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番外編その4 本当の家族として 俯瞰視点(1)

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「ごめん、マリエット。1時間~2時間ほど、カフェに寄り道をしてもいいかな?」

 マリエットと共に、リュシア邸を去ったあと――ドミニク、ノエラ、ミレーヌとの縁を切ったあとのこと。トリスタンが住む邸宅ロールド邸へと向かう馬車の中で、トリスタンは微苦笑を浮かべました。

「え……? あの、トリスタン様。なにか、トラブルがあったのでしょうか……?」

 出発後は即座にロールド邸に行き、トリスタンの両親への正式な挨拶やマリエットと侍女・キトリーの自室の準備などを行う予定となっておりました。
 そのためマリエットは目を瞬かせ、ですがすぐに、トリスタンは穏やかな表情で首を左右へと動かしました。

「悪い問題ではなくて、父上と母上がまだ戻ってきていないんだ。二人は『こういった時は、必ず迎えないといけない』『急用が済むまで待って欲しい』と仰られていて、熱心にお願いをされていたんだよ」
「そう、だったのですね。……トリスタンの父親と母親ディエス様、リーティル様。ありがたいお言葉です」

 婚約と結婚の報告を行った際、逡巡なしに頷いてくれた人達。『良い目をしている』『評判以上の素敵な瞳をお持ちね』と、言ってくれた人達。
 そんな2人の姿を思い出し、マリエットは南西――ロールド邸がある方角に身体を向け、深く腰を折り曲げました。

「折角ですので、キトリー様もいかがですか? 貴方さえよろしければ、同席をお願いしたいのですが」
「わっ、わたくしもでございますかっ!? わっ、わたくし如きがそのような――」
「貴方は最愛の人を支えてくれた、友人になりたいと強く願っている方です。貴方についても色々と知りたいと思っておりまして。今回は侍女ではなく友として、コーヒーや他愛もないお話に付き合ってはいただけないでしょうか?」

 トリスタンは柔らかく目を細め、主であるマリエットは目尻を下げて口元を緩めました。そのためキトリーは姿勢を正して顎を引き、トリスタンの従者ライアンを含めた4人でのお茶会が幕を開けました。

「キトリーさん・・。御趣味はなんですか?」
「わたくしは、歌の創作を趣味としております。絶対音感を有している事もありまして、就寝前によく作詞作曲を行っております」
「トリスタン様。キトリーは頭の中に楽器があって、実際に弾かなくても作れてしまうのですよ」
「へぇ、それはすごいね。実を言うと、ライアンにもそういった趣味があるんだよ」
「自分にも絶対音感が備わっているのですが、キトリー様のものはソレを遥かに上回るようです。お暇な時に、是非お話しを伺いたいですね」

 などなど。
 そうして4人で温かな時間を過ごし、笑顔が咲くひと時は2時間後に終了。また来ようと約束をして馬車に乗り込み、今度こそロールド邸に到着したのでした。

 そして――。もうまもなくマリエットは、とある光景を、目撃することとなるのでした――。

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