悪役?令嬢の矜持

柚木ゆず

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第11話 だって、わたくしの逆鱗に触れたんですもの(4)

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「そ、れは……。うそ、だよな……? 僕の罪を軽くする、ために……。悪者を、演じてくれている、だけ、なんだよな……?」
「ははっ、おめでたい男ね。……そんなわけないでしょ? そこまで尽くしたくなる魅力なんて、アンタにはないわよ」

 縋るような瞳を鼻で嗤い、もう一度平手打ち。言葉と態度で『真実だ』と実感させ、嫌味たらしく口角を吊り上げました。

「いい機会だから教えてあげるわ。真相をね」

 卒業までに一位を獲りたくて、サラを蹴落とす方法を考えていたこと。その時に偶然パーティーで見かけて、名案が閃いたこと。芝居をして近づき、ずっと操っていたこと。

『サラの婚約者』『侯爵家の嫡男』。
 ずっと、これ以外に長所はなにもないと思っていたこと。

 オドレイは台無しにされた憂さ晴らしとして、それらを事細かに説明しました。

「…………そんな。そんな……。あれは、ぜんぶ、うそだった……」
「ええそうね。ぜ~んぶうそ。サラの婚約者じゃなかったら見向きもしてないわよ。だって顔も性格も好みじゃない。せいせい30点の男なんだもの」
「…………ぁ、ぁぁ……。僕は、あんなにも愛していたのに……。ずっと裏切られていた……騙されていただなんて――」
「え? 私が『愛してください』って頼んだの? 頼んでないでしょ? まあ仕掛けたのは私だけど、心変わりをして愛を注いだのはそっちでしょ? 自分が勝手にやっていたコトなのに、なに見返りを求めてるのよ」

 それはまるで、路傍にあるゴミを見るような目。崩れ落ちたヘクターに、冷めきった瞳を注ぎました。

「私みたいなレディと親密な時間を過ごせたのだから、むしろアンタはもっと色々なものを捧げるべきだったのよ。なのに、これ。憎くて憎くて、この場で殺してやりたいくらいよ」

 崩れ落ちて四つん這いになったことで、床についていたヘクターの右の手。その甲をゆっくりと踏みつけ、それでも一切反応しなくなっている――心が完全に折れてしまったヘクターを見下ろし、ふんと鼻を鳴らしました。

「でもま、思った以上にダメージを受けているようだしね。特別に、これで終わりにしておいてあげるわ」

 最後にヘクターの足の甲を起点として回れ右を行い、

「さあ、もういいわよ。さっさと連れて行きなさいよ」

 まったく悪びれることなく、オドレイは連行されこの場から消えたのでした。
 そしてもう一人の犯人、残されたヘクターは――

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