上 下
27 / 43

第14話 対面 俯瞰視点(2)

しおりを挟む
「どうすれば? そんなもの決まっているだろうが! 邸内を開放し、オレが調べられる環境を整えればいいだけだ!!」

 やがて。4人しかいない応接室に、大声が響き渡りました。

「無礼にも貴様が遮ったオレの言葉、『しらを切るなら――』。その続きは、しらを切るなら強制的に動く。その気になれば、容易に実行できるんだぞ?」
「……ナルテウス卿。物証が皆無な状況での捜索および、所有者の同意を伴わない一方的な捜索。そちらは法に触れる、罪となってしまうものでございます」
「そうだな、だがそれがどうした? 目の前にいる男は、それしきのものでは縛れない。もう忘れてしまったのか?」

 あの日を思い出せ――。完膚なきまでにねじ伏せられた日を、思い出せ――。アンドレは嗜虐的に犬歯を覗かせ、鼻で笑いました。

「おまけにここは祖国、更にオレが力を発揮できる場所だ。なんなら殺害も――伯爵家次期当主の死亡さえも、闇に葬れるのだぞ?」

 アンドレ・ナルテウス。彼は己の力に酔いしれている男、その地位権力に絶対的な自信を持つ男でした。
 そのためふんぞり返ってしたり顔を浮かべ、ですが――。すぐに、その表情は一変します。なぜならば、

「『それしきのものでは縛れない』、それはなんとも恐ろしいことです。……なのに。法すらもいとも簡単にコントロールできてしまうのに、ベアトリスのコントロールはできなかったのですね」

 一笑。目の前の男が、嘲笑を浮かべたからです。

「仮にですよ。わたしが彼女を奪還しようとしていても、貴方様に魅力があれば彼女は拒絶をしますよね? 2年半経っても、この程度の関係のままとは……。一体どんな毎日を送られていたのでしょうかね」
「……貴様……!! 不敬で――」
「申し訳ございません。わたしは、思ったことが口に出やすい性質でして。つい、本音が出てしまいました」

 待ち望んでいた言葉を引き出した、ユベール。彼は敢えて、慇懃無礼な態度と発言を繰り返します。

「『どうだ? ベアトリスが離れてゆく事実が悔しいか? お前は、愛する女すらも守れないんだぞ?』『力を持たぬということはこういうことなのだ。恨むなら己の非力さを恨むんだなっ!』――。かつてそう豪語された方が、ベアトリスが離れてゆくのを止められなかった。自称持つ者な方が、2年半費やしても心変わりをさせられなかった。それは驚きを禁じ得ない事実でしたので、思わずそうなってしまいました」
「……………………」
「となると、彼女は今でもわたしを想ってくれていたのでしょうか? だとしたら、2年半隣に居続けても伯爵家の男を越えられなかった、となりますね? ……おや? 侯爵様も、大した存在ではないような……?」

 アンドレ・ナルテウスは、単純かつ直情的な男。一度火さえついてしまえば、ドンドン攻めても問題はない――。かつての接触で性質を理解しているユベールは更に焚き付け、その結果――

「はっはっは。はっはっはっは! …………ユベール。貴様には、地獄を味わわせてやろう!!」

 大笑いしたあと、絶叫。アンドレはまんまと、更に誘導されてしまったのでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...