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プロローグ 俯瞰(ふかん)視点

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「ついに、用意ができましたわ……っ。ふふふ、ふふふふふっ。これで、お姉様をどん底に落とせますわ……!」

 とある日の夕方。落ち着いた雰囲気を醸す邸宅内の一室で、一人の少女が不気味な笑みを浮かべていました。
 彼女の名前は、マリィ・ミラ18歳。双子の姉・ジュリエットとそっくりな容姿を持ち、しかしながら姉とは正反対の――自己中心的で逆恨みをしてしまう、この上なく醜い心を持つ伯爵家の次女です。

「わたくしとそっくりなのに、わたくしの何倍もチヤホヤされて……! あげく、侯爵家の嫡男と婚約した……っ。あの狡賢い女に、やっと仕返しができますわ……っ」

 ジュリエットはマリィと異なり、白い百合のような清純な少女。そのため周囲の評価も高く、マリィも家内外で本性を隠し『擬態』をしていましたが――。天然ものには勝てず、評価評判には大きな差がついてしました。
 そのため学舎の同級生であるテオ・スロスもジュリエットに好意を持ち、9か月前のパーティーで――マリィの前で婚約を申し込まれ、婚約者となっていたのです。

 ――勿論、『狡賢い女』はマリィの逆恨み――。

 全ての面でわたくしに劣る姉が自分より高い評価を経て、あまつさえ先にパートナーが見つかるなんて有り得ない。絶対に、わたくしが見えないところで何かをやっているんですわ!
 マリィはそう結論付け、理不尽に恨んでいるのです。

「お姉様は今日もテオ様の家に行っていて、今頃2人で楽しく1か月後にある結婚式の準備をしている。でもね、ソレは無意味なものになりますわよ。……なぜならその婚約は、もうじき破棄されてしまうのですから」

 世の中が罰を与えないのなら、自分が正義の鉄槌を下す――。そんな相変わらず身勝手な理由で、マリィは婚約を白紙にする出来事を捏造。今彼女の手元にはそれを証明するための材料が、1つ――ではなく、3つ。確実に仕留められるよう、念のために複数個用意されていたのです。

「コレを使って駒を操れば・・・・・、周囲とテオ様の評判はぐるっと逆転。婚約破棄&白眼視が確定して、二度と人前に出られなくなりますわよぉ……っ」

 決行の時は、夜会がある明々後日。その日が婚約者と過ごす最後の日となり、逆にマリィにとってはこれまでの人生で最高の日となります。

「ふふふふふ。ふふふふふふっ。お姉様、3日後が楽しみですわねぇ。明後日はお互い、夜会を楽しみましょうねぇ……っ」

 マリィは自室の中央で改めて邪悪な笑みを浮かべ、今一度捏造した証拠を確認。問題なしと確認すると上機嫌でカレンダーに近づき、2月27日の部分に『ジュリエット最期の日』と赤字で記したのでした。





 2月24日の、午後5時7分。この時の彼女は、まだ知りません。
 ジュリエットの婚約者テオには、そんなものは効かないことを。捏造した証拠は全部無駄となり、多くの時間をかけて用意をした作戦は全て失敗してしまうことを――。

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