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第8話 部屋を訪れた理由 俯瞰視点(6)
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「セレスティン様? とある場所に、向かうのではないのですか?」
「ああ、そのつもりだった。だがソレは、すぐに行わない方がいいらしい」
出してすぐ、転移用魔法陣を消し去ったセレスティン。彼は頷いた後、ラシェルの顔を――額を一瞥しました。
「? 私の額に、何かついているのですか? なにもないと――おや、これは……。汗?」
彼が視線を注いでいた場所には、いつの間にか玉の汗が浮かび上がっていました。しかもソレは時間の経過によって増えてゆき、あっという間に顔が汗びっしょりとなってしまいました。
「室内の気温は温かくも寒くもなく、大量の汗をかく状況ではありませんね。私には持病もないはずなのですが、どうなっているのでしょう?」
「先ほど発生した、急激な眠気と似たようなもの。記憶の復活は人にとって、想像以上に負荷がかかる出来事だったようだ」
精霊界を出発する前に口にしていたのように、これは前例のない行動。そのためそういった負荷を多めに設定し、それに合わせて予定を組んでいましたが、それよりも更に多かった。この程度なら無茶ができなくもないが、ラシェルの心身の安全が最優先です。
それによりセレスティンは、迷わず延期を決めました。
「その状態ならば、1日も空ければ問題ないだろう。今は……」
「午後4時8分、ですね。あちらにある掛け時計が、そう示しています」
「では明日のこの時間に、最後の目的地へと向かう。作戦の都合上その時まで移動先を教えられないことを、許してもらいたい」
そうしてすぐに新たなスケジュールが決まり、セレスティンは再び転移用魔法陣を創造します。ただしこの魔法陣で向かうのは、異なる別の場所――ターザッカル家の領地内、その北部にある『リッカレンズの湖』という場所でした。
「今日は貴女が好きな場所の一つで、景色を楽しみながらゆっくり過ごそう。食べ物や就寝場所は、俺が用意するから安心してもらって構わない」
「セレスティン様。何から何まで痛み入ります」
「なに、それは俺の――俺達の希望。俺とゴーチェがやりたいと思っているからやっているだけのこと。礼には及ばない」
自身の胸元に触れ、斜め後方――精霊界にある『王の座』が存在する方角を見やって小さく口元を緩め、2人の姿は魔法陣の発光を合図にその場から消え去ったのでした。
そして、それから6時間後のこと。2人がラシェルゆかりの場所で掛け替えのないひと時を過ごし、ラシェルが眠りについたあとのことでした。
とある場所では、とある変化が起きていて――
「ああ、そのつもりだった。だがソレは、すぐに行わない方がいいらしい」
出してすぐ、転移用魔法陣を消し去ったセレスティン。彼は頷いた後、ラシェルの顔を――額を一瞥しました。
「? 私の額に、何かついているのですか? なにもないと――おや、これは……。汗?」
彼が視線を注いでいた場所には、いつの間にか玉の汗が浮かび上がっていました。しかもソレは時間の経過によって増えてゆき、あっという間に顔が汗びっしょりとなってしまいました。
「室内の気温は温かくも寒くもなく、大量の汗をかく状況ではありませんね。私には持病もないはずなのですが、どうなっているのでしょう?」
「先ほど発生した、急激な眠気と似たようなもの。記憶の復活は人にとって、想像以上に負荷がかかる出来事だったようだ」
精霊界を出発する前に口にしていたのように、これは前例のない行動。そのためそういった負荷を多めに設定し、それに合わせて予定を組んでいましたが、それよりも更に多かった。この程度なら無茶ができなくもないが、ラシェルの心身の安全が最優先です。
それによりセレスティンは、迷わず延期を決めました。
「その状態ならば、1日も空ければ問題ないだろう。今は……」
「午後4時8分、ですね。あちらにある掛け時計が、そう示しています」
「では明日のこの時間に、最後の目的地へと向かう。作戦の都合上その時まで移動先を教えられないことを、許してもらいたい」
そうしてすぐに新たなスケジュールが決まり、セレスティンは再び転移用魔法陣を創造します。ただしこの魔法陣で向かうのは、異なる別の場所――ターザッカル家の領地内、その北部にある『リッカレンズの湖』という場所でした。
「今日は貴女が好きな場所の一つで、景色を楽しみながらゆっくり過ごそう。食べ物や就寝場所は、俺が用意するから安心してもらって構わない」
「セレスティン様。何から何まで痛み入ります」
「なに、それは俺の――俺達の希望。俺とゴーチェがやりたいと思っているからやっているだけのこと。礼には及ばない」
自身の胸元に触れ、斜め後方――精霊界にある『王の座』が存在する方角を見やって小さく口元を緩め、2人の姿は魔法陣の発光を合図にその場から消え去ったのでした。
そして、それから6時間後のこと。2人がラシェルゆかりの場所で掛け替えのないひと時を過ごし、ラシェルが眠りについたあとのことでした。
とある場所では、とある変化が起きていて――
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