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プロローグ(1)

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 4月10日、午前9時過ぎ。俺と育美は都内某所にある、『国立霊能師(れいのうし)育成高等学校』のプレートがある校門の前にいた。

「優君(ゆうくん)、来たね。にゅっ、にゅにゅ入学式の日がいらっしゃったねっ!」

 桜の花弁が優雅に宙を舞う、心地の良い春の日。横にいる大和撫子然とした美少女はそんな日にもかかわらず、全身から汗を大量に出していた。

「入学式なんてジブン、中学校の時以来だもん。緊張しちゃうよ……っ」

 彼女はハープアップというアレンジを施した長い黒髪をしきりに弄り、幾度もセーラー服のリボンを締め直す。
 この子は昔っから、学校行事に妙に弱い。おまけにこれから『一仕事』あるので、余計にドギマギしているようだ。

「入学式なんてジブン、中学校の時以来だもん。緊張しちゃうよ……っ」
「こっちだって中学以来だし、その台詞は二度目です。手を握っててあげるから頑張りましょうね?」
「う、うん。ジブン、頑張るよーっ」

 俺に手を握られると安心する育美は、コクンと頷き可愛らしく気合を注入。我が右手をキュッと握り締め、二人で校門付近にある『迷霊科(めいれいか)』の受け付けへと歩を進めた。

「どうも。おはようございます」
「おはようございますだよ、です」
「入学希望の方々ですね。どうもおはようございます」

 特設されたテントの中にいる女性が、椅子から立ち上って会釈をしてくれる。
 この人は確か、一月にあった学校説明会にいた。その時に紹介された情報によると、今年の1年生を担当する公奈紗代(こうなさよ)さんだったはずだ。

「それでは。書類一式の提示をお願いします」
「はい」「はいだよ、ですっ」

 ココは、霊能を持つ者なら誰でも入れる学校。そのため入学審査はなく、必要なのは身分を証明するものだけとなっている。

「花島優陽(かとうゆうひ)君と、土水(つちみず)育美さんですか。……土水さんの連絡先は花島君のお家になっていますが、これで間違いはないのですね?」
「ええ、それで正解です。この子の両親は世界中を飛び回る探検家なので、現在はウチで暮らしてるんですよ」

 父さんが彼女の親と旧友で、これまで育美を育てていた祖母さんが亡くなられた小4の春――あの霊の子と出会う少し前に市外から引っ越してきて、一緒に住むようになった。その際の『我々はこれから今迄以上に家を空ける。だからこの子の面倒をみてね!』と言い出し荷物を勝手に置いてった一件は、酷い出来事として海馬に深く刻まれている。

「これは、失礼致しました。では書類を確認致しましたので、これより『お二人の確認』を行いますね」

 細いフレームの眼鏡をかけた知的な女性は、こちらにビデオカメラを向ける。
 これは、そうだな。いよいよ件の一仕事が始まる。
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