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第16話 ありがとうな 俯瞰視点(2)

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「……お前は知ってたんだよな。レティシアが、俺を想ってくれているって」

 口の右端から、赤い液体を――血を垂らしながら。オディロンは改めて、正面に居る元親友を見つめます。

「…………結果論だけどよ。俺がこの気持ちに早く気付いて告白していれば、お前と交際婚約をする未来はなかったんだ。自分勝手な騒動に巻き込まれて、自分を責めて何か月間も苦しむことはなかったんだ」

 婚約解消を円滑に進めるために、セルジュはそうなるよう仕組んでいました。そのためレティシアは罪悪感などを幾度も覚え、オディロンは傍でずっと目にしていたのです。

「あのままだったら、俺はそんな原因を作った大馬鹿野郎だって気付けないまま終わっていた。だから改めて、感謝するぞ。ありがとうよ」
「……………………」

 そんな言葉を告げられたセルジュは、全身を震わせ立ち尽くしていました。
 それはオディロンの行動と迫力に圧されたから。であり、もう一つ理由がありました。

「そ、そんな……。お前がレティシアを愛していただなんて……っ。そ、それを知られたら大変なことになってしまう……!!」

 協力者である、ファスティーラ侯爵家のクロエ。彼女が協力していたのは、オディロンへの恋の援護射撃をするためでした。


「まさか、レティシアと別れるだなんて……。彼女とオディロンの関係は、とても親密。記憶喪失と解消がおかしな方向に作用して、2人が恋人になるなんてことにはならないでしょうね……?」
「一度しっかりと可能性を断っていて、もうあの女はオディロンを想わない。オディロンにとってあの女は、『妹』。何があっても恋仲にはなりませんよ。親友、婚約者として身近で見てきた男を信用ください」
「…………そうね、分かったわ。それじゃあ引き続き、支援をしてあげる。その代わり貴方も、引き続き手を貸しなさい」


 そして2人の間ではこんなやり取りがあり、クロエは非常に腹黒い令嬢です。
 協力者だとオディロンに理解された件は、部下の不手際で転嫁できると考えていました。ですが、その件は転嫁できる者が居ません。
 もしも、何年間も意味のないことをしていたと悟られたら――

 その怒りを全て、ぶつけられる。
 命が危ない。

 そんなことが脳内を駆け巡っていたため、体中から血の気が引いていたのでした。

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