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第18話 終焉の時~1人目~ ベアトリス視点
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「いっ、いたぃぃ……!! ぎああああああっ! 死ぬぅぅぅうう……!! 死んでしまうぅぅぅぅ……!!」
ユベールの狙撃によって、盛大に転んだアンドレ様。彼は門の付近でのた打ち回り、子どものように泣き叫んでいた。
「血が、とまらないぃぃ……!! 太ももがぁ……!! 焼ける、ようにっ!! 刺さる、ようにっ!! いたいんだぁぁ……!! たっ、助けてくれぇぇぇぇ……!!」
ユベールによると命に別状は全くなく、実際同じような傷を負った臣下達は、すでに自力で護送用の馬車に乗り込んだ。なのにアンドレ様はこの世の終わりであるかのように叫び回り、涙を流し続けている。
「この手の輩は、『自分は打たれ弱い』と相場が決まっている。思った通りの性質を持っていたな」
「うん、そうだね。……私はずっと、こんな人に怯えていたんだね」
目の前にいる彼に、あの頃の面影はない。
ユベールのおかげで小さくなっていた存在が、更に小さくなった。すっかり、心の中からなくなった。私にとってアンドレは、泣き虫な子どもだ。
「死にたくなぃぃぃぃぃ……!! 痛い……!! 怖い……!! いやだぁぁぁ……!! いやだぁぁぁぁぁああああああ……!!」
「……ね、ユベール。もしかしてこれも、作戦の一つ? 私のために、やってくれたのかな?」
「いいや、予想外の出来事だ。だがそのおかげで直接『礼』ができたし、なにより、『アンドレ』となったんだ。多少は、この行動に感謝しないといけないな」
やっぱり、そうだった。
言われるまで全然気づいていなかったけど、私は無意識でアンドレ『様』と呼んでいた。それは心の奥底に、恐怖意識がある証で……。
ユベール、ありがとうございます。
「このままで失血死してしまうぅぅぅぅぅ……!! 太ももが腐ってしまう!! 千切れそうだ!! 早くっ!! 早くぅぅうう!! たすけてぇぇ!! 助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!」
「この者の治療は、行う必要はありません。そのままの状態で、連行をお願い致します」
「「「「「はっ。承知いたしました」」」」」」
治安機関の方々が敬礼で応じ、まるでゴミを扱うかのように――。アンドレは乱暴に抱え上がられ、護送用の馬車に放り込まれてしまった。
「だからぁぁっ!! 早くしないと死ぬぅぅ……!! おねがいだぁぁぁ……!! ちりょっ、治療をぉぉぉぉ……!! 手当をしてくれぇぇぇ……!! 血が出ているんだぁぁ……!! いたいんだぁぁぁあぁあああああああああああああ……!!」
彼は鉄格子に顔をめり込ませながら訴えるも、それに応じる人は誰もいない。
「たのむぅ……!! おっ、お願いしますっっ……!! いたいからあああ……!! だずげでぇぇぇぇぇぇ……!!」
ナルテウス侯爵家の当主・アンドレ。つい先日まで様々な悪事を働いていた、暴君。
そんな彼は今や幼児と化し、引き続き無様に泣き叫びながら連行されていったのでした――。
ユベールの狙撃によって、盛大に転んだアンドレ様。彼は門の付近でのた打ち回り、子どものように泣き叫んでいた。
「血が、とまらないぃぃ……!! 太ももがぁ……!! 焼ける、ようにっ!! 刺さる、ようにっ!! いたいんだぁぁ……!! たっ、助けてくれぇぇぇぇ……!!」
ユベールによると命に別状は全くなく、実際同じような傷を負った臣下達は、すでに自力で護送用の馬車に乗り込んだ。なのにアンドレ様はこの世の終わりであるかのように叫び回り、涙を流し続けている。
「この手の輩は、『自分は打たれ弱い』と相場が決まっている。思った通りの性質を持っていたな」
「うん、そうだね。……私はずっと、こんな人に怯えていたんだね」
目の前にいる彼に、あの頃の面影はない。
ユベールのおかげで小さくなっていた存在が、更に小さくなった。すっかり、心の中からなくなった。私にとってアンドレは、泣き虫な子どもだ。
「死にたくなぃぃぃぃぃ……!! 痛い……!! 怖い……!! いやだぁぁぁ……!! いやだぁぁぁぁぁああああああ……!!」
「……ね、ユベール。もしかしてこれも、作戦の一つ? 私のために、やってくれたのかな?」
「いいや、予想外の出来事だ。だがそのおかげで直接『礼』ができたし、なにより、『アンドレ』となったんだ。多少は、この行動に感謝しないといけないな」
やっぱり、そうだった。
言われるまで全然気づいていなかったけど、私は無意識でアンドレ『様』と呼んでいた。それは心の奥底に、恐怖意識がある証で……。
ユベール、ありがとうございます。
「このままで失血死してしまうぅぅぅぅぅ……!! 太ももが腐ってしまう!! 千切れそうだ!! 早くっ!! 早くぅぅうう!! たすけてぇぇ!! 助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!」
「この者の治療は、行う必要はありません。そのままの状態で、連行をお願い致します」
「「「「「はっ。承知いたしました」」」」」」
治安機関の方々が敬礼で応じ、まるでゴミを扱うかのように――。アンドレは乱暴に抱え上がられ、護送用の馬車に放り込まれてしまった。
「だからぁぁっ!! 早くしないと死ぬぅぅ……!! おねがいだぁぁぁ……!! ちりょっ、治療をぉぉぉぉ……!! 手当をしてくれぇぇぇ……!! 血が出ているんだぁぁ……!! いたいんだぁぁぁあぁあああああああああああああ……!!」
彼は鉄格子に顔をめり込ませながら訴えるも、それに応じる人は誰もいない。
「たのむぅ……!! おっ、お願いしますっっ……!! いたいからあああ……!! だずげでぇぇぇぇぇぇ……!!」
ナルテウス侯爵家の当主・アンドレ。つい先日まで様々な悪事を働いていた、暴君。
そんな彼は今や幼児と化し、引き続き無様に泣き叫びながら連行されていったのでした――。
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