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第2話 幸せな日々は、その日一変する 俯瞰視点(1)

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「くくくく……! 今日は最高の日だ……! こんなに幸せな日はない……!!」

 知らず知らずシルヴィたちに目をつけて懇願をする、その2日前のことでした。ジャゾンは豪奢な馬車――ラクライス侯爵家所有の馬車の中で、満面の笑みを浮かべていました。

 ――雲一つない青空とラベンダー畑が描かれた絵――。

 以前から――伯爵令息時代から探し続けていた有名画家による名画がついに手に入り、これまでにない喜びで溢れていたのです。

「まさか、こんなルートがあっただなんて。シビーユ様には感謝しかない」

 数時間前に状態を実際に確認しに行き、その場で購入を決めた絵。購入どころか状態を確認をすることさえ、ラクライス家のコネクションがなければ叶いませんでした。
 そのためジャゾンは、馬車の進行方向――シビーユが居るお屋敷に向かって車内で片膝を付き、最大級の謝意を示しました。

((はははっ、くはははははっ。シビーユ様のおかげで俺の人生は薔薇色だ!))

 ヒステリックな一面が週一で覗かせることはあるものの、それ以外は問題ない。そこさえ目を瞑ればよいことだらけで、

 ありがとうございます!
 あの時俺を選んでくれてありがとうございます!
 これからも一緒ついていきます!

 伯爵家にいたら到底手に入らなかった『1ランク上の幸せ』の数々を振り返り、心の中で今一度大きく感謝し、実際に大きな拍手を繰り返しました。

((あの日お声をかけてくださらなければ、子爵令嬢如きと結婚するところだった。これ以上ないタイミングでした……! ありがとうございます、シビーユ様……!!))

 良いことがあったあとは必ず口にする感謝の言葉を思い浮かべ、「! いけない、喜びすぎて忘れてしまうところだった! 屋敷じゃなくて『ラヴィアート』に向かってくれっ!」、と急いで指示を出します。
 これも、良いことがあったあとに必ず行うもの。シビーユが愛している薔薇の花束を購入し、片膝を付きながらプレゼントするのが定番となっているのです。

「まったく。いつも行っている行動なのだから、忘れていたら教えろよな」

 抜け落ちた自分は悪くなく、悪いのはずっと黙っていた周り。ジャゾンはジャゾンらしい理由で周囲を理不尽に叱責し、贔屓にしている花屋『ラヴィアート』でいつものもの――ではなく、前回前々回とシビーユの反応が薄かったため、これまでの倍の本数を購入。大きな花束を携え嬉々としながらお屋敷に戻り――まもなく、その顔から一瞬にして笑顔が消え去ることとなってしまうのでした。


((……え? 俺を、殺す…………?))


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