……。このままじゃ、いけませんよね……」
ララの顔から喜びの色が消え、綺麗な衣装の胸元をキュッと握り締めます。
「…………こんな事をして幸せになるのは、間違ってる……。ダメ……」
「ら、ララ? 何を言って……?」
「パパ、ママ。一緒に打ち明けよっ」
そうしてララはステージ脇で控えていたセドリックさんとラーティアさんのもとに走り、驚く表情を見せていた二人もやがては納得。三人でゆっくりとステージ中央に戻ってきて、一斉に来訪者の方向に向き直りました。
はい。いよいよ、その時が来ました。
フェリクス様。これから、面白いことが起きますよ。
あの日から二日後。ファーフ城には予定通り隣国の王族や国内外の有力貴族が集まり、会場の前方にあるステージでフェリクス様が一礼しました。
これから行われるのは勿論、婚約の発表。あたしはこの式を見せつけられるために『ラナラ家のお付き』扱いで正体を隠して参加させられていて、その様子を会場の最後方で眺めています。
『傷心だった殿下の顔色が、すっかりお戻りになっているな。どうも、よいニュースがあるようだ』
『そうですね。殿下は、どんな素敵なことをお聞かせくださるのでしょうか?』
「………………皆様。自分フェリクス・ファーフは本日、こちらの彼女。ララ・ラナラと婚約致します!」
フェリクス様に促され、右脇からララが歩いてきました。
今日の彼女は、白いドレス姿。最高級の衣装を特別にあつらえてもらい、外用の所謂おすまし顔でペコリと頭を下げました。
『ら、ララ・ラナラさんっ!? それって、前婚約者の妹さんよね……!?』
『ラナラ家とは、縁を切っていると思ってたのに……。何が起きていたの……!?』
「彼女は、先日起きた不幸で悔やんでいた――己の目が節穴だったと悔やんでいた自分を慰め、励ましてくれました。その時自分にかけてくれた台詞と微笑みに、心を奪われてしまい――。交際を重ねるうちに気持ちが強く確かなものとなり、この結論に至りました」
「私は最初、姉によって受けた傷が少しでも和らげば、との思いでお声をかけさせていただきました。そうしたらこんな私に興味を持ってくださって……。お話ししているうちに、私も段々と意識をするようになり……。やがて一番の人となっていて、プロポーズをお受けしました」
フェリクス様とララはありもしないことを平然と語り、会場からは大きな拍手が起こります。
二人の演技力は、かなりのものですからね。何も知らない方々は、簡単に信じてしまいました。
『『『よかったっ。本当によかった!』』』
『『『ファーフ様っ! 今度こそお幸せにっ!』』』
「ありがとう、ございます。ララは本当に優しく思いやりのある女性ですので、前回のようにはなりませんよ」
フェリクス様は爽やかに微笑み、二人は揃って礼をしてから向かい合います。
この発表会の目的は、婚約の公表と来訪者の皆様に証人になってもらう事。そのためこれから、お客さんの前で口づけを交わすのです。
『『『『『ファーフ様っ! おめでとうございますっ!』』』』』
『『『『『ララ・ラナラさんっ。おめとうございますっっ!』』』』』
「…………ララ。それじゃあ」
「はい……。フェリクス様」
大勢が祝福する中。二人の唇が、ゆっくりと近づいてゆき――。ララの動きが、ピタリと止まります。
「…………? ララ……?」
『『『『『ラナラさん……? 急に、どうしたかしら……?』』』』』
「…………………………。やっぱり……。このままじゃ、いけませんよね……」
ララの顔から喜びの色が消え、綺麗な衣装の胸元をキュッと握り締めます。
「…………こんな事をして幸せになるのは、間違ってる……。ダメ……」
「ら、ララ? 何を言って……?」
「パパ、ママ。一緒に打ち明けよっ」
そうしてララはステージ脇で控えていたセドリックさんとラーティアさんのもとに走り、驚く表情を見せていた二人もやがては納得。三人でゆっくりとステージ中央に戻ってきて、一斉に来訪者の方向に向き直りました。
はい。いよいよ、その時が来ました。
フェリクス様。これから、面白いことが起きますよ。
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