上 下
36 / 43

第18話 終焉の時~1人目~ ベアトリス視点

しおりを挟む
「いっ、いたぃぃ……!! ぎああああああっ! 死ぬぅぅぅうう……!! 死んでしまうぅぅぅぅ……!!」

 ユベールの狙撃によって、盛大に転んだアンドレ様。彼は門の付近でのた打ち回り、子どものように泣き叫んでいた。

「血が、とまらないぃぃ……!! 太ももがぁ……!! 焼ける、ようにっ!! 刺さる、ようにっ!! いたいんだぁぁ……!! たっ、助けてくれぇぇぇぇ……!!」

 ユベールによると命に別状は全くなく、実際同じような傷を負った臣下達は、すでに自力で護送用の馬車に乗り込んだ。なのにアンドレ様はこの世の終わりであるかのように叫び回り、涙を流し続けている。

「この手の輩は、『自分は打たれ弱い』と相場が決まっている。思った通りの性質を持っていたな」
「うん、そうだね。……私はずっと、こんな人に怯えていたんだね」

 目の前にいる彼に、あの頃の面影はない。
 ユベールのおかげで小さくなっていた存在が、更に小さくなった。すっかり、心の中からなくなった。私にとってアンドレ・・・・は、泣き虫な子どもだ。

「死にたくなぃぃぃぃぃ……!! 痛い……!! 怖い……!! いやだぁぁぁ……!! いやだぁぁぁぁぁああああああ……!!」

「……ね、ユベール。もしかしてこれも、作戦の一つ? 私のために、やってくれたのかな?」
「いいや、予想外の出来事だ。だがそのおかげで直接『礼』ができたし、なにより、『アンドレ』となったんだ。多少は、この行動に感謝しないといけないな」

 やっぱり、そうだった。
 言われるまで全然気づいていなかったけど、私は無意識でアンドレ『様』と呼んでいた。それは心の奥底に、恐怖意識がある証で……。
 ユベール、ありがとうございます。

「このままで失血死してしまうぅぅぅぅぅ……!! 太ももが腐ってしまう!! 千切れそうだ!! 早くっ!! 早くぅぅうう!! たすけてぇぇ!! 助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!」

「この者の治療は、行う必要はありません。そのままの状態で、連行をお願い致します」
「「「「「はっ。承知いたしました」」」」」」

 治安機関の方々が敬礼で応じ、まるでゴミを扱うかのように――。アンドレは乱暴に抱え上がられ、護送用の馬車に放り込まれてしまった。

「だからぁぁっ!! 早くしないと死ぬぅぅ……!! おねがいだぁぁぁ……!! ちりょっ、治療をぉぉぉぉ……!! 手当をしてくれぇぇぇ……!! 血が出ているんだぁぁ……!! いたいんだぁぁぁあぁあああああああああああああ……!!」

 彼は鉄格子に顔をめり込ませながら訴えるも、それに応じる人は誰もいない。

「たのむぅ……!! おっ、お願いしますっっ……!! いたいからあああ……!! だずげでぇぇぇぇぇぇ……!!」

 ナルテウス侯爵家の当主・アンドレ。つい先日まで様々な悪事を働いていた、暴君。
 そんな彼は今や幼児と化し、引き続き無様に泣き叫びながら連行されていったのでした――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫
恋愛
クリスティーナはある日、自由を許されていない女性であることに嫌気が差し、兄の服を借りて、家を飛び出す。そこで出会った男の子と仲良くなるが、実は男の子の正体はこの国の王太子だった。王太子もまた決められた将来の道に、反発していた。彼と意気投合したクリスティーナは女性であることを隠し、王太子の従者になる決意をする。 すれ違い、両片思い、じれじれが好きな方は、ぜひ読んでみてください! 最後は甘々になる予定です。 10歳から始まりますが、最終的には18歳まで描きます。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...