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プロローグ 幸せ 幸せ? ジゼル・ジュリエリラ視点

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 私ジゼルは、世界で一番の幸せ者だと確信しています。こんなにも幸せな人間は、世界中のどこを探しても居ないと明言できます。
 なぜならば――

「そこのお前。お前は確か、ジュリエリラ伯爵家のジゼルと言っていたな?」

「ジゼル、お前を気に入った。俺のものになれ」

 それは今から1年前、とある舞踏会に参加した際のことでした。私はバフェテンス公爵家の嫡男であるコルベット様の目に留まり、このようなありがたいお言葉をいただいたからです。

「この瞬間からお前は俺の恋人で、近々婚約者となるんだ。文句はないよな? 喜んで快諾するよな?」
「はい、もちろんでございます……! コルベット様、私は貴方様のものとなります……!」

 私達は公爵家と伯爵家の人間であり、22歳と17爵――お家の爵位にも年齢にも差があり、ほぼ面識はありませんでした。私的な会話をさせていただいたことも、ありませんでした。

 ですがきっと、その堂々とした、自信に満ちたお姿に心を奪われたのだと思います。

 私は即座に頷きをお返しし、こうして私達の関係は始まりました。


「ジゼル、隣国から服を取り寄せたんだ。こいつらはなんと、一着110万もするんだぞ。どうだ、すごいだろ! 似合うだろっ!」
「はい……! すごいですね……! どれもお似合いでございます……!」

「どうだ、この景色は! こんな絶景、俺が連れて来てやらなければ絶対に目にはできなかったんだぞ。感謝しろよ」
「はいっ、はい……っ。コルベット様、痛み入ります……!」

「はぁ、なんなんだこの誕生日プレゼントは。手編みのマフラーなんて要らないんだよ。今度からはもっとマシなものにしろ」
「申し訳ございません……。肝に銘じておきます」
「婚約者なら、俺が喜びそうなものを想像できるようにしておけ。次はご機嫌を損ねるなよ、いいな?」


 バフェテンス邸でコルベット様によるファッションショーを拝見したり、領内にあるコルベット様がお好きな場所に連れていっていただいたり。至らぬ点があった際は、私のために厳しく叱ってくださったり。
 私は様々な形で愛をいただいているので、世界一の幸せ者だと確信しているのです。

「……ジゼル……。お前は、どうしてしまったのだ……? まさか、何かしらの弱みを握られているのか……?」
「あの時から――1年前から、ずっと無理をしているのよね? 相手が公爵家でも、なんとかするわ。だから、わたくし達に打ち明けて頂戴」
「お父様、お母様、私は無理などしてはいませんよ。心より、コルベット様をお慕いしております」

 イヴスお父様とレネーお母様はなぜか嫌々交際をしていると思われているようですが、そんなことがあるはずがありません。ですので今日も笑顔を浮かべながらバフェテンス邸へと向かうべく支度を行い、その準備が整いました

((…………どこにも、問題はありませんね。ではまいりましょう))

 少しでも変なところがあれば、コルベット様に申し訳ありません。なので自室にある姿見で最終確認をして、私は足早に部屋を――

「ねえ、そこの君。残念ながら、その考えは大間違い。君は、自分は世界一の幸せ者だと思い込まされているんだよ」

 ――足早に部屋を、出ようとしていた時でした。
 不意に背後から、知らない声が響いてきたのでした。

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